第九話 黒龍の民
なんだか今月は気温の変化が激しいような気が……皆さんも、どうかお気をつけを!
リューマさんの案内で、俺達が訪れたのは黒龍が治めし街。
国の内部のことは一切伝わっていないため、どんなところだろうかと色々と想像していた。
そして、実際に目の当たりにした感想だけど。
「おお! この方々が!!」
「なんと神々しいお姿なんだ!」
独特の文化を築いている、というわけではなく。
とても賑わいのある街。
住んでいる人々も、生き生きとしている。とはいえ、違いがないわけではない。身に纏っている衣服には、特徴があり、どの人々にも黒龍の刺繍が見える。
「ふむ。崇めている存在を服に……」
「それも、どこか可愛い感じのデザインですね、主」
「そ、そうだな」
宗教のように、崇めているということではなさそうだ。そうでなければ、あんな可愛い感じのデザインが許されるわけがない。
「驚かれましたか? 確かに、黒龍様は我々にとって崇める存在。ですが、民と共に生きるという言葉をこうして体現しておられます。しかも、我らでは考えられない知恵を授け、いつも楽しませてくれる。黒龍様とは、そういうお方なのです」
「へえ。なんだか、想像と違うわね」
リア―シェンの言葉に、俺達は同意する。
だが。
(その黒龍という存在が、ネネシアだった場合は……まあ、こういう関係も納得がいくかもしれない)
俺達が再会したネネシアが偽物というわけではない。
あのネネシアも本物だと思っている。
彼女に関しては、まだまだ謎が多い。
だからこそ、俺達は黒龍という存在にどうしても会わなくてはならない。
「さあ、こちらへ。さっそくですが、黒龍様が待っている場所へご案内します」
「えー、もう? ちょっとぐらい休まない?」
「エメーラ。あなたは、ずっと主の中に居たではないですか。すでに”休んでいる”のでは?」
俺の頭の上に出てきたエメーラの物言いにリムエスはため息交じりに言う。
「それに、先ほどへインに襲われた時。なぜ出てこなかったのですか?」
「そんなこと言ったってー。僕は、戦闘苦手だしー。ヤミノだったら、余裕だって信じてたんだよー」
そう言いながら、短い手で俺の頭をぽんぽんと叩く。
「はあ……」
「まあまあ。いざって時は、エメーラも戦うだろうし。その辺にしておいて。な?」
「主がそう言うのであれば」
その場をなんとか治め、俺達はリューマさんの案内の下、黒龍が待つ場所へと移動する。途中、へインとイリンが用があると言って抜けたが、それ以外は特に何かが起こることもなく順調に進む。
まあ、街の人々からの歓声などが途切れることなく響いてはいたけど。
「はっはっはっは! ここの者達は、随分と元気じゃのう!」
「私は、静かな方が良いのだけど」
「申し訳ありません。ですが、我々一同。皆様のお越しをずっと待っていたのです。それに、龍の国に来客が訪れるのは、これが初めてのことですので」
ずっと外との交流を立っていた謎多き国。
そこへ、俺達が初めて踏み込んだ。
普通なら、歴史に名を遺す快挙と言ったところなんだろう。俺も冒険者。こういう謎多き地に、足を踏み入れたら心が躍る。
「ねー、今から会う黒龍ってどんな奴なの?」
俺の中へ入ることなくヴィオレットと共に俺に抱えられているエメーラが問いかける。
「それは、見た目のことでしょうか?」
「まあね。性格とかは、この街の人達を見ればなんとなくわかるし」
「そうですね……申し訳ありませんが、黒龍様ご本人から内緒にしてほしいと言われておりまして」
「ふーん。私達を待っていたと言っているわりに、まだ秘密主義を貫き通すのね」
「申し訳ありません」
リューマさんは、決して悪くはない。とはいえ、気にならないというわけじゃない。
「―――到着しました。ここが、黒龍様がおられる封龍の塔です」
街の外からでも見えていた黒い塔。
やはり、黒龍が居る場所だったか。
「私が同行できるのは、ここまでです。ここからは、皆様だけで黒龍様の下へ辿り着かなければなりません」
「ほう? その物言いから察するに、何かが待ち受けているというわけか」
「ま、まさか試練、とか?」
緊張しているのか、ヴィオレットはぎゅっと俺の腕にしがみ付く。
「それは、私の口からは」
「まあいいでしょう。試練を乗り越えた先に、黒龍が待っているというのであれば真正面から挑むまです」
「もー、相変わらず突撃思考なんだからー」
「ふふ。でも、リムエスの言葉にも一理あるわ。私も、試練とやらがどんなものなのかずっと楽しみにしていたもの」
「わしもじゃ。さあ、いざ行かん!!」
リューマさんを残し、俺達は塔の中へと足を踏み入れる。
試練か……いったいなにが待ち受けているんだ?
「ふむ。中は……特に変わったところはないようじゃな」
仰々しい鉄の扉の奥は、フレッカの言う通り特に何かがあるというわけでもない広々とした空間だった。あるとすれば、奥に入口と同じような鉄の扉があるということか。
「なに馬鹿のこと言ってるの? 明らかに怪しいものが床にあるじゃない」
「封印陣、でしょうか?」
「うへー、明らかになにか出てくるって感じじゃんかー」
エメーラがそう言った刹那。
床の陣は輝きだし、光の粒子が扉の前で収束し形を成していく。俺達は、一斉に構える。
「……あの姿は」
俺達は、その姿に見覚えがあった。
表情がない発光した人型とはいえ、あの姿は。
「ララーナ?」
そう。俺とエメーラの娘であるララーナの姿だった。