第二十四話 新たな闇の炎を求めて
「……」
シャルルさんから貰ったのは、炎を形としたブレスレット。五つの炎玉にはちゃんと意味があり、仙狐族は、そのブレスレットを使って炎の操作の訓練をするようだ。
静かに、炎エネルギーを高める。
すると、ブレスレットの炎玉が徐々に輝く。そう、ブレスレットにある炎玉は発現できる炎のエネルギー量を示している。
「まずは一つ分!」
炎玉が完全にひとつ輝いた瞬間。
俺は、ぐっと力を入れ闇の炎を手のひらに生み出す。
「よし。次は、二つ分」
こうやって、徐々に慣らしていく。
そうすれば、自在に炎を操れるようになるんだそうだ。
「いやぁ、未知数の炎だから我らの修行方法でうまくいくか不安であったが、うまくいっているようで安心した! はーっはっはっはっは!!」
「これなら、すぐに自由自在に炎を操れるようになるね。頑張れー! パパー!!」
初めて会ってから数日。
毎日のように、俺のところに訪れるシャルルさん。
アメリアも、いやヴィオレットも、彼女の尻尾がかなり気に入ったらしく、よくもふもふしている。
「あの、シャルルさん?」
「んー? どうかしたか、ヤミノくん」
「学園の方は良いんですか? シャルルさん、学園長じゃ」
修行を見てくれるのは、嬉しい。
だが、彼女にも立場と言うものがある。
「なに、気にするな。友人の息子のためだ。忙しくとも、我は!!」
「こーら、シャルルー?」
「ぴょっ!?」
あ、母さん。
……あー、まあうん。母さんの様子を見て理解できた。
「どどど、どうしたのだ? カーリー! お前、そろそろ仕事の時間じゃ」
「それは、あんたもでしょ? また学園を抜け出して……」
やっぱりそうだったんだ。
槍を持って、にこにこと笑顔のまま怒っている母さんに恐怖し、アメリアの後ろに隠れてしまうシャルルさん。
「ち、違うぞ! 我は、お前の息子のために仕事を投げ出して」
「うちの息子なら、大丈夫。これをやれと言ったらすぐできちゃいますから。ほら、学園長。さっさと戻って溜まった仕事をしてもらいますよ?」
「カーリー教官! 今は、世界を守るためにヤミノくんに協力をすることが最優先! 書類仕事など後で」
「だめです」
「やめろー! 我、文字を見るだけで頭が痛くなるのだー!!」
無慈悲にも、シャルルさんは母さんに連れて行かれてしまう。
俺は唖然としている中、アメリアは笑顔で手を振っている。
「そ、そうだ! ヤミノくん!!!」
「え? あ、はい! なんでしょう!!」
連れて行かれる中、シャルルさんは必死に叫ぶ。
「君は、闇の炎を信仰するエルフの森へ行くと聞いたが!!」
そう。俺は、ヴィオレットと話し合った結果。
緑の闇の炎。エメーラに会いに行こうと決めた。しかし、問題はその森に住むエルフ達。俺が闇の炎を操れる存在だと伝わっていれば、多少は話し合いの余地ができると思っている。
伝わっていなくても、出会った時に説明をするつもりだ。
「その件だが、我が協力できる!!」
「え?」
「また落ち着いた時に、話し合おうー!!!」
「わ、わかりましたー!!」
・・・・
リオントから南西へ進むと巨大な木々が生い茂る森がある。
そこは、緑色に燃える闇の炎が存在する。
巨大な湖の上で、神々しく燃え盛る炎。
その闇の炎を、森の守り神と称え、守る者達が居る。
森の妖精。森の番人。森に住む者。
自然を愛し、共に生きる種族。
美しい容姿、何百年経っても変わらない姿……エルフ族。
「ファリー」
「フェリーか。なにかあったのか?」
そんなエルフ族は、今日も森中を駆け巡り、森を守っている。
「ううん、特になにかあったわけじゃないの。ただ気になる話を森の傍を通りかかった人間達が言っていたの」
美しい金色の髪の毛を二本に纏めたエルフ……フェリーは、太い木の枝に腰掛けて話し出す。
いつものように森の周辺を警備していたところ、荷馬車を引く人間達を発見。
警戒をしつつ、耳を傾けていたところ気になる情報を得た。
その情報を、金色の髪の毛を後頭部で一本に纏めたエルフ……ファリーは聞くと眉を潜める。
「にわかには信じられないな」
「ど、どうしよう。もしかしたら、その人間が炎を求めてこの森に来るんじゃ」
「可能性としては高いだろう。鋼鉄の獣の話は、この森にも届いている。もちろん勇者達のことも」
ファリーは、その場で弓の弦を弾き、立っていた木から飛び降りる。
「フェリー。他の者達にも、伝えておくんだ」
「そ、その人間が来ることを?」
ファリーに続き、木から飛び降りたフェリーは首を傾げる。
「それももちろんだが。最近、守り神様の様子がおかしいように感じる」
「え? 守り神様。もしかしてご病気に!?」
「馬鹿なことを言うな。……ただの思い過ごしなら良いんだが」
自分が感じた違和感に半信半疑なファリー。
だが、ずっと森の中で過ごし、見守ってきた。
ゆえに、今まで感じたことがない違和感……森の外の変化もあいまって、警戒心は自然と高まる。
「フェリー! 何をしている! 早く皆に伝えるんだ!」
「ふぁ、ファリーは?」
「私は、守り神様のところへ行く」
いいな? と念押し、ファリーは足早にその場から去る。
何が起こるのか。
変化し続けている現状では、予測はできない。だが、それでも自分達がやることは決まっている。
(誰が来ようと、私達はこの森を……守り神様を!)