第三十一話 来訪
「こら、あんた達! だらしないわよ!! 引退したあたしに負けるなんて!!」
「か、勘弁してくださいよ! カーリーさん!」
「引退したとはいえ、あんたは元A級冒険者だろ?」
「元! ね。それに、A級止まりよ。上には上が居る。あたしなんかよりもっと強い連中はたくさんいるのよ!!」
リオントの冒険者ギルド。
そこにある訓練所で、多くの冒険者達がカーリーと戦い疲労していた。最初は、あのA級冒険者カーリーと戦える! と張り切っていたが、全員ダウン。
引退して十数年が経つのにも関わらず、その技の冴えは変わらない。いや、むしろ冴えわたっている。
現役冒険者数人を同時に相手をして、まったく疲れた様子がない。
「ね、ねえなんだかカーリーさん。生き生きしてない?」
「ああ。なんか若返ったか?」
「ま、まさか……元から若々しい人だったし」
「ほーら!! 次、挑んでくる奴はいないのかしらー!!」
学園が休みだと言うのに、体を休めることなく動き続けるカーリー。
「カーリー先輩。随分と張り切っていますね」
「あら、マルクス。まあね……最近体が熱くってねー」
「なら、休んだ方が良いのではないですか?」
「こういう時は、動いた方がいいのよ。どう? マルクスが相手してくれる?」
「ははは。僕は遠慮しますよ」
「残念。あ、そういえばアメリアちゃんは? 一緒だったわよね」
マルクスに誘いを断られたカーリーは、一息を入れる。
冒険者達も助かった……とホッと胸を撫でおろす。
「今は、飲み物でも飲んでゆっくりしているはずです。彼女は、人気者ですからね。それにしっかり者。一人でも大丈夫だと思いますよ」
「まあね。本当によくできた子よ。でも、甘えん坊なところもあるのよ?」
「そうなのですか? 僕には、そうは見えませんでしたが」
「あたしには、時々だけど。ヤミノやヴィオレットにはたくさん甘えてるのよ」
「想像できませんね……」
見た目の割にしっかりしているアメリア。
他の者達は、闇の炎の子供だから、普通の人とは違うから、しっかりしているんだと思っているが、それは勘違い。
親に。つまりヤミノやヴィオレットに褒めてもらいたくて頑張っているだけ。その結果、周囲からはしっかり者だと思われているだけ。中身はしっかりと子供なのだ。とはいえ、普通じゃないのは確かと言えよう。
「ところで、計画の方は順調?」
「はい。他のギルドも、鋼鉄の獣が現れた場合を試案しています。そこに、彼らの能力があれば」
「……とはいえ、まだまだ問題はあるわ」
いくらヤミノ達の力があるとはいえ、無限に使えるわけではない。
数で攻められれば、いずれ使い無くなり……。
「せめて、聖剣や魔剣が使える人が各地に一人はいないと」
「確かに、それは僕も考えましたが。現実的に無理がありますよ」
聖剣や魔剣の類は、素質のある選ばれし者にしか扱えないうえに剣自体の数も少ない。
大量生産をしたとしても、それは間に合わせ。
本当の剣と比べて、切れ味も耐久度も低い。すぐに壊れてしまう。
「そういえば、剣以外にも特殊な武器はあるのよね?」
「ありますよ。僕の知り合いに、魔槍を扱う冒険者が居ますよ」
「魔槍かー。あたしも欲しいー」
同じ槍使いとして羨ましく思うカーリーであった。
「た、大変だー!!!」
「なにかあったみたいですね」
「……行くわよ。マルクス」
・・・・
「―――本当に、湖の上で燃えてるんだな」
「おー、前来た時は見なかったが……これは、綺麗だな」
ようやく辿り着いた。
森の中にある拓けた場所。そこにある壮大な湖の中央に、周囲の緑より美しい色の炎が燃え上がっていた。
「さあ、ここからはお前の仕事だ」
「えっと、あそこまでは」
「我が湖を凍らせて道を作ろうではないか!」
そう言って魔力を練り上げるシャルルさんだったが。
「ま、待って」
ヴィオレットが止める。
刹那。
まるで共鳴しているかのように、ヴィオレットが紫に輝く。俺は、そっと地面に下ろす。
「炎の道?」
エメーラが誘っているのか。緑色の炎で作られた道が現れる。
「……行ってきます」
俺は、ヴィオレットと共に炎の道を歩く。
一歩、また一歩と近づくにつれて、彼女の……エメーラの温かさを感じる。
「ヴィオレット」
「うん」
手を伸ばせば届く距離まで来たところで、ヴィオレットを戻す。
「よし」
そして、あの時と同じく炎の中に飛び込んだ。
辿り着いた先は。
「炎できた木?」
緑の炎でできた木々が空間に広がっていた。
「って、ヴィオレット? その姿」
俺の中に居るはずのヴィオレットが、元の姿で隣に立っていたのに気づく。
「ここ、炎の中だから」
「……奥に居るみたいだな」
「うん。私も、感じる。エメーラは、この先に居る」
行こう、と頷き、進んでいく。
迷うことなどなく、ただただ真っすぐと木々で囲まれた道を進むこと数分。
「なに? 僕の自堕落ライフを邪魔しようっていうの? ……って、見知った気配だと思ったけど。あんた、ヴィオレットじゃんか」
なんかもじゃっとした緑毛の気怠そうな女性が、俺達を出迎えてくれた。