第十五話 記憶の試練・青
フレッカの試練が終わり、残るはヴィオレットとリア―シェンの二人。
それが終われば、ついに黒と再会ができる、のだろうか。
「うぅ、なんだか緊張、してくた」
「あら? 緊張しなくてもいいわよ。いつも通りやればいいわ」
緊張と不安の二つの感情を持つヴィオレットに対して、リア―シェンはいつも通りと言った感じだ。
「で、でもやっぱりアメリアと、戦うなんて……」
元々戦いが好きじゃないヴィオレット。加えてアメリアに対しての愛は、とてつもなく大きい。初めて出会った頃よりも力の制御がうまくなり、戦いの経験も得て誰よりも成長している。
それでも、やはり緊張もするし、不安になってしまう。
「それ、に。あの発光体、から発せられる言葉……なんだか、つらい、ものばかりだった」
「そう、ですね。エルミーは感謝の言葉を述べましたが、どこかつらそうな声音でした」
「だ、だから。アメリアから、どんな言葉が、発せられるかって、考えたら……」
ミニサイズのヴィオレットは、俺の腕の中で今にも涙が零れそうなほど悲しそうな表情で俯く。
「割り切りなさい。でないと、やられるのはあんたよ」
鋭い刃のような言葉を、ヴィオレットに言いリア―シェンは一人先行して次なる試練の場へと入っていく。
「……」
その言葉に、何も言い返せないでいるヴィオレットの頭を俺は撫でる。
「厳しいようだけど、リア―シェンの言うことは理解できる。それに、あの記憶が本当に過去にあったものから構築されたものだったとしたら……それを受け入れる精神力が必要になるはずだ」
あの姿だけでも、言葉だけでも、俺達は精神を揺さぶられている。
だから、もし全ての記憶が戻った時、精神力が強くなければ……。
「ヴィオレットよ。わしらは、知らねばならない。強くならねばならない。過去に、何があったのか。それを思い出し、乗り越えねばならない」
「さすがに、今回は僕でもにへにへ笑ってなられないかも。だからさ、一緒に乗り越えようよ」
「自分達は、一人ではありません。リア―シェンも、それをわかっているはずです」
俺達の言葉を聞いたヴィオレットは、ぴょんっと飛び上がり元の姿に戻る。
その表情は、決意に満ちたものだった。
「行こう」
もう大丈夫なはずだ。
後は、試練を乗り越えるだけ。そう思い、歩みを進めようとした刹那。
ガキィン!!!
凄まじい戦闘音が鳴り響く。急ぎ、部屋の中へと入ると……そこには、すでにリア―シェンが、ファリエの形をした発光体と戦闘を繰り広げていた光景があった。
「遅かったわね。もう、試練を始めさせてもらっているわ」
発光体はすでに膝を突いており、リア―シェンは、余裕の表情で刃を突き付けていた。
「うわ、容赦ない」
「誉め言葉として受け取っておくわ。私は、常に刃を研ぎ澄ませている。たとえ、相手が娘だろうと容赦はしないわ」
などと会話をしていると、発光体が動き出す。
「あまいわ」
が、リア―シェンは容赦なく斬りつける。
「まったく、人が話している時は静かにしていなさいと教えたはずよ。あ、でも昔は従順じゃなかったかもしれないわね」
ふむ、とリア―シェンは余裕の態度で居る。
「……」
そうこうしていると、また発光体に動きが。
「だから」
また大人しくさせようと刃を振るおうとするが……予想外の行動に動きが止まる。
「なっ!?」
自分の首に、刃を当てていた。
そして、躊躇うことなく。
「……」
何も言うこともなく、自分の首を切った。
静寂に包まれる中、四散した光は扉に吸い込まれる。
「これで、終わりなのか?」
「終わり、のようですが」
「後味の悪い終わりじゃな。おい、リア―シェン!」
フレッカは、部屋の中央で立ち尽くすリア―シェンへと近づき、ぐいっと手を引く。
「なによ」
「大丈夫か?」
「あら? 私が、動揺しているとでも? そんなやわじゃないわ」
と、フレッカの手を振り払う。
「お、おい!」
「さあ、次に行くわよ」
こちらの言葉を聞かず、リア―シェンは一人で先に進んで行く。
「馬鹿ものが。なにがやわじゃない、だ」
「行こう」
俺達は、リア―シェンのことが心配になり、急ぎ足で追いかける。
「あら? 追いついてきたのね」
俺が隣に並ぶと、自然と歩幅を合わせてくる。
「……本当に大丈夫なのか?」
「あんたまで、心配してくるのね」
やれやれと眉を潜めながら、俺の手を握ってくる。
「大丈夫よ。あの程度で、私は動揺なんてしないわ」
言葉では、そう言うが体は正直なようだ。
俺は、気づいていないふりをし、そのままリア―シェンの言葉に耳を傾け続けた。