第二話 母親と家族紹介
「……よし」
俺は、身を隠し自宅へ向かっていた。
その理由はひとつ。
上半身裸の男が、シャツ一枚の少女を背負っている。こんな姿を見られたら、絶対変な噂をされる。
「パパ。どうして隠れてるの? わたし達悪いことしたの?」
「そうじゃない。なんていうか……俺とアメリアが一緒に居るのを見られたら大変なことに」
「わたし、パパと一緒に居ちゃだめなの?」
うぅ……そ、そんな悲しい声をしないでくれ。
「ち、違うんだ。ただなんていうか……」
「おい、大変だぞ!」
「っと」
一度身を隠し、様子を見る。
「闇の炎が消えたんだろ? いったいなにが」
「一夜にしてだろ? まさかもう世界に危機が?」
「おい、マジかよ。じゃあこの街に何か来るのか?」
やっぱり、あれだけ大きい炎が消えれば騒ぎになるよな。
「ママの話してるね」
「ああ……え? ママ?」
「うん」
じゃあ、やっぱりあの紫の闇の炎が……じょ、女性の方だったんだな。まさか炎に性別があるとは思わなかった。
でもまあ、なんとなく予想はできていたが。
「アメリア。ママは、今どこに?」
「パパと一緒に居るよ。わたしのことを生んで疲れちゃったみたいだから、まだ当分お話はできないと思うけど」
俺と一緒にか。じゃあ、あの馬鹿でかい炎が、俺の中に?
にわかには信じられないけど……。
(この子が、嘘をつくとは思えないんだよな。不思議と)
「あっ。人、いなくなったよパパ」
「よし。一気に行くぞアメリア」
「うん」
まだ早朝だったのが幸いして、見つかることなく自宅に帰ることができた。
「た、ただいまぁ……」
「ただいまー!」
「わー! アメリア、静かに」
「ヤミノ? ちょっと、あんたいったいどこに……って、どうしたの? 上半身裸で。それに、その娘誰?」
そっと裏口から入ったが、呆気なく母さんに見つかってしまう。
カーリー・ゴーマド。
昔は、世界中を旅して強者達と戦っていた女冒険者。槍一本でどんな敵をも貫き、薙ぎ倒してきた。今は、父さんと結婚をし現役を離れてしまっているが、冒険者時代の仲間が理事長をしている学園で戦闘教官をしている。
俺と同じ白銀の髪の毛を一本に纏め、鍛え上げられた筋肉はいまでも衰えず。まさに、女戦士と言う雰囲気がエプロン姿なのにひしひしと伝わってくる。
「あ、いやこの娘はですね」
「あんた……まさか」
「な、なんでしょう?」
「誘拐してきたんじゃないでしょうね?」
「ち、違う! 話せば色々と複雑っていうか。俺にもまだよくわかっていないっていうか」
それは本当だ。
簡潔に説明すれば、闇の炎に突っ込んで死んだと思ったら可愛い娘ができたましたー、だからな。こんなこと言っても絶対信じてくれない。
俺だって、そう思っている。
「パパ。この人が、パパのママなの?」
「……パパ?」
あ、これはもうだめかもしれない。
感じたことがない睨み。殺気のような圧に、言い訳をやめた。
・・・・
「―――で? 説明してくれる? ヤミノ」
「ああ、まったくだ。俺も、どう反応したらいいかわからないぞ」
「……」
案の定、家族会議が開かれた。
俺とアメリアが並び、正面には父さんのタッカルと母さんのカーリーが鬼気迫る顔で、俺を見詰めていた。
「その娘は……誰?」
「……娘、です」
「ほう。娘……で? 母親は? いつ生んだんだ?」
「は、母親はアメリアいわく俺の中で眠っていて。生んだのは、つい数十分前、です」
「真面目に答えてる?」
「はい。いたって真面目、です」
まるで尋問されているかのように、俺は父さんと母さんに質問攻めをされる。嘘はついていない。俺は事実を隠さず言っている。
とはいえ、絶対誰でもこんなこと信じられるはずがない。しかも、その母親が闇の炎だって言ったら。
「……アメリアちゃん、だったかしら」
「うん」
「本当にヤミノがパパなの? 誰かと間違っているんじゃない?」
俺の時とは違い、優しい声音でアメリアに問いかける母さん。
「ううん。間違ってないよ。わたしのパパはパパだけ」
そう言って、俺の腕に抱き着いてくる。
「アメリアちゃん。じゃあ、ママは誰なんだい?」
続いて父さんが、一番信じられないであろうことを問いかけた。
当然アメリアの答えは。
「ママはママだよ。今は、わたしを生んで疲れちゃって、パパの中でおやすみ中」
「う、うーん? おい、ヤミノ。どういうことだ」
「えっとですね。信じられないかもしれないけど、この子のママは闇の炎なんだ」
「おいおい、なに言ってるんだ? お前。闇の炎は女性じゃないだろ。確かに、一夜にして闇の炎は消えたが、それに関係しているのか?」
「俺にもまだよくわかっていないんだけど―――」
俺は、これまであったことを包み隠さず話した。
なんか心がすーっとなったので、ミュレットのことも。父さんと母さんなら、受け入れてくれると信じて。
そして、話し終えると。
「そうだったのか。王都から帰ってきたお前が、変だとは思っていたが」
「変わっちゃうものね、心って言うのは。あのミュレットちゃんが……」
「……」
「パパ。大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
あ、自然と頭を撫でてしまった。もう父親としての自覚が?
「本当に父親みたいね」
「ああ。親だからこそわかる。今のヤミノは父親だ」
え? わかっちゃうものなの? 凄いな親って。
「……まあいいわ。どうやら嘘は言っていないようだし。ね? タッカル」
「そうだな。しかし、まさかこんなにも早くお爺ちゃんになってしまうとは……まだ四十二歳だぞ?」
「なに言ってるの。この世には何百歳とか普通に超えている種族も居るのよ? 四十代なんてまだまだよ」
確かに。長寿の種族は多く存在している。代表的なのはエルフ族だな。俺より若そうに見える人でも、何百歳と超えているとかざらにあるらしいし。
会ったことはないけど。
「にしても、お前。体は大丈夫なのか? 本当に闇の炎に突っ込んで、更に体内に宿しているって」
「今のところ異常はないけど。アメリア、なにかわかるか?」
「大丈夫だよ、パパ。ママは、パパの味方。絶対裏切らないから。もちろんわたしも」
「そっか。それなら良いんだけど。でも、どうしたらいいんだろうな。まだ街大騒ぎしてるだろ? 突然闇の炎が消えて」
窓から外を見ても、慌てている者達が多く見受けられる。
そもそも、街ひとつの騒ぎじゃ収まらないはずだ。いずれは、世界にも広まるはず。なにせ謎だらけの闇の炎が突然一夜にして消えたんだから。
「その辺りは、おいおい考えましょう。今は、朝ごはん! アメリアちゃんも食べるわよね?」
「うん。食べる!」
「すぐできるから待っててね。ほら、ヤミノ。あんたの古着でいいからちゃんとした服を着せて来なさい。パパなんでしょ?」
「は、はい!!」