第二十話 目的のために
今後の方針が決まって、俺はヴィオレットと話し合った。
まずは、どの闇の炎に会うべきかと。
俺が住み街リオントから一番近いのは、南西の方角に向かった先にある森林地帯。そこにある巨大な湖の上に緑色の闇の炎が燃えているそうだ。
けど、その森林地帯は森の番人と呼ばれるエルフ族の縄張り。
そして、エルフ族にとってその闇の炎は、森の守り神と呼ばれているとか。リオントにあった闇の炎。つまりヴィオレットとは違い、何もない大地に命を与え、今の森林地帯になったそうだ。しかし、事実かどうか。そこに住みついているエルフが勝手に言っていることかもしれないと、ほとんどの者達が言っている。
他の確認されている闇の炎も、色々と違うようで。
中には、ヴィオレットのように完全に放置状態のもあれば、許可なければ入れないような場所にもある。
「ちなみにその闇の炎の名前はなんていうんだ?」
「え、エメーラ」
「エメーラか……その、どんな人なんだ?」
「優しくて、世話好き……」
ふむ。何もない大地に命を吹き込んだという闇の炎。
いや、本当に闇なのか?
どう考えても、光の炎にしか思えないな。
「ヴィオレットにとっても安心できる相手みたいだし。会ってみたいけど……エルフ族がなぁ」
エルフ族は、あまり他の種族との共存を望んでいない。
中には、冒険者として名を馳せているエルフ族も居るが、多くのエルフ族は森にエルフ族だけの居住区を作り、そこに住んでいる。
さらに言えば、信仰心が高く、今回のように何かを崇めるエルフ達は特に厄介だ。
「後々、問題にならないようにちゃんと話し合わないといけないな……」
「エメーラさんかぁ。どんな子が生まれるんだろうね、パパ」
「こらこらアメリア。気が早いぞ。何度も言うようだけど、まだ子供ができるとは」
「できる、よ」
「え?」
「だって、ヤミノと一緒になるってことは、子供ができるってこと、だから」
マジで、俺。どういう存在なんだ? ヴィオレットは、記憶がぼやぼやとしていて覚えていないようだ。
「おーい、ヤミノ! そろそろ行くわよー!」
「っと、そろそろ時間か」
母さんに呼ばれ、俺達は自室から出る。
これから向かうのは、リオントにある冒険者ギルド。そこのギルドマスターと面会することとなっている。
どうやら、母さんの後輩らしく。今は立派に冒険者を纏める長の一人になっているようだ。
「やけに早かったな」
「まあ、そこは先輩想いの後輩ってことよ」
これから俺なりに世界を守るために必要なことを話し合うために、母さんのコネを使った。
どーん! と任せなさい! とまずはギルドマスターへ連絡したところ御覧の通り。
普段は、忙しく自らも依頼をこなすため、タイミングが悪いと中々会えないんだ。
「お? 今日も仲がいいねゴーマド一家は」
「どうだいアメリアちゃん。後でうちの菓子を食べて行ってくれよ」
「ありがとうございます」
「いやぁ、ヤミノくんも色々大変だね。その歳で娘を持つなんて」
「あははは、本当に」
いやまあ、気の良い人達が多い街だったけど、まさか本当にそういうことで受け入れてくれるとは。
実は、あの後。母さんや父さんが、俺とアメリアの関係を広めたのだ。
元々闇の炎のことを、近くで崇めるためにできた街だったからか。色々と驚かれたが、最終的には受け入れてくれた。
「おぉ、なんと神々しい……ヴィオレット様」
「むにゅう……」
ヴィオレットも、ずっと崇められていた闇の炎の化身だということが知られ、崇められている。
全然慣れていないし、本当に恥ずかしいのでうずくまっている。
「あ、消えちゃったわね」
「恥ずかしかったんだろうな」
最終的には、俺の中に隠れてしまった。
ちなみにこれも今後のためになるだろう。
闇の炎は、ただの炎でも、世界の脅威でもない。ちゃんと意思があり、世界を守るための力となる。そのことが、他の闇の炎がある場所に伝われば……色々とやりやすくなる。
結構賭けだと思うが。
「でもまあ、順調に馴染んできているわね。思い切って真実を言ってよかったわ」
当然、この街の近くに鋼鉄の獣が現れたことも。
それを俺が闇の炎の力で倒したことも伝わっている。そうじゃなければ、この後の話し合いもうまく進まないからな。
「たぶん、実際に力を見せろって展開になると思うから。準備してなさいヤミノ」
「もちろん」
「さあ、着いたわよ。リオントの冒険者ギルドに」
昔からよく知っている冒険者ギルド。
中にも入ったことはある。
母さんは、引退してもやっぱり有名人。その息子ということで、結構可愛がられた記憶がある。将来は、俺も冒険者になるんだろうって期待されていたけど……結局酒場で働きながら体を鍛えるだけ。
「お? カーリーさんじゃねぇっすか! それにヤミノ!! よく来たな!!!」
「そんなその隣に居る可愛い子は、娘のアメリアちゃん! かー! なんて羨ましい!!」
まだギルドに入っていないのに、この騒ぎ。
丁度依頼で出るところだったのだろう。
顔見知りの男冒険者達と遭遇した。
「あんた達。しっかり奉仕してきなさい。もし、手を抜いたらあたしが許さないわよ!!」
「わかってますよ!」
「カーリーさんは、本当厳しいっすね。んじゃま、行ってきますよ!!」
「いってらしゃーい!!」
見た目は厳ついが、気のいい連中だ。
それにしても、アメリアにいってらっしゃいと言われて、なんともまあご満悦そうな笑顔。
「行くわよ」
「うん」
いざ、ギルドマスターのところへ。