第三十八話 光を覆う黒
今まで、彼女達の炎を同時に扱えるように心がけていた。
最初は、一人の炎を操るのも大変だったが、慣れと言うのか。今となっては、同時に複数の炎を操れるようになっていた。
そして今。
戦いを重ねたことで、新たな段階へと俺は成長できた。
「おお……おおお!! 素晴らしい!! フレッカ様とリア―シェン様の力が融合したのですね!! なんと、なんと美しい! かっこいい!!」
ネネシアの恍惚とした声が聞こえる。
リムエスの時の二つ同時に操った時よりも進化した。俺の背後には、フレッカが使う【オーバー・フレア】により生成される炎が燃え上がっており、右手には赤炎、左手には青炎の籠手が装着されており、その籠手から同じ色の刃が伸びている。
(これは、フレッカとリア―シェンの武器を融合させたようなものか?)
こういう武器があることは知識としては知っていたが、まだ扱ったことはなかった。
「随分と力を増したようだね。だが」
ふっと小さく笑みを浮かべたと思いきや、トーリは一瞬にしてその姿を消す。
その場に残ったのは、光の羽根。
「ヤミノ様!」
「ああ。見えてる!」
ネネシアの声に俺に返事をしつつ、頭上から落ちてくる光の剣を前に出て回避する。
「落とします!!」
一瞬にして、俺達の頭上へと移動したトーリへネネシアが反撃の魔法を放つ。
四方八方から、トーリの逃げ場をなくすように炎と雷の剣が襲う。
「その程度の魔法など」
それをトーリは回避する素振りをまったく見せずに生身で受ける。
体に激突した魔法は、傷一つつけることなく弾けた。
「なら!」
(受けるがよい!!)
赤炎の剣を一回り大きくし、背後から翼を狙って切りかかる。
「今の俺に死角などない!!」
だが、攻撃が届く前に光の壁に刃が阻まれる。
「【聖光波動撃】!!」
それと同時に光の波動が俺達を襲う。
体が弾かれ、トーリから距離が空く。
「光よ!!」
(次、来るわよ!!)
俺達に隙を与えないとばかりに、トーリは右手を天へと突き出す。
何をするかと思いきや、空中を待っていた天使達が光の槍へと姿を変えた。
「やれ!」
トーリが手を振り下ろすと、光の槍は俺達へ向かって襲い掛かってくる。
「しまった……! ヤミノ父さん!!」
目の前で天使達が光の槍へ姿を変えたのを目の当たりにしたフェリエは、攻撃を防ごうと叫びながら青炎のナイフを十数本投げつけるも。
「くっ!」
「はっはっはっは!! その程度では止まらないぞ!!」
削減の能力により多少小さくなったものの勢いはなくならない。
(大丈夫よ、フェリエ)
俺は青炎の剣を構え、横薙ぎに振るうと刃となって飛んでいく。
青炎の刃が、光の槍に激突するとまるで溶けたバターを切るかのように真っ二つになる。
「さすがは本物。能力に力の差があるようだ」
「娘をまがい物みたいに言うな」
「おっと。気に障ったか? お父さん」
(はん! 相変わらず憎たらしい奴じゃ!)
俺達を怒らせ、冷静さを失わせる作戦なのか。確実に気に障るようなことを言うトーリ。
「闇の炎様達への不敬は許しませんよ」
「許さなければどうする? お前の攻撃は俺には効かないぞ」
「……」
「言い返せないようだな。所詮、お前は俺の領域には足を踏み入れられない凡人だ」
確かにネネシアの攻撃は効かなかった。
だが、彼女は決して凡人ではない。
本来であるなら、全属性の魔法を、それも何属性同時に扱えるなど天才と言っても良い。しかし、それでも聖神―――神の力を得た存在には霞む。
「そこまで言うのであれば」
「ネネシア?」
(む? 奴の纏う空気が)
(変わった?)
フレッカとリア―シェンの言う通り、ネネシアの纏う空気が変わった。なにか体に纏わり着くような……これだ! と表現できない不思議な。
「ん? これは」
トーリが何かに気づいた刹那。
「【ブラック・リターン】」
ネネシアが何かを唱えると、それは起こった。いや、正確には何かが起こったわけじゃない。周囲には何も現れておらず、トーリにもダメージはない。
じゃあ、何が起こったのか? それは……。
(……そうじゃ。思い出しだぞ)
(はあ……してやられたわね)
記憶。
今までずっと疑問に思うも、思い出すことができなかった記憶。
ヴィオレット。
エメーラ。
リムエス。
フレッカ。
リア―シェン。
ヘティア。
六色の闇の炎の化身。その名前がわかっていた。だが、最後の一人の名前を誰もが思い出せずに居た。
「君が、黒の……最後の炎だったのか」
姿は変わらずも、彼女から感じられるのはヴィオレット達と同じ化身の力。
フレッカ達も聞きたいことは山ほどあると思うが、ネネシアは自分の口元に人差し指を近づける。
「話したいことは、この戦いを終えた後で」
「そうか。お前が、聖神様が探していた……」
聖神が探していた?
「ならば、俺がここで滅する!!」
先ほどのお返しとばかりに、トーリはネネシアの周囲に光の槍を四方八方に展開させた。
「ネネシア!!」
彼女を助けようと剣を振るおうとするも。
「ご心配なく」
ネネシアは、くすっと笑みを浮かべながら、優雅に、踊るように、ゆらりと右手を動かす。
「ば、馬鹿な!?」
「光が……」
揺らめく黒が、まるで光を食らうかのように覆った。