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第十七話 知っていると知らない

「ほう。おめぇがミュレットの幼馴染か。なんだ結構良い体してんじゃねぇか。はっはっはっは!!」

「いでっ!? あ、あはは。それはどうも」


 ティリンの次は、戦士のダルーゴさんだ。見た目通り豪快な人で、バンバン! と俺の背中を叩いてくる。

 

「武器は何を使うんだ? ちなみに俺は戦斧だ」

「剣や槍、弓とか、色々とですかね」

「そんなにか? いったい誰から習った。独学か?」

「母から。昔冒険者をしていて」

「ほうほう」


 さっさと去っていたティリンと違って、パーティー開催の時間までダルーゴさんは、俺と会話を続けた。

 

「お? そろそろ始まるみてぇだな。じゃあな、ヤミノ」


 主役の勇者将太が、聖女ミュレットと共に段差のある場所へ現れると、ダルーゴさんは去って行った。

 どうやら、勇者一行がそこに並ぶことになっていたようで、ティリンが上がり、続いてダルーゴさんが並ぶ。


「皆! 今日は、僕達のために集まってくれてありがとう!!」


 注目される中、将太がグラスを片手に叫ぶ。


「僕達は、明日世界を救うために旅立つ!! 必ず脅威を討ち払い、平和を齎すことをここに誓う!!」

「将太様ー!!」

「ミュレット様ー!!」

「ティリン様ー!!」

「ダルーゴ様ー!!」


 さすがの人気と言ったところか。

 静寂から一変。

 会場内は、歓声に包まれる。


「このパーティーは、僕が主催したものだ。どうか、楽しんでほしい! 乾杯!!」


 こうして、旅立ちを祝してのパーティーは始まった。

 各々、勇者一行に一言挨拶をと次々に集めっていく。

 俺はというと。


「お、これ美味しいな。ほら、アメリア」

「あーん。……本当だ。美味しいね。はい、ママも」

「あむ……」


 呑気に食事を楽しんでいた。

 なんていうか、あんな豪華な人達のところに行くのはちょっと……。


「ママ。次、どれ食べたい?」

「んっと……あの丸いの」

「これだね。はい、あーん」

「あむ……あ、ぐにぐにしてる」


 人形ということで通っているので、一人では食べれず。

 俺の後ろで、アメリアがヴィオレットに隠れて食べさせている。今の内に、食べられるだけ食べておかなければ。

 

「よし、二人とも。食べられるだけ食べよう。もしかしたら一生食べられるかどうかだ」

「あむあむあむあむあむ」

「わー、ママったら頬っぺたふっくらしちゃって」


 よほど気に入ったのか。皿に乗っていた丸いのを口いっぱいに詰め込んだヴィオレット。

 あ、頬っぺた突きたい。

 

「……」


 おっと、危ない。

 さすがに、食事中に突くのは失礼か。危うく膨らんだ頬を突きそうになるも、寸止め。そんなことをしている間に、全員の対応が終わったのか将太とミュレットがこっちに向かってくる。


「やあ、楽しんでいるかい? っと、言うまでもなかったみたいだね」

「ははは。見たことのない料理ばかりで目移りしていたところだ。な? アメリア」

「うん。どれも美味しそうで、迷っちゃうよね。お義兄ちゃん」


 さすがアメリア。良い演技だ。ヴィオレットはと言うと、顔が見えないようにしている。おそらく必死に詰めたものを消化しているのだろう。


「ところで、何か用か? 皆、まだ話足りなさそうな感じだけど」


 一通り話したようだが、勇者達は明日旅立ってしまう。

 こんなチャンスもうない。

 多くの人達が、もっと話したいと思っているようでこっちを……勇者と聖女を見ている。


「ああ。もちろん皆とも話すさ。だけど、君にはちゃんと伝えておいたほうが良いと思ってね」


 予想はできる。

 あの時言わなかったのは、気を利かせてのことか。いや、場所が悪かったからか。


「実はね、ヤミノ。私達」


 理想の場所で、タイミングでそれを言うために。


「付き合っているの。まだ他の人には内緒だけど」


 もちろん知っている。

 だから……正直、驚きはない。衝撃も受けない。すでに知っていたことだから。


「ははは。いやでも、よく一緒に居るからもしかしたら、そういう関係だって思われているかもね」

「そうだったのか。でも、お似合いだと思うよ。勇者と聖女なんて」


 結婚の約束をした。けど、それは子供の頃の話。

 俺は、ずっと覚えていたけど。結局、これまでミュレットと付き合おうともしなかった。幼馴染だからいつまでも傍にいる。そんな軽い考えだったんだろう。

 まあ、でも本当に好きだったんだろうな。それは、誰もがあの時の反応でわかること。


「……改めて。おめでとうミュレット。幸せにな。幼馴染として祝福する」

「ありがとう、ヤミノ。ヤミノも、良い人見つかるといいね」


 それは、大丈夫だ。

 

「ああ。ありがとう」


 話し終えたミュレットは将太と共に去って行く。

 その時、将太はにこっと笑顔をこちらに向けてきた。


「……聞かなくてよかったの? パパ」

「なにをだ?」

「……」


 どういう理由があろうと、俺達は各々の道を進み始めている。

 今更戻っても色々とややこしいことになる。

 それに……なんだか今が、一番幸せな気がするんだ。もしかしたら、こうなる運命だったのかもしれない。


「俺は、今が幸せだから良いんだ」

「えへへ。だってママ」

「むにゅう……」

 

 あれ? こっちを見てくれない。どうしたんだろう、ヴィオレット。まだ食べ終わっていないのか?


「ヴィオレット? おーい」

「……」


 お腹いっぱいで寝ちゃったのかな。……そっとしておこう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者と聖女的には、ケジメの積りで彼を呼び、直に伝えた積り。(まあ悪意有ったかは?)。 主人公君的には、あのデートシーン見て知って、その時は、あの世に行きかけたが、今にしてみれば、昔の約定で…
[一言] なーんか、ミュレットたちになんの鉄槌も下されないのは納得いかないなあ。
[気になる点] ヴィレットは勇者がおかしい感じを前から感じてるが 主人公とその幼馴染はまだ気づいてない感じか
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