第十八話 大空に燃える紫炎
「あーあ、早く終わんないかしらね。このパーティー」
「えっと、どうしてここに居るんだ? ティリン」
パーティーはまだまだ続く。
そんな中、ダルーゴさんは豪快に笑いながら料理を食べている。
将太とミュレットは、相変わらず二人一緒に居て、参加者達と会話に華を咲かせていた。そして、魔法使いティリンは、皆から離れて、俺の傍でジュースを飲んでいる。
「別にいいじゃない。楽しいのは好きだけど、こういうまったりとしたのも好きなの」
「……なあ、聞いていいか?」
「なに?」
俺は、一度将太のことを見てからティリンに問いかける。
「世界救済の旅って言うけど。どこへ行くつもりだ?」
確かに、今までにない敵。
つまりは、今を騒がせている鋼鉄の獣が、世界の脅威と見て良いだろう。けど、見たところ兵士の類のように感じる。
本当に世界を救うには、大元を倒さなければならない。
「さあね。でも、あいつが持っている聖剣が導いてくれるみたいよ」
「聖剣が?」
「ええ。聖剣が導く先に、世界を揺るがす脅威あり。あたし達は、聖剣が示す方へ向かう。そうすれば、おのずと大元へ辿り着つけるって話」
聖剣が導く先、か。
確かに、将太が使っている聖剣は、かつての勇者が使っていた代物だという。神々が造りし悪を絶つ聖なる剣。
世界には、他にも聖剣と呼ばれるものは存在するが、将太が持っているものは別格。
聖剣の頂点とも呼ばれている。
「はー、雲を掴むような話しよね。途方もない……」
「でも、それが旅ってものじゃないのか?」
「ま、それもそうなんだけど。……あんたは、これからどうするつもり?」
「俺?」
俺のこれから、か。
もし、ミュレットが聖女に選ばれなければ、闇の炎の力を得なければ、俺は何事もなく平穏な暮らしをしていたかもしれない。
明日にはミュレットは旅に出る。
俺は……。
「―――ん?」
「どうかした?」
気配を感じる。それも、あの鋼鉄の獣と同じ。
……でも、気配は上の方から。まさか、空に居るっていうのか?
「悪い。ちょっと調子に乗り過ぎたみたいだ。外で食休みしてくる」
「そっ。じゃあ、ここを出て左へ行きなさい。しばらくしたら上へ行く大きな階段があるから」
「上へ?」
「その先に、王都を一望できる場所があるわ。あたしもよくそこで風を感じているのよ」
「ありがとう。行って見るよ」
「じゃあ、わたしも行く」
ティリンに言われた通り、俺達はパーティー会場を抜け出し、廊下を左へ進む。
「ヴィオレット、アメリア」
「……」
「食後の運動だね」
他の者達は、気づいていない様子。
今日は、せっかくの祭。
その最終日。何事もなく過ごしてほしい。
「そうだ。敵は、上空。王都を襲う前に……倒す!!」
階段を上り、テラスへと出る。
本当に王都を見渡せる。
夜風も気持ちいい。
「綺麗だね」
「ああ」
街灯りが、まるで宝石のように輝いている。
もし、今ここに上空から襲撃を受ければ大混乱だろう。
「ヴィオレット」
「うん」
ヴィオレットは紫炎となり、俺を包み込む。
初めて闇の炎を纏った時よりも、形ははっきりとしている。
「とはいえ、ここだと目立つし」
ただでさえ強い炎。
更に紫色なんて……。
「じゃあ」
「ん? アメリア?」
ぎゅっと、俺の左手を握り足元に円状の紫炎を出現させる。
「空に行こう」
刹那。
景色は一瞬にして変わり、月明り輝く上空へ。
「は、ははは。まさか雲の上に来る時が来るなんて」
「ここなら目立たないよ、パパ」
確かにそうだが。
どうやら、今空の上に浮いているのは足元の紫炎のおかげのようだ。
「……数は十一か」
弓矢を構えると、左目に小さな円が出現する。
そこから見えるのは、遠く離れた敵の姿。
やっぱり鋼鉄の獣。でも、俺が見たのとはまた別の姿。鳥……腕の生えた鋼鉄の鳥と言ったところか。
少し小さいが、数が多い。
ただでさえ硬い体だと言うのに、飛行能力があるなんて。
今後も色々と増えそうだな……。すでどこかを襲った後なのか。鳥だというのに鋭い牙や翼にはべったりと赤い血が付着していた。
「一気に射抜く」
「サポートは任せて、パパ」
「頼む!」
深く息を吸い、ぎゅっと力を入れる。
炎はより激しさを増し、あの時アメリアが使った紫炎の矢が周囲に出現する。
(ただ倒すだけじゃだめだ。倒した後、そのまま地上に落ちたら意味がない)
あんなのが、上空から地上に落ちたら確実に大地を砕く。
それが王都になんて落ちたら……被害は甚大。
(確実に一体一体を完全に燃やし尽くす。ヴィオレット。火力アップだ)
(任せて……今なら)
出現した紫炎の矢は、轟々と燃え上がり、一本一本が敵を確実に焼き貫くほどの大きさになる。
(ヤミノのために……!)
「パパ!」
「ああ! 【ヴィオフレア・アロー】!!!」
紫炎の矢は、空間を飛び、遥か遠くを飛行する敵へと放たれた。
何をされたのか。
どうして自分達はこうなったのか。そんな考えすら与えず、全ての矢は敵を焼き貫いた。
「ふう……」
「やったね、パパ。ママも大分火力が戻ってきたみたい!」
敵を倒し、俺は大空で一息つく。
こんなにも月が近いなんて不思議だ。でも、もっと上があるんだよなきっと。
「……」
「パパ? どうしたの?」
「よし、決めた。ヴィオレット、アメリア。俺―――」