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第二十八話 あの頃とは違う

 ヤミノ達が、フォレントリアへ向かった後。

 そんな中、アメリアは冒険者ギルドにて、ギルドマスターマルクスと共に各地の冒険者ギルドへ今後の計画の件について話し合っていた。

 空間移動の力と冒険者ギルドの情報収集能力を使い、鋼鉄の獣に対して迅速な対応をするために。

 

「―――では、また進展がありましたら。連絡します」


 話を終えたマルクスは、ふうっと一息入れながら、机に置いてある円柱型の魔道具のスイッチを切る。

 本来、遠話魔法は遠方の者と会話ができる特殊な魔法。

 そして、一対一でしか会話ができない。

 だが、最近になって天才発明家を名乗る謎の人物が、各地に魔道具をばら撒き始めたのだ。


 いったいどんな目的で、なぜ無償で魔道具をばら撒いたのか。

 そして、その発明家はどこに居るのか。

 ここ数年、世界中で捜査が続いているが、まったく進展がない。だが、魔道具の力は本物。その中でも、マルクスも使っている円柱型の魔道具。


 これは、一対一でしか会話ができない遠話魔法を複数人で会話ができるようにできるのだ。

 使い方は簡単。

 予め会話をしたい者の魔力を魔石に注ぎ込み登録する。そうすることで、魔道具を通じて最大五人までなら同時に会話ができる。


 ちなみに魔道具の名前はたくさん喋ろうぜくん。

 

「大丈夫? マルクスさん」

「ああ、大丈夫だよ。アメリアちゃん。今回の計画は、歴史に残る最大級の計画だからね。それに、計画の鍵である一番大変なのは、君達だ。それに、これぐらいの疲労はいつものことだよ」


 そう言って、マルクスは紅茶を嗜む。


「ところで、アメリアちゃん。今日は、ヤミノくん達とは一緒じゃないんだね。確か、シャルル学園長と一緒にフォレントリアへ行くと聞いたけど」

「うん。本当はいつでも一緒に居たいけど、もしものために残ったの」

「もしも……この街に鋼鉄の獣が現れるかもしれない、てことだね」


 マルクスの言葉に、アメリアは頷く。

 

「今のところ、同じ場所に現れたという情報はない。けど、それも時間の問題かもしれないね」

「でも、ちょっと不安なの」

「不安? 君の強さなら、もう証明されたはずだが。うちの冒険者達も驚愕の一言だったみたいだ」


 鋼鉄の獣が出た場合は、自分が倒すと言う宣言に冒険者達も含め、多くの大人達が驚き反対した。

 だが、目の前で強さを示した瞬間。

 見た者達にアメリアならできるという信頼を芽生えさせたのだ。当然、マルクスもその場でアメリアの強さを確認していたので、今の発言に少し疑問を浮かべる。


「……わたしは、元々パパやママのサポート役なの。だから、攻撃はあまり得意じゃない」

「あれで、得意じゃないとは……」


 マルクスの脳裏に浮かぶのは、凄腕の冒険者達を触れることなく戦闘不能にさせたありえない光景。

 その場から一歩も動かず、紫炎の矢で動きを封じ、降参させた。

 可愛い容姿からは想像できない強さに、今でも苦笑いをしてしまう。


「それに、まだ完全じゃないから」

「完全じゃない?」



・・・・



「カーリー教官!!」

「あら? あんた達。どうしたの? 今、次の訓練メニューを考えているところなんだけど」


 リオント戦術学園。

 そこは、ありとあらゆる戦いの術、知識を教える学び舎。学園長であるシャルル・フォースクが、旅の間に出会い、信頼を築いた者達を中心に日々、生徒達と青春を謳歌している。

 そんなシャルルが信頼している者の一人、カーリー・ゴーマドは一学年を担当する教官の一人。

 今日も、訓練メニューを心地よい日差しと風を感じながら考えていると、教え子達が駆け寄ってきた。


「あの噂、本当なんですか!?」

「噂? あー、もしかしてヤミノのこと?」


 一番気にしている魔法使いの少女セナの問いに、カーリーはすぐ察する。


「そう! あの時、鋼鉄の獣を二人で追い払ってって言ってましたけど。本当はヤミノさんが、一人で倒したとか!」


 興奮した様子のセナの言葉を聞き、あの時のことを思いだすカーリー。

 

「しかも、一夜にして突然消えた闇の炎。それをヤミノさんが、身に宿しているんですよね?」


 落ち着いているが、いつもより声は高いアルス。


「しかも、その闇の炎は嫁で、子供も居るってマジなんですか?」


 最後に、ビッツがいつも通りの様子で問いかけてくる。

 この三人は、以前ヤミノと共に行動を共にし、鋼鉄の獣とも遭遇した。あの時は、カーリーに秘密にしておくようにときつく言われていたが、今やそれも意味をなさない。

 

「ええ。全部本当よ」

「マジだったのか……」

「僕は、一度街に出た時に娘さんを見たけど……どう見ても十歳ぐらいに見えたけど」

「いや、話では生んだと言うより作られたって言う感じだぞ」

「確か、ヤミノさんって十八歳でしたよね? そして娘さんは十歳ぐらい……ふ、普通に考えたら一桁の時の子供ってこと!?」

「あははは。そうなるのかしらね」


 教え子達との会話を楽しみながら、カーリーは空を見上げる。

 突然、息子に娘ができたと言われたあの時。

 本当に驚いた。

 その後に、闇の炎を身に宿した。嫁が闇の炎だ。


(本当、驚かない時がないぐらい……)

「で? 今、ヤミノさんは何をやってるんですか? カーリー教官」

「そうね……新しい家族に会いに、かしら」


 カーリーの発言に、三人は目を見開く。


「え? そ、それって」

「話の流れ的に、他の闇の炎のところへ行ったってことなんだろうけど」

「家族になるの決定なんですか!?」

「さあ、どうなのかしらね。本人は、そうなるとは限らない! て言っていたけど」


 だが、それでもカーリーはなるんじゃないかと思っている。

 今のヤミノは、本当に生き生きとしていて、幸せそうだ。 

 冒険者を引退し、結婚して、子供ができて。友人から、いい働き口を紹介されて幸せな日々を過ごしていた。

 だけど、昔と比べればどこか気抜けをしている。

 昔は、もっとどこまでも強くなりたい。誰にも負けられない。ただただ強さを求めていた。


 今の生活がだめというわけではない。ただ……あの時、鋼鉄の獣と対峙して、久しぶりに感じた高揚感、緊張感。あぁ、自分はまだ昔を忘れていなかったんだと実感した。

 そして、極めつけにヤミノの圧倒的な力。

 それを目の当たりにしてから、教え子達への訓練と平行して個人の訓練メニューを考えるようになった。


(なんでかしらね……もう昔のようにやんちゃできる歳でもないのに。夫も、息子も居て、命を大事にしなくちゃならないのに。この沸き上がる熱……)

「教官? どうしたんですか?」


 ずいっと顔を近づけ様子を伺ってくるセナ。

 カーリーは、なんでもないわと軽く返事をし、訓練メニュー作りに再び取り掛かった。

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