第三十二話 敵か味方か
お待たせしました。
なんの連絡もなく二ヶ月も更新せず申し訳ありませんでした。
一応生きております。
リックとコトロッツと別行動をしているリア―シェンは、一面凍り付いた湖の近くで激しい斬り合いを繰り広げていた。
「それ! それ!! それ!! どうしたのかしら!! ずっと受け身じゃない!!!」
『そう言われましても……! 俺は、お姉さんと戦う気はないんですよ!!』
魔剣狩りの赤き鎧武者―――鬼童蓮児は、人の身では到底持つことも振るうこともできないであろう両刃の大剣を片手で軽々と操り、リア―シェンの青炎の刀による連撃を説得しながら防いでいる。
だが、当のリア―シェンはそんな説得など聞きもせず、本気で蓮児を斬り殺さんと刀を振るっていた。
『というか、お姉さん! 俺とは二度と会いたくなかったんじゃないんですか!?』
大剣を斜めに構え、がっちりとリア―シェンの刀を防ぎながら声を上げる。
「ええ。だから斬るのよ」
『なにゆえに!?』
「二度と会わないように斬るのよ」
『もう”二度”会ってますけど!?』
「細かいことは気にしない!!」
『そんなぁ……!?』
鍔迫り合いの中、理不尽な言葉を投げつけられた蓮児。
そのごつい巨体からは想像もつかないほどの甲高い声を上げながら、リア―シェンを弾き飛ばす。
「青き炎よ」
刀を下段で構え呟くと、リア―シェンの左手に青炎の小刀が生成される。
『に、二刀流……』
それもただの二刀流ではない。
左右で武器の長さが違う、変則式である。
「未来の夫を真似てみたわ」
ふっと笑みを浮かべるやいなや、ノーモーションで生成したばかりの小刀を蓮児目掛けて投げつけた。
『うおっ!?』
驚異的な反応速度でなんとか小刀を上空へと弾いた蓮児だったが。
「―――隙ありよ」
『いいっ!?』
まるで瞬間移動をしたかのように、いつのまにか間合いを詰めていたリア―シェン。
回避も、防御をする暇もなく一刀にて切り裂かれた蓮児は、追い払うように大剣を振るうも、華麗に後方へ回避されてしまう。
「今回はバッサリと斬れないわね」
弾かれた小刀を消し、再び生成しながら残念そうにリア―シェンは呟く。
『そう何度も一撃で終われないですよ。……お姉さん。こんなところで、俺なんかと戦ってて良いんですか?』
「何が言いたいのかしら」
『こうしている間にも、向こうではとんでもないことになっていると思いますよ』
と、蓮児はヤミノ達が居る方向を見る。
「そうでしょうね」
『心配じゃないんですか?』
「心配じゃない、と言えば嘘になるわね。けど、大丈夫よ」
『……信頼しているんですね』
「それなりには、ね」
会話を終えると、蓮児は大剣を消し去る。
「なんのつもり?」
『あははは。今日は、俺の負けです。降参!! ……てことで良いですか?』
両手を上げながら言う蓮児だが、リア―シェンは明らかに納得していない表情で睨んでいる。
『お姉さん。なんとなく気づいているかもしれませんが、ここに居る俺を倒したところで何の意味もありませんよ。力の無駄遣いです。というか、とても不満そうですけど、お姉さんってば本当に戦闘がお好きなんですねぇ』
「勘違いしないでくれる?」
『へ?』
「私は、戦闘が好きなわけじゃない。……斬るのが、好きなのよ」
リア―シェンの回答に蓮児は、開いた口が塞がらない。
「特に、あんたのような斬り応えのある奴は腕が鳴るわ」
『こ、怖いですよ。お姉さん。ま、まあ……それはさて置いておくとして。いや、置けないけど。ともかく! 俺は、魂が定着した鎧。魂が消えない限り何度でも新しい体で復活します』
蓮児の言葉に、リア―シェンは最初に倒した時のことを思い出す。
完全に消え去った、かのように見えたが、今もこうしてぴんぴんしている。
「それは厄介ね」
『てことで、ここはお開きってことで』
パン! と両手を合わる。
「……そうね」
納得してくれたか、と蓮児は胸を投げ下ろす。
「それじゃあ」
『え?』
「その体をバッサリと斬って、さっぱりとお別れしましょう」
満面の笑顔を向けられながら、今から殺す宣言をされた蓮児は、また説得をしようと思考するも。
『では最後に』
無理だと諦めた。
完全に、斬りたくてしょうがないと言わんばかりの表情をしていた。
「なにかしら?」
刀と小刀を消し、身の丈以上の大刀を上段で構えるリア―シェンに、蓮児はこう言い残した。
『そろそろ封印された俺達のボスが復活します。つまり、本格的な戦い……いや、戦争が始まるってことですね』
「……そう。貴重な情報提供ありがとう」
『いえいえ。あっ、最後って言いましたけど、もう一個! お姉さんのスリーサイズとか知り』
刹那。
容赦なく振り下ろされた大刀から放たれた青炎の衝撃波にて真っ二つにされた蓮児。
「さっさと消えなさい」
『では、またどこかでー』
また天へと昇りながら再会しようと言ってくる蓮児に、リア―シェンは厄介な相手に好かれてしまったとため息を漏らす。
「さて」
大刀を消し去りながら、リア―シェンはヤミノ達が居る方向へ体を向ける。
「この感じ……あいつが助っ人で来たようね」
感じる懐かしい気配に眉を潜めながらも、まだ終わらない戦いを終わらせるべく気持ちを切り替える。
「あっちには、斬り応えのある敵はいるかしら?」