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第二十五話 狐さんと森へ

「はあ!」

「っと! さっきのは中々よかったわよ! ヤミノ!」

「パパ頑張れー!」

「が、頑張れー」


 いつもの訓練。

 基本的に一人でやっていたが、昔のように今は母が相手をしてくれている。自宅の裏で、自家製の木剣や長棒で朝から打ち合っている。


「そういえば、あんた。シャルルと一緒に南西の森へ行くのよね?」


 訓練を終え、心地よい風を感じながら母さんは俺に問いかける。

 そう。

 あれから、シャルルさんと話し合った。

 すると、南西の森に住み着いているエルフと知り合いだということがわかった。シャルルさんは。


「我に任せよ!!」


 と胸を張って言った。

 そういうことなら迅速に行動しなければと、シャルルさんの予定に合わせて一緒に南西の森へ行くこととなった。


「うん。まさかの繋がりで驚いてる。母さんは知ってた?」

「知らなかったわ。シャルルは、付き合いの長いあたしでも知らないことが多いから」

「ところで……今日は、本当にシャルルさんいいのか?」


 この前のことを考えると、また仕事があるのにサボって行くんじゃないかと。

 心配で、母さんに聞くと。


「安心しなさい。今回は、やらなくちゃならない仕事をしっかり終わらせているから」

「それはよかった」

「さて、それじゃあ時間までもう少しやるわよ。ヤミノ!」

「気合い入ってるな、母さん」


 すっと立ち上がり、その場でくるくると長棒を回す母さん。


「もしものためよ。あんた達が居ない間に、鋼鉄の獣が現れた場合。来るまでの時間稼ぎはしないとね」

「……無理だけはしないでくれよ」

「心配してくれてありがとう。まあ、死なないために鍛え直しているのよ」


 その後、俺は一時間に渡り訓練を続けた。

 約束の時間が刻々と迫る中、俺も強くなるために。

 訓練が終わったら、汗を流し、新しい服に着替えてからシャルルさんのところへ。


「やあ、ヤミノくん! 待っていたよ!!」


 集合場所である南側の門へ向かうと、すでにシャルルさんが到着していた。


「お待たせしました。シャルルさん。早いですね」

「まあね。それで、普通なら森までは馬車でも三日はかかる。けど」


 じっとシャルルさんは、俺達を見る。


「君達の力があれば一瞬で近くまで行けるんだろ?」

「はい。一度行った場所なら一瞬です」

「ん? じゃあ、無理じゃないのか?」

「大丈夫だよ、シャルルさん。ちょっと頭に触って良い?」

「ああ、いいとも」


 アメリアは、そっとシャルルの頭に触れる。

 次の瞬間。

 足元に炎の円が出現する。


「誰かが一度行っていれば、こうやって空間を繋げることができるんだよ」

「おお! 便利だな。……おや? アメリアちゃんは、一緒に行かないのか?」


 空間移動の円から、アメリアはぴょんっと離れる。


「うん。もしもの時のために、わたしは街に残ることにしたの」

「俺達も、空間移動は一応使えますから」


 まあ、力加減がまだあれだから。鋼鉄の獣とか、その他の強敵が現れないことを……いや、行くところが行くところだからな。

 うん、頑張ろう。


「移動先は、森の手前だから。気を付けてねパパ、ママ。シャルルさん」

「ああ。それじゃあ、行ってきます!」

「い、行ってきます」

「行ってくるぞー!!」


 アメリアに見送られ、俺達は空間を転移する。

 

「……おお! 確かに、見覚えのある景色だ!! 見ろ!! あれが、目的地の森。その名をフォレントリアと言う!!」

「あれが」

「大きい……」


 転移した先は、よくある草原。しかし、正面には俺が知っているのよりも格段に大きい木々が生い茂る森が見える。

 あそこが、緑色の闇の炎エメーラがある森……フォレントリアか。

 さすがに、ここからじゃ見えないな。

 

