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第十九話 本当の物語はこれから

「……」


 王都へ家族旅行に行き、無事俺達は帰ってきた。

 三日間の盛大な祭を終えた次の日。

 勇者一行は、多くの人々に見送られる中、聖剣の導きの下、世界救済の旅に出た。勇者一行のことは、もう世界中に伝わっていることだろう。

 

 いつか自分達のところに訪れるかもしれない。

 その時を楽しみにしている。

 一目、勇者一行を見るために。世界の平和を願いながら……けど、本当にそれでいいのか。勇者一行の実力は確かだ。

 実際、あの鋼鉄の獣を撃退したようだからな。


 それでも……それでも、今の状況はもしかしたら思っている以上に色々と深刻かもしれない。

 勇者の召喚。

 鋼鉄の獣。

 そして、闇の炎と俺。普通の武器では到底倒すことができなかった相手。それを勇者達だけじゃなく、闇の炎を操る俺も倒せることができた。


 今現在、鋼鉄の獣に対抗できているのは勇者一行。

 そして、聖剣、魔剣を扱えることができる者達。なんとか倒せては居るようだが、一体倒すだけで苦労をするようだ。

 とはいえ、通用するのが聖剣、魔剣の力だけとなれば。それを扱える者達が居ないところに、鋼鉄の獣が現れた場合……どうすることもできないで、死を待つのみ。


「それで、ヤミノ。改まって話ってなにかしら?」

「……母さん。俺、世界中の闇の炎に会いに行こうと思うんだ」

「世界中の闇の炎に? ……なにか意味があるのね」


 さすが母さん。察しが良くて助かる。

 当然と言えば当然か。母さんは、俺が闇の炎で鋼鉄の獣を倒したのを見たんだから。


「勇者達は、救済の旅に出た。彼らが、敵の大元を絶てば世界は救われる。でも、その間に鋼鉄の獣に手も足も出ずに殺されてしまう者達が出てくる」

「そうね。あたし達は、あんたが倒してくれたからこうして生きているけど……」

「ああ。あの時、闇の炎の力がなければと思うとゾッとする」


 だが、こんな思いを今後世界中で……。


「闇の炎は、鋼鉄の獣に対抗できる力。そして、それを扱える俺は……世界にとって役割があるんだと思う」

 

 それに、世界中の闇の炎に会えば、色々と謎になっていたこともわかるかもしれない。


「けど、ヤミノ。世界中の闇の炎に会いに行くとは言うけど。長い旅になるわよ」


 ああ、本来ならそうなるだろう。


「大丈夫だ、母さん。実は」


 俺は、母さんに話した。ヴィオレットの力を。


「空間移動? そ、そんなことできるの?」

「できるよ。でも、遠ければ遠いほど炎を使うし。燃費も悪いの」

「ご、ごめんね。私のせいで……」

「気にするなってヴィオレット。一瞬で遠くに移動できるなんて普通はできない凄いことなんだぞ?」


 過去、空間を操る術を扱えたのはたった一人の魔法使い。

 その魔法使いは、魔法使い全ての憧れであり目標。

 大賢者ノートリアス。

 ありとあらゆる魔法を会得し極めた魔法使いの頂点。歴史書にも大々的に記載されている偉人だ。西の大陸には、ノートリアスが創設したという魔法学園があり、多くの魔法使い達がそこで大賢者を目指して日々学んでいる。


「なるほどね。確かに、空間移動ができるならさほど時間はかからない」

「で、でも。直接は無理」

「どういうこと?」

「どうやら、闇の炎の力で、その周囲の空間に影響を与えているようなんだ。だから、どこか近く街とかに飛んで、そこから地上を移動することになるらしい」


 本当なら一気に近くまで移動したかったところだけど。

 

「それと、もうひとつ。これは母さんの協力が必要なんだ」

「なんとなくわかるわ。あんた達の力を使えば……でも、ヤミノひとついいかしら?」

「ん?」

 

 一通り話を終え、冷たい水を口にしていると母さんは問いかけてくる。


「あんた達の力があれば勇者一行の旅に役立ったはずよ」

「……」


 母さんの言う通り、空間移動の力があれば旅も楽になる。より早く世界を救うことができるかもしれない。

 

「それは、できない」

「できない?」

「いや、世界を救いたくないってことじゃないんだ。ただ……」


 俺は、ヴィオレットとアメリアを見てから口を開く。


「どうしてか。勇者、一行とは一緒には居たくないって」

「……そう。まあ、深くは追及しないわ」


 勇者が光で、俺が闇だからなのか。その辺のことも、これからわかるかもしれない。


「さて! これから忙しくなるわね! 家族も増えるみたいだし!」

「いや、まだ家族になるって決まったわけじゃないって!」



・・・・



「おお! 勇者様! お久しぶりです!!」

「ロブ。どうしたんだい? その怪我は」

「恥ずかしながら、上空より飛来した鋼鉄の獣にやられてしまいましてな」


 聖剣に導かれて、西へ進んでいた勇者一行。

 途中、王都が誇る兵士長ロブと出会った。

 包帯塗れの姿を見て、その事情を聞く。


「ですが、どうやら王都は無事だったようですね。本当によかった……早く事の次第を知らせようにも、遠話魔法を扱える者が負傷してしまいまして」

「飛行型が居たのか。跳べば届くか?」

「馬鹿ね。飛んでるのよ? 攻撃を受ける前にひらりと避けられちゃうわよ」

「ひどい怪我。ロブさん、今回復します。見せてください」

「おお、聖女様。ありがとうございます! どうか、回復なら私よりも部下達を先にお願いします」


 ミュレットが傷ついた兵士達の傷を回復している間、将太は思考する。


(飛行型か……聞いたところ王城パーティーをしている間みたいだ。運よく王都へは来なかったようだが)

「王都に来る前に誰か倒しちゃったとか?」

「倒したって。誰がだ?」

「じゃあ、どっか行っちゃったってことで」

「てことでってなぁ」


 他の誰かが倒した。

 王都には、将太以外に聖剣使いが二人居る。勇者として異世界に召喚された後、共に訓練をしてくれた。そのため強さもわかっている。

 が。


(あの二人の内どちらかが倒したのか? いや、僕に気づかれずに倒すなんて……)

「はい、治療終わりました」

「おお! ありがとうございます! 聖女様!!」

「いえ。これも聖女として当然のことです」


 その後、将太達はロブ達と別れた。

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