第一話 目が覚めたら娘ができてました
「……朝日?」
心地よい温かさに、目が覚める。
俺は、仰向けになって寝ころんでいた。
おかしい。死んでない? てっきり、あのまま死んだかと思ったのに。
「んー!! それにしても、なんだかすっきりしたな。てか、どこだここ? 闇の炎は?」
仰向けになったままぐっと背筋を伸ばし、周囲を見渡す。
俺は闇の炎へと突撃したはず。
……よく見たら、草木が一本も生えていない。てことは、ここは闇の炎が燃えていた大地? え、じゃあ闇の炎は? まさか消えた? それとも、ここは天国かなにか?
いや、遠くに街が見える。
間違いなく闇の炎が燃えていた大地だ。
「んー」
「なんだ。子供の声? ……は?」
体に当たる柔らかい感触。
そして、妙に幼い声に、俺は視線を下半身へと向ける。
「ななななな、なんじゃこりゃああああっ!?」
視界に映ったのは、紫色の長い髪の毛の少女。だが、毛先に行くほど白銀に染まっている不思議な色をしている。
俺の足にしがみつくようにすやすやと眠っており、押し付けている頬はぷにっとしていて触ったらとても柔らかそうだ。いやいや、それよりも……そんなことよりも!
「な、なんで裸?」
これはやばい。俺は上半身だけとはいえ、裸の少女が抱き着いているって……こ、こんなところ誰かに見られたら確実に俺は変な目で見られる!
「……あっ」
どうしたらいいか迷っていると、少女と目が合った。
くりくりとした空色の目。俺のことを不思議そうに見詰めている。
「や、やあ」
「……」
うっ、とても純粋な目だ。そ、そんな目で見ないでくれ……どう反応すればいいかわからなくなる。
「パパ」
「―――ん?」
パパ? あー、後ろにパパが居るのか。あ、はい。終わりー。俺終わったー。こんなところを見られたら、パパさんにボコボコにされてしまう。
「パパ。おはよう」
良い子だなぁ。ちゃんと父親に朝の挨拶をするなんて。俺なんて時々めんどくさくて言わない時がある。
「パパ。ねえ、パパってば」
おいおい。パパさん。可愛い娘が、呼んでいるぞ。早く返事をしてあげろって。そして、こんな可愛い娘さんと寝ていた俺をボコボコにしてさ。
覚悟はできている。
「さあ!!」
「どうしたの? パパ。大声出して」
「……」
いやいや、待ってくれ。大声を出したのは、君のパパじゃない。
なぜか君と一緒に寝ていた上半身裸の変態お兄さんだ。
「あ、日向ぼっこ? いい天気だもんね」
なんだパパさん。娘が大変だっていうのに、呑気に日向ぼっこをしているのか? 朝っぱらから何をやっているんだ。
確かにいい天気だが、日向ぼっこをするならもっといい場所があるだろう。
「じゃあ、わたしも一緒にするー」
はー、なんて可愛い娘さんなんだ。
「こらこら。なに、俺の腕を枕にしているんだ?」
「だめ?」
ようやく下半身から離れてくれたと思いきや、俺の右腕に頭を乗っけて寝転がり始めた。
そのことに対して注意すると、うるっとした瞳で懇願してくる。
「だ、だからそういうのはパパにだな」
「だからしてるよ?」
「……」
あ、もうだめだ。必死に現実逃避していたのに、もうだめだ。
(ないわー。目が覚めたら、こんなにも可愛い娘(裸)が生まれていたなんて。普通は赤ちゃんだろ? いやそこじゃないか。そもそも結婚してないし。未経験だし。結婚しようと約束した幼馴染は、寝取られたし。あ、やべ。思い出したらちょっと涙が)
「パパ。泣いてるの? 大丈夫?」
本当に心配そうな表情で、娘(仮)は涙を拭ってくれた。
あ、やべ。余計に涙が……。
「泣かないで、パパ。よしよし」
「うぅ……」
なんだろう。娘を自称する子なのに、本当に娘から慰められている父親のような感覚に。
……いや、冷静になったら。仮にも娘なのに、裸で一緒に寝てるって完全にアウトだよな。
「あ、ありがとう。もう元気だ」
「本当? よかったぁ」
ゆっくりと身を起こし、俺は娘(仮)の頭を撫でながらもう一度周囲を見渡す。
「あった」
俺が脱ぎ捨てた服とズボンを発見。娘(仮)をその場に残し、俺は脱ぎ捨てた服とズボンを回収。ズボンは俺が穿き、服は娘(仮)に着せてやった。
小柄だったので、膝まで隠せた。
「これでまずはよし」
「おー、パパの服。あったかーい」
あ、可愛い。余った袖をパタパタと……。
「えっと、それで」
「ん?」
「君、何者なんだ?」
「パパの娘だよー」
と、また袖をパタパタとさせながら笑顔で答える。
う、うーん……嘘を言っているようには見えないけど。本当に身に覚えがないんだよなぁ。外見から考えるに、大体九歳? 十歳前後? 完全に妹ぐらいだよな。
「名前は?」
「まだないよー」
「まだないって……」
「だって名づけられてないもん。パパ、わたしなんて名前?」
記憶喪失、てわけではないよな。
本当に俺が名付けて良いんだろうか? 悩みに悩んだ結果。
「アメリア」
「アメリア?」
「あ、ああ。どう、だ?」
名づけなんてしたことがないので、不安を抱きながら問いかける。
「わたしの名前はアメリア! 可愛い名前ありがとう! パパ!!」
「お、おう!」
嬉しさのあまり抱き着いてくるアメリア。
……これから、どうしよう?




