第三十三話 天を殴る太陽
『アハハハハハ!! 受けよ! 受けよ!! 天の裁きを!!!』
「わーお……剣で傷つけられただけで、あんなにも大きく」
などと余裕のありそうな言葉を呟くエルミーだったが、すぐさま天から降り注いだ光の雨を防ぐべく黄炎の小盾を展開する。
『降り注げ!! 光の雨よ!!』
天使と化した信徒は、その右手に持つ剣を振りかざすと、天より無数の光が雨のように降り注ぐ。
「広域展開!! お父様! 強化をお願い!!」
「わかった!!」
俺達の頭上に展開された黄炎の小盾に、俺は増大の能力を発動させる。
すると、黄炎の小盾はリムエスの使う大盾と同じぐらいに大きくなった。
「そこへ、さらに!!」
すかさず重ねるように、俺とエルミーが硬化の能力で硬くする。
天使の攻撃がどれほどのものか予想がつかない以上、やり過ぎるぐらいが良い。
「よーし!! 防げてるよー!! お父様!!」
どうやら無事に天から降り注ぐ光の雨を防げているようだ。しかし、勢いが凄まじいのか。盾にぶつかった光は、周囲へと拡散している。
そのせいで、視界を遮るかのように雪が舞っている。
『なんたることだ! 聖神様から授かった力が防がれるとは!! ふざけるな……ふざけるな!! こんなことがあってはならない……ならぬのだぁ!!!』
「え? 一回塞がれただけで、そんなの動揺しなくても」
と、エルミーは天使化信徒の動揺ぶりに顔を引きつる。
確かに、攻撃を防がれるのは悔しいだろうけど……。
「いくらなんでも精神が不安定過ぎますね……そこの騎士様。これは天使化が影響している、と言うことでよろしいのでしょうか?」
複数の天使達に身を護らせているトーリへファリエが青炎のナイフを突きつけながら問いかける。
「見ての通りだ。聖神様の力を授かって気分が高揚しているんだろう」
『あああ……アアアア……! 聖神様!! 我が信仰心をどうか!! どうかお受け取りくださいィ!!!』
「このぉ!!!」
天を仰ぎながら叫ぶ天使化信徒にルビアがエルミーが展開した盾を踏み台に跳び突っ込んでいく。
そして、己の増大の能力で巨大化させた赤炎の手甲を、顔面目掛けて打ち込んだ。
『無駄ァ!!!』
「うわっ!?」
が、直撃する前に光の壁に阻まれる。
ルビアの攻撃力でも防がれる防御壁か……。
「むう!!」
一番近くの盾の上に着地し、不機嫌そうに天使化信徒をルビアは睨む。
『フハハハハッ!!! 軟弱! あまりにも軟弱!! これぞ、聖神様の加護!! さあ、天使達よ!! 聖神様に抗う闇を浄化するのだァ!!!』
天使化信徒が命令を下すと、ずっと空中で停止していた天使達が一斉に武器を構えた。
「さあ、ヤミノくん。この数の天使達と戦うつもりだ? あぁ、先ほどので理解したと思うが。天使達は全員が元人間だ」
どこか勝ち誇ったかのような表情で問いかけてくるトーリに、俺は。
「元には……戻らないのか?」
「戻らない」
知りたかった答えを聞いた俺は、そうか……と呟き、紫炎の弓を生成する。
「ほう。殺すのか?」
「違う。救うんだ……!」
「はははは!! 言いようだな!! 結局は、彼らを殺すことには変わりない!!」
「おおおおっ!!!」
心地よさそうに高笑いするトーリに、赤炎と紫炎を織り交ぜた矢を解き放った。イア・アーゴントを容易に焼き貫くほどの炎の矢が、凄まじい回転と共に一直線に進んでいく。
……が、しかし。
「―――なに!?」
トーリを護る天使の盾に激突……することなく、直前で空間を飛び越え聖剣を吹き飛ばした。
「破壊できなかったか……!」
弾き飛ばされた聖剣を見て、俺は眉を潜める。
より火力を上げるために、赤炎と紫炎を織り交ぜたが……それでも、刃にひびを入れる程度。
「貴様ぁ……!!」
自分の手を抑えながら、俺のことを睨みつけるトーリ。
「聖剣によって天使になったのなら、その聖剣自体を破壊すれば天使化はできない。それどころか、天使化した人も元に戻せるかもしれない。……言ったはずだ。救うって」
『不敬者がぁ!!! 聖剣を!! 聖神様から賜りし武器を!! 破壊など絶対にさせぬゥ!!!』
天使化信徒が、その手に持った剣を振り下ろすと天使達は攻撃を仕掛けてくる。
「ヤミノ父さん! 周囲の天使達はお任せを!!」
ファリエは青炎のナイフを手に跳躍。
エルミーが、空中に展開した黄炎の小盾を足場にして天使達へと向かっていく。
「うがああ!! あたしだって!!」
「ルビアちゃーん! 壊しちゃだめよー!!」
「えええ!?」
「ルビア様ぁ!! 支援はお任せくださいませええええええ!!!」
意気揚々と再び突撃していくルビアにエルミーが言う。
しかし、ずっと全力で戦ってきた彼女にとっては手加減というものが難しいだろう。ネネシアが、そんなルビアを気遣って支援をしてくれるようだけど……大丈夫か?
「……どこまでも甘いな」
「救える手段があるなら、俺はそれを選ぶだけだ!!」
次こそは完全に破壊するという意思と共に、俺は第二の矢を解き放つ。トーリからは距離がある。拾うことはできない。
だけど、こっちには空間を飛び越えることができる。
(これで!)
今度こそ破壊した。
そう思った刹那。
「なっ!?」
聖剣がどこかへと消え去る。
あれは……空間転移? じゃあ、聖剣は。
「やれやれだ。空間を飛び越える攻撃……確かに凄まじい。だが、聖神様から授かったこの聖剣レーヴァルは簡単には破壊されはしない」
トーリへ視線をやると、その右手には弾き飛ばされた聖剣レーヴァルがあった。
「これぞ聖神様の御業。空間操作が君だけの力だと思わないことだ。更に」
何をするつもりだ? と思っていると、おもむろにトーリは自分を護っていた天使達を聖剣で切り裂いた。
すると、天使達は光となり……聖剣に吸い込まれていく。
「刃が……修復した?」
『フハハハハハッ!!! やはり、聖神様は至高!!! 悪しき力になど破壊することはできぬのだァ!!!』
破壊すると言って破壊できなかったことに天使化信徒は完全に勝ったと思っているのか。天を仰ぎながら高らかに笑う。
「――――うるさあああああああいっ!!!」
『ごぶああああっ!?』
がしかし、聞き覚えのある叫び声と同時に天使化信徒は巨大な赤炎の拳に殴られ吹き飛ばされる。
「この声は」
「ふはははは!! なんとか間に合ったようじゃな!!!」
俺の目の前に着地したのは、すでに【オーバー・フレア】を発動し、背後の炎が半分ほど生成された状態のフレッカだった。