「闇の炎があるのは、森の中心だ」

「……感じる。ヴィオレットとは違う闇の炎の力を」

「うん。この感じ……エメーラで間違い、ない」


 どこか嬉しそうなヴィオレットを見てから、再び正面を向く。


「行きましょう」

「うむ。なに、森に入ろうとしたら確実に奴らが現れるだろうが。そこは我に任せよ!!」

「頼りにしています、シャルルさん」

「はーっはっはっはっは!! 任せよ! 任せよ!!」


 上機嫌なシャルルさんは、ついて来いとばかりに先に進む。

 そして、森の中に入るか入らないかの距離まで来ると。


「待て! そこの二人!!」

「お? 来たようだな」


 森の中から甲高い声が響き渡る。

 幼い……子供? いや、相手はエルフだ。声が幼いからって年下とは限らない。

 

「この森に入ることは許さない! 早々に立ち去るがいい!!」

「硬いことを言うな! ファリー!! 我だ!! シャルルだ!! フェリーも居るのだろう!!」


 ファリーにフェリー。

 その二人が、シャルルさんの知り合いということか。呼びかけてから、一分ほどが経ち、森の中から二つの影が出てくる。


「……何の用だ?」


 まず出てきたのは、金髪ポニーテールのエルフ。背は低く、シャルルさんよりは高いだろうか? 声の通り顔も、体型も若干幼く見える。

 へそを出しており、肌にぴったり張り付く衣装を身に纏い、その上からマントのようなものは羽織っている。手には弓矢を持っており、歓迎ムードではないのは確実と言える。


「久しぶりに再会したというのに、敵意剥き出しとは。可愛い顔が台無しだぞ? ファリー」

「私が、お前のことを好きだとでも?」

「いや、思っていない!」

「だろうな。私もだ」

「気が合うではないか! はーっはっはっは!!!」


 そんなことで気が合っちゃだめでしょ、シャルルさん。

 知り合いと言っても、完全に不仲。

 これ、大丈夫なのか? 大丈夫なんですよね? シャルルさん。


「フェリー! いつまで隠れているつもりだ! 前みたいに尻尾をもふもふしてもいいんだぞ!!」

「あ、う……でも」


 もうひとつの影は、大きい。

 金髪のツインテールで、背はファリーよりも……俺と同じぐらいか? 気の弱い長身女性……。


「……な、なに?」


 思わず抱きかかえているヴィオレットを見てしまった。


「シャルルさん」

「ん? ああ、そうだな。挨拶もこれぐらいにして本題に入ろう。聞け! 森を守りしエルフ達!! 我らは、この森にある闇の炎を求めてやってきた!!」


 先ほどまでのふんわりした雰囲気から一変。

 シャルルさんは、向けられる敵意に屈せず堂々と喋り出す。


「お前達も、噂ぐらいは聞いているんじゃないか? 見るがいい! ここにいる青年を!! 彼こそ、闇の炎をその身に宿し、操ることができる存在!! 名を、ヤミノと言う!!」

「あいつが……」

「ほ、本当に居たんだ」


 うぅ、なんだか壮大に紹介されるとむずむずする。


「そして、そのヤミノが抱いている小人! 彼女は、ここフォレントリアにある闇の炎とは別の炎にして化身!! 名を、ヴィオレットと言う!!」

「……むにゅう」

「もう一度言う! 聞け! 森を守りしエルフ達!! 我らは、この森にある闇の炎を求めてやってきた!! 彼らの行動は、今後世界に大きく影響を与えよう! 今、世間を騒がせている鋼鉄の獣! そやつに対抗するために!! まずは話を聞いてほしい!! ……ん」


 え? な、なんですか。その後は任せた的なやつは。

 ……いやでも、ここは俺達がいかないと。


「……話を聞いてくれませんか? お願いします!!」


 短く、それでいて本気の意思を込め、頭を深々と下げる。

 すると、ヴィオレットが元の姿になって一緒に頭を下げてくれた。


「……」


 沈黙が続く。

 ファリーさんはずっと俺達を睨むように見詰めており、フェリーさんは心配そうに俺達を交互に見ている。


「……話してみろ」

「ありがとうございます!!」

 

 どうやら最初の難関は突破できたようだ。……よかったぁ。

 

「ふう……」

「っと、ありがとう。一緒に頭を下げてくれて」

「えへへ」


 安心したところでヴィオレットはミニサイズになる。さあ、次は……。

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