第二十話 記憶の試練・白(4)
ヘティアとの戦闘が開始されてから、数十分が経っただろうか。
これまでの経験を全て出しきって戦っているが、ヘティアは涼しい顔で一歩、いやそれ以上も先をいく。
能力の使い方がうまいんだ。
俺もそうだが、ヘティアもどんな能力があるのかを知っている。そして、どう扱うのかを俺以上に理解しているんだ。
「……」
「うん。能力の扱い方は、結構熟知しているね。でも、まだまだかな」
彼女の言う通りだ。
どうしても、彼女に及ばない。そして、ヘティアは何度も俺に致命的なダメージを与える機会があったのにも関わらず、それをしなかった。
明らかに、彼女は俺の成長を促している。
「これでも努力はしているんだけどな」
それでも、彼女には及ばない。
力を完全に受け継いでいないから? いや、それはただの言い訳だ。ヘティアだって、力のほとんどを失っているのにも関わらず、俺を圧倒している。
力は俺が圧倒的に上だ。
そう。足りないのは、能力に対しての理解度と経験だ。
……俺は、この試練を通して必ず成長する。
「―――やってやるさ」
俺は、絶対に今より強くならなければならない。この先に起こる大きな戦いに向けて。少しでも、誰よりも……そうすることで、たくさんの命を守れるんだ。
「これは」
ヘティアの周囲には、複数の紫炎の空間が出現する。
「ここからは、習ったことを出す番だ」
空間転移により、俺は姿を消す。今までは、簡単に感知されていたけど。
「……いいね」
転移空間自体の火力を調整している。
そこへ更に増大の能力により、一気に炎を大きくする。それだけじゃない。削減の能力を使い、削ることで、かく乱。
その間、俺は異空間に潜む。
「でも、まだわたしの方が上かな」
一瞬の出来事だった。
紫炎の矢と黄炎の小盾が大量に生成される。そして、赤炎の爆発力で、俺が生成した空間全てに射撃される。
「気配を消して隠れても、あいつらも空間に入り込む術を持っているの」
また敵の情報。
やっぱり、ファリエは世界を侵略しようとしている敵について詳しいようだ。
「情報提供には感謝するけど」
彼女の攻撃に反応し、俺は動く。
「下? ううん、これは」
突如として、噴火したかのように真下から大量の炎が噴き出す。
「囮……」
そうだ。
彼女は、それが誘導するための囮だと思い、他の場所から攻めてくると思うはずだ。
「―――惜しい」
「あはは。今のは……危なかったなぁ」
しかし、そうじゃない。
囮は囮だが……俺は、噴き出した炎の中に潜んでいた。まさか、そこから出てくるとは思いもしないだろうと考えていたんだけど。
ギリギリのところで、気づかれ攻撃を防がれてしまった。
「でも、凄い成長速度だね。正直、驚いちゃった」
「とはいえ、防がれちゃったら意味がない」
良い作戦だと思ったのに。
「それじゃあ、ここからは過去を超えてもらおうかな」
色が、髪の毛の色が白から赤に変わった。髪の毛だけじゃない。今まで閉じていた両目が開眼。その瞳は、まるで太陽のように輝いていた。
「【炎炎転化】」
刹那。
彼女の背後に赤炎が灯る。
「あれは!?」
「【オーバー・フレア】」
空間転移じゃない。高速を思わせる爆発的な移動で、一気に距離を詰め右拳に収束させた赤炎を。
「【ブレイズ・インパクト】」
「ぐっ!?」
反応が遅れたが、腹部を全力で硬化させ防御。
だが、それでも衝撃を全て消すことはできず、ダメージを負ってしまった。
「その、技は」
「これが、白炎。化身の力を全て掌握する力。ここからは、彼女達の技の全てが、あなたを襲うから……全力で乗り越えてね? ヤミノ」
にっこりと笑うけど、今の俺は恐怖を覚える。今までも、能力だけで苦戦していたのに。ここからは、彼女達の技にも対処しないといけない。
……いや、乗り越えるんだ。
乗り越えなくちゃならないんだ……!