第十二話 記憶の試練・黄
発光体の姿は、エルミーの形に生成された。
そして、一階の時と同じく文字が浮かび上がる。
―――これは記憶の試練 乗り越えねば 先には進めず―――
「そして、資格がある者しか挑めない、ですね」
そのことをすでに理解しているリムエスは、前に出た。
エルミーの形をした発光体も、やはり頭上にリムエスと同じ輪に加え、翼が生えている。
「リムエス」
これから試練へと赴く彼女に何かを言おうとするが。
「ご心配には及びません、主」
彼女は、それを止める。
「この試練、必ずや突破してみせます」
頼もしい背中に言葉だ。
その言葉を、決意を信じてやりたい。
「さあ、どこからでもかかってきなさい」
リムエスは、黄炎の大盾リーシェルを構え、相手からの攻撃を誘う。
「……リムエスの奴」
「ええ」
フレッカとリア―シェンも気づいたようだ。
確かに、リムエスは冷静さと強固な防御力が武器。だけど、今のリムエスは硬い。もちろん硬いことは、彼女にとって良いことだけど……余裕がない、というか。
(やっぱり、冷静そうに見えても、相手がエルミ―の形をしているからか……)
「動くぞ」
発光体は、計六つの小盾を生成し、一斉にリムエスへと飛ばす。
真正面から行かず、四方八方に散り、複雑な軌道を描きながらリムエスを困惑させようとしている。
「そんなもので」
そして、一気にぶつかるのではなく、タイミングをずらしながら次々にリムエスへ攻撃を仕掛ける。
「自分の防御は破れません!!!」
が、さすがの防御力。
能力により硬化された黄炎で全てを防ぐ。それだけじゃない。同時に、小盾を発光体へといくか飛ばしていた。
「リムエスにしては、意外と戦術的だね」
彼女のこれまでのイメージとしては、真正面から攻撃を受け、圧倒的な防御力で圧倒する。
確かに、小盾を使う戦いもしてきてはいたが。
「でも、少し、炎が……」
ヴィオレットの言葉に、目を向けると若干だが炎が乱れている。硬化の力もあれでは……。
「避けましたか」
発光体は、ひらりと跳び、小盾を足場に移動する。
あの戦い方……やっぱりエルミーなのか。
本物ではないと理解しているが、エルミーの姿がちらつく。
「その動き、自分にはお見通しです!!」
動きを先読みしていたようで、リムエスは発光体の進行方向に盾を展開する。が、相手もそれを読んでいたとばかりに軌道を変える。
「やはり、あの発光体もリムエスの動きを”知っている”ようじゃな」
こちらも知っていれば、あちらも知っている。
もし、あの発光体が過去のエルミーだったとしたら……今のリムエスの成長が勝利の鍵となる。
「……」
周囲を、小盾に乗り軽快に飛び回る発光体。
リムエスは、その場から動かず静かに様子を見ている。
「リムエス。大丈夫、かな」
「大丈夫よ。確かに、昔のあの子は物凄い堅物だったけど……今は、すこーし柔らかくなってるから。ね? ヤミノ」
「ああ。今のリムエスなら」
彼女だって、これまでの戦いで経験値を積んできた。
たとえ、炎の化身だろうと……成長しないなんてことは絶対にない。
「本当に、エルミーそっくりなのですね。その動き……楽しそうに笑っている姿が用意に浮かびます」
姿勢を正し、リムエスは呟く。
「だからこそ、ここからはマジのマジでいきます! これ以上、その姿と戦うことがないように!!」
刹那。
リーシェルが輝きだす。
「そんなに空中戦がしたいのであれば、付き合いましょう」
リムエスは、空中で仁王立ちをし、右手を前にかざす。
周囲には、数えきれないほどのリーシェルが展開していた。
「エメーラの真似になりますが、自分が密かに編み出した技を披露しましょう」
「なぬ!?」
「ほほう?」
「へえ、やっぱり柔らかくなったわねぇ」
今は、大真面目なところだが、俺も彼女の新技がとても気になっている。
「避けてみてください。【リフレクション・フレア】!」
放たれた黄炎は閃光となりて、最初の盾にぶつかる。そして、また次なる盾へ。次々に反射、そして分裂していくことで、相手の逃げ場がなくなる。
そして、ついには発光体を撃ち落とし、全ての黄炎が貫く。
「うひぃ……結構えげつないものだった」
「なかなかじゃない。試練が終わったら、手合わせしてもらおうかしら」
穴だらけになった発光体の傍に降り立ったリムエスは、じっと見詰めている。
「……」
が、すぐに背を向けた。
やはり、なんと言おうとエルミーの形をしていれば。
「が」
「え?」
発光体からの声に、リムエスは振り向く。
「あん、がと、ね……」
その言葉を最後に発光体は完全に消える。再び静寂に包まれた空間で、リムエスは鉄の扉に吸い込まれていく光の粒子を見詰めていた。