表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

188/190

第十九話 記憶の試練・白(3)

 相手は、俺と同じ黒以外の炎を扱える。

 彼女の話が全て本当だったとしたら、力のほとんどは俺が受け継いでいる。そして、彼女は過去の記憶により構成された残り僅かな存在。


 ……だというのに、迂闊に動けない。

 それほどまでに、彼女の―――ヘティアの存在感が大きいんだ。


「ふふ、どうしたの? ほら。怖くない、怖くない」


 それは余裕の表れなのか。怖気づいている俺に優しい言葉をかけてくる。


「―――そうだな」


 怖気づいていたら、試練を乗り越えることなんてできない。それに、ここまで試練を乗り越えてきた彼女達のためにも、俺が失敗するなんてことはあってはならないんだ。


「恐れず、攻める!!」

「うん。それでいいの」


 俺は、空間転移で一気に彼女の背後へと移動する。そこから、赤と青を織り交ぜた刃で切りかかる。


「良い動きだね」


 しかし、ヘティアは優雅に舞うように用意に回避する。


「でも、ちょっと力み過ぎかも」


 そして、人差し指でちょんっと俺の刃に触れる。

 若干乱れていた炎は静寂に包まれ美しい形に。


「空間転移する時も、炎は抑えめにね。あの子の力は強力だけど、力の調整が難しいから」


 そう言うと、お手本とばかりに姿を消す。

 背後? いや、そんなわかりやすい行動はとるか? 空間の歪みは……真下か。


「こっちだよ」

「なっ!?」


 声は正面から聞こえた。

 視界にヘティアを捉えると、青炎の短剣の剣先を俺に突きつけていた。


「力の調整ができれば、こういうこともできるんだよ」


 足元に視線を向けると、そこには確かに紫炎により歪められた空間が。


「囮、か」

「その通り。……あいつらは、炎に敏感。だから、こうやって囮として使うことも必要となる」


 あいつら? まさか、イア・アーゴント達のこと?


「この試練を乗り越えた時、ヤミノ。君は、確実に強くなる。わたしの……白炎の全てを受け継ぐんだよ」



・・・・



 ヤミノが一人扉の向こうへと消えた後のこと。

 残った炎の化身達は、静かに指定の場所に腰を下ろし、扉を見詰めていた。


「ヤミノは、今頃ヘティアと戦っているのかのう」

「おそらくね」

「彼女は強敵です。それは、自分達がよく理解してますからね」


 ヤミノが姿を消してすでに十分の時が経っている。

 これまでは、目の前で試練が行われていたが、今回は違う。ただただ静かに待つしかない。


「しかし、こうしてわしらだけになるのは久しぶりじゃな」

「だねー。なんだかんだヤミノとか娘達とか一緒だったもねー」

「そう、だね」


 ヤミノの試練が終わるまで、離れることができない。

 そのため、自然と口数が増える。

 

「それじゃあ、この貴重な時間を使って、色々とお話をしましょうか?」

「話と言っても、何を話すというのですか?」

「なんでもいいんじゃない?」

「せっかくじゃ。個人的に気になっていることを話そうではないか。お前達、何かないのか?」


 数秒の静寂の後、手を挙げたのはヴィオレットだった。


「お? 意外」

「えっと、ね。皆も、同じだと思うんだけど」


 一度、周囲を見渡した後、ヴィオレットはゆっくりと口を開く。


「昔の、私達と……アメリア達に、なにが、あったのか」


 彼女の言葉に、皆が反応する。


「ふむ。確かに、今のところは一番気になるところかもしれんのう」

「まあ、あんなのを見ちゃったらねぇ。僕でも気になるよ」


 エメーラは読んでいた漫画を閉じ、ため息を漏らす。


「クロネス。あんたなら知っているんでしょ? 私達から記憶を奪った張本人なんだから」


 扉の前に立っているクロネスに、リア―シェンは問いかける。視線は、自然とクロネスに集まり、その言葉を待つ。


「確かに知ってはおります。しかし、今明かすことはできないのです」


 彼女の回答に、皆はそう答えると思ったとばかりに息を漏らす。


「全ては、ヤミノが試練を乗り越えた時、ということね」

「はい。彼が、試練を乗り越えた時。皆様は、全てを思い出すことでしょう」


 待つしかない。信じるしかない。ヤミノが、試練を乗り越えるのを……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