第二十六話 美人なエルフ達
「で? 守り神様を……どうするつもりだ?」
まだ森には入れない。
俺とシャルルさんは、森の外に。ファリーさんとフェリーさんは、森で。まるで境界線があるかのような状態で会話が始まる。
「まずは、見てみたい。そして、話してみたい」
「話す、だと? それはつまりそこの小人のようになれるのか?」
「それはまだわかりません」
「……」
やっぱり信用できない、だろうな。
「ふぁ、ファリー。悪い人、じゃないと思うよ」
「フェリーの奴は、エルフの中でも数少ない特殊な目を持っているんだ。見ただけで、悪いやつかどうか見抜ける」
「凄いですね。それは」
見た目だけで判断するのは中々難しいものだ。
「的中率は保証するぞ、なあ? ファリー」
「……ああ。フェリーの目は信用できる」
「では」
「だが! 私は、信用しない!!」
くっ、なかなかどうして警戒心が高い。
どうしようかと再び思考すると、ファリーさんは踵を返す。
「ファリーさん?」
「もし、お前達が悪だと判断したら、即座に命を狩る。それを肝に銘じておけ」
「あ、ありがとうございます!!」
「はーっはっはっは!! ファリーは、相変わらず素直ではないな!! そんなしかめっ面ばかりだと可愛い顔が台無しだぞ!!」
「うるさい。無駄口を叩いていないで、さっさと来い」
とりあえずは、森には入れるようだな。
とはいえ、行動ひとつひとつを観察されるのが確実。
「ど、どうぞ」
「うむ! あ、尻尾もふるか? フェリー」
「もふります~。はわ~」
ファリーさんと違って、フェリーさんはそこまで人間嫌いではなさそうだけど。シャルルさんとも仲がいいみたいだし。
「なにをしている。さっさと来い」
「は、はい!!」
「怒るな怒るな。少し余裕を持て」
「はわ~」
「妹のようにな」
「え? 妹?」
そう言ったところで、口を噤む。
しかし、遅かったようで何か言いたそうだな? とファリーさんがこちらを睨んでいた。
「くっくっく。ついでに言うが、ファリーは」
ふぁ、ファリーは?
「男だぞ」
「……」
長寿の種族ってやっぱり凄いな。
「ふん。女と思われるのも、フェリーより年下だと思われるのも慣れている」
「そういう割には、顔が不機嫌そうだがな」
「気のせいだ」
「はわ~、もふもふ~」
顔見知り同士だからこその対話。
そういう空間に、俺は割り込むことなどできずただただ黙っていた。それからは、ファリーさんの案内で森の中を進む。
外からでもその凄さは伝わってきたが、中を歩くと木々の壮大さがヒシヒシと伝わってくる。
植物も、なんとなくだが生き生きしているように見える。
「……」
「えっと、どうかしましたか? フェリーさん」
「ぴゃ!? あ、いえ……」
横を歩くフェリーさんの視線が気になり、問いかけるもこちらを……いや、正確にはヴィオレットをちらちらと見るだけで、何も言ってこない。
「フェリーは、可愛いものが大好きなのだ。おそらくヴィオレットを抱いてみたいのではないか?」
「わ、私?」
「そそそそんな恐れ多い! 守り神様と同格のお方を抱くだなんて!! わ、私はただ自分より大きい女性を見たのが初めてだったのでその……」
「はーっはっはっは!! 確かに、フェリーは男から見ても大きい方だからな」
確かに、俺から見ても大きい。
俺の身長が百八十七だから、見た感じ百八十以上なのは確実だ。
まあ、ヴィオレットはそれ以上なんだが。
「私なら、いいよ」
「え?」
「いいのか? ヴィオレット」
「う、うん。信用、してもらいたいから」
ヴィオレットが自分からこういうなんて。
ヴィオレットの発言に、戸惑っているフェリーさん。
「大丈夫だそうです」
一度立ち止まり、ヴィオレットさんを足元に下ろす。
ちょこちょことフェリーさんへと近づき、静かに見上げる。
「い、いいのでしょうか?」
抱きたいけど、恐れ多い。けど抱いてみたい。そんな葛藤をしているのか。表情がふにゃりとしながら、一歩引きながら問いかけるフェリーさん。
「本人が良いと言っているのだ。遠慮などするな。我も抱いてみたが、ほんのりと温かい抱き心地だったぞ」
「……で、では失礼します」
シャルルさんの一押しに、フェリーさんはようやく一歩踏み出す。
そっと、壊れ物を扱うように両脇に手を入れ抱き上げる。
「……はわ~。本当に温かいですね~」
まるでぬいぐるみを抱くかのように頭に顔をすりすりと押し付ける。
その後は、若干あった壁を乗り越え、道中フェリーさんとは世間話で盛り上がった。
とはいえ、ファリーさんとは全然なのだが。
フェリーさんは、元々壁が薄かったからすぐ仲良くなれた。しかし、ファリーさんは今まで会った誰よりも壁が厚い。
シャルルさんは、どうやって仲良く? なれたんだろうか。