第二十三話 炎の使い方
闇の炎は確かに強力な力だ。
鋼鉄の獣を倒せるほどに。
ただ今の状態だと、一度使っただけでかなりの力を消費する。ヴィオレットの力は元々燃費が悪いうえに空間操作という便利な能力もある。
だから、今は少しでも炎の力を抑える戦いを。
そして、あくまで闇の炎は鋼鉄の獣を倒すために。
敵は、鋼鉄の獣だけじゃないんだ。
「……」
ヴィオレットの指導の下、俺は元々闇の炎があった大地で特訓していた。
長年闇の炎が燃えていた大地。
そこには、力を使えばより練度が上がるかもしれないと。
「くっ!?」
今やっているのは、火力の調整。
だが、うまく調整できず王都で放った時と同じぐらいの炎が出てしまう。
「……ふう。やっぱり難しいな」
これまで闇の炎を使ったのは二回。
そのどちらもアメリアが火力を調整してくれていた。
それが、一人でやろうとすれば極端に小さかったり、大きかったり。どれほどアメリアの力が凄かったか実感できる。
「けど、ヴィオレットの言う通り。ここは、炎をより敏感に感じれる気がする」
そういえば、この地で俺はヴィオレットと一体化し、アメリアを生んだ。
まだ炎の力が残っているせいか。
草木は一本も生えていない。
「よし。もう一度!」
日々訓練。
昔と全然変わらないが、訓練の仕方や苦労が違う。普通の訓練と違い、炎を操る訓練は疲労感が桁違いだ。
火力が高ければ高いほど、疲労感は増す。
今は、炎の力が充満している地で訓練をしているから、まだマシだけど。そうじゃない場所だったら、比ではないだろう。
「おー、やってるわね」
「母さん。アメリアも」
「パパ。お昼持ってきたよ」
アメリアは、すっかり街に馴染んだ。
元々とてもいい子だからか、色んな人達に可愛がられている。特に可愛がっているのは、母さんなんだけど。
今日も仲良く手を繋いで、俺のところに訪れた。
「どう? 訓練の方は」
「……ちょっと苦戦中」
「ママの炎は扱いが難しいからね」
「私も、頑張っているんだけど……やっぱり力の制御、苦手」
実体化したヴィオレットは、自分の不甲斐なさに少ししょんぼりしている。
「その分、凄い力を持っているんだ。俺と一緒に制御できるように頑張ろう。ヴィオレット」
「ヤミノ……」
とはいえ、悠長にはしてられない。
またいつ鋼鉄の獣が現れるか……。
「そんなあんた達に、紹介した人がいるわ!」
「紹介したい人?」
「だ、だれ?」
この流れだと、炎の制御に関係する人ってことだよな。
ということは、炎系統の魔法を得意とする魔法使いってところか?
「我だ!!」
「……子供?」
母さんの後ろから出てきたのは、白髪の子供。
リオントでは見たことがない気がするが。
「こら、もう偽装は良いんだってば」
「おっと、そうであったな。では、指パッチン!」
母さんと友達のような雰囲気で話していた白髪の子供は、おもむろに指を擦る。
すると、キラキラと青白い粒子が散り、姿を変える。
「初めまして! 我の名は、シャルル・フォースク!! 知っていると思うが、リオント戦術学園の学園長をしている!! まあ、君のことは一方的に知っているのだがな!! はーっはっはっはっは!!」
やたらと元気な狐っ娘。
なぜかリオント戦術学園の制服を着ているが……まさかシャルル学園長が来るなんて。
本当に母さんは、凄い人の知り合い多すぎるだろ。
「は、初めまして。ヤミノです」
「そう畏まるな。今日は、友の頼みで馳せ参じたのだ。息子の手助けをしてくれとな!」
「シャルル達仙狐族は、炎を操る術に長けているのよ」
「まあ、我は炎以外も操れるがな!!」
「はいはい」
なんとなく二人の関係性が見えてきた気がする。
それにしても、凄い助っ人だ。
「さてさて……ほうほう」
突然、シャルルさんはヴィオレットを舐めるように観察する。
「とんでもない炎の意思を感じる。さすが闇の炎の化身と言ったところ。とはいえ、まだ完全ではない。これならここで燃え続けていた時の方が断然強い炎の意思があった」
そのまま、アメリアへと近づき……自分の尻尾をふりふりと見せ付ける。
「もふもふ~」
釣られてしまったアメリアは、本当に心地よさそうにシャルルさんの尻尾に抱き着く。
「話を聞いた限り、この子を生み出す時に力を使い過ぎたようだな」
「うぅ……そ、その通り」
「だが、徐々に回復しているのだろう? 今どれくらいなのか見せてくれないか?」
「は、はい」
シャルルさんに言われ、俺はヴィオレットと一体化し、炎を生み出す。
「おお! 本当に紫色とは! 火力も申し分ない。が、駄々洩れと言ったところか。それじゃあ、すぐに力尽きてしまうぞ!」
「お、おっしゃる通りです……」
「ヤミノ。これを使って見るといい」
そう言って渡してきたのは。