第三十一話 帝国騎士の意地
ふう……なんとか間に合った。
宣言通り先月よりは多く更新できました!
……はい。来月こそ四章を終わらせてみせます。
頑張りまーす!!!
突如として現れたリア―シェンは、コトロッツに炎魔武装ヤミノ―を渡し、早々に姿を消した。
「まったく、あの女は身勝手な……!」
「まあいいじゃん。今の僕達じゃ、あの魔剣使いと戦うのは無理があるのは事実なんだからさ!」
鎧武者達の攻撃を回避しながら、リア―シェンの行動にリックとコトロッツは眉を潜める。
だが、今の自分達の実力では足手まといになるというのも事実。
「わかっております……ですので!」
大振りの一撃を最小限の動きで回避し、青炎を纏った炎魔武装ヤミノ―で黄色の鎧武者へと一閃……脇腹部分が焼き切られた。
「こいつらを倒すことに全力を注ぎますとも。倒すための力を手に入れましたからな」
今までずっと傷一つ付けられなかった相手に初めて傷をつけた現実をコトロッツは噛みしめながら、必ず倒すと剣に誓う。
「ひゅー!! 見事に焼き切れたじゃねぇか! コトロッツよぉ!! リック!! 俺達も負けてられねぇぜ!!!」
「もちろん。いくよ、シュヴァルゼン!」
「やぁってやるぜ!!!」
完全回復とは言わないが、動けるまで回復したリックは魔霊シュヴァルゼンと共に青色の鎧武者へと突撃する。
振り下ろされる一撃を魔霊シュヴァルゼンが受け流し、リックは更に踏み込む。
「【シュヴァルツェル】!!!」
赤黒いオーラを纏わせ、そのまま体の捻り、回転の力を加える。
「ひゃっはー!! 回るぜぇ!!!」
そこへさらに、魔霊シュヴァルゼンの鉤爪も同時に襲い掛かった。
「どうよ! 俺らの回転斬りは!!」
「団長。その技は体に大きな負担がかかります。どうかほどほどに」
「はいはい。それじゃ、早く体を休めるために一気に終わらせちゃおうか。コトロッツ」
「承知!!」
リア―シェンからのダメージもあり、鎧武者達は今にも崩れ落ちそうな状態。
だが、それはリックも同じ。
ここまでの戦いで体力も気力も血も、かなり失っている。コトロッツ達の前では、いつもの調子を見せているが、明らかに顔色は悪く、呼吸も乱れている。
早々に終わらせ帝都に戻り集中的な治療を受けなければ命に係わるだろう。
「……どうやら、あっちも一気に終わらせにくるみたいだね」
ボロボロになった鎧武者達は派手にぶつかり……混ざり合った。
左半身が青、右半身が黄。
体も一回り大きくなり、両手には両刃の大剣を握っている。顔はないままだが、明らかに威圧感が先ほどよりも増している。
「でけぇ!! だが、これってば追い詰められての最終手段って感じだなぁ! おい!!」
「関係ないけど、ね!」
天へと剣を掲げ、魔霊シュヴァルゼン纏わせ、黒き巨大な刃と化す。
それを一薙ぎに振るい、鎧武者を切り裂けんとする。が、容易に大剣で防いでしまう。
(貰った!!)
しかし、それは囮。
派手な技で注意を引きつけ、コトロッツが死角へと移動する。そのまま倒せれば、それでいいし、防がれてもコトロッツが一撃を与える。
「ぬっ!?」
左斜め下からの一撃。
まるで最初から打ち合わせをしていたかのように、見事な連携だった。しかし、コトロッツの攻撃は……かすり傷程度だった。
青炎を纏っているとはいえ、それは永遠ではない。徐々にだが、炎が消えていっている。それにより威力が落ちている。
(こちらの威力が下がっているのもそうだが……)
鎧武者の反撃をギリギリのところで後方に跳び回避しながらコトロッツは相手の分析する。
(二体が融合したことで、明らかにさっきより硬くなっている!)
一体でも硬かったが、二体が融合したことで硬さが増している。
「だが、それでも!」
消えかかっている青炎にコトロッツは魔力を纏わせる。
それだけじゃない。
バチバチ、と雷が激しく唸りを上げ、コトロッツの体を包み込んだ。
「【一騎雷装】」
ぐっと両足に渾身の力を込め、鎧武者へと飛び込むコトロッツ。
その姿は、まさに雷の化身。
「おおおおっ!!」
目にも止まらない速度で、鎧武者の周囲を動き回り一撃。
すぐさま距離を取り動き回り一撃。
相手に捉えられないように、攻撃をされないように、コトロッツは次々にダメージを与えていく。
「ひゅう! 久々に見たぜ! コトロッツの雷モード!!」
魔力による身体強化に加え、雷を纏うことで更に身体能力を極限にまで上げるコトロッツのとっておきの技。この技によりコトロッツは雷の騎士と呼ばれることとなった。
強力、ゆえにリスクもある。
解除されれば、尋常じゃない筋肉痛に襲われ、しばらくの間身動きが取れなくなってしまう。
「なら、僕達も」
「おうよ!! 派手で! 強力で!! かっこいい一撃であいつをぶっ倒してやろうぜ!!! 相棒っ!!!」
すっとリックは剣を構える。
「【魔装】」
「俺達も融合だぜぇ!!」
魔霊シュヴァルゼンがリックの全身を包み込む。
その姿はリックというよりも、魔霊シュヴァルゼンが人の姿へと成ったと言うべきだろう。そこには人としてのリックはおらず、ただただ目の前の敵へと攻撃する―――化け物だ。
『派手に殺してやるぜぇ!!!』
リックと魔霊シュヴァルゼンの声が同時に響き渡る。
戦闘狂で、どこか常人とは違うところがあったリック。それでも、まだ人間らしさはあった。しかし、今の彼は魔霊シュヴァルゼンと融合したことで目の前の敵を倒すだけの本当の戦闘狂へと化したのだ。
『コトロッツ!! 派手な一撃を入れて、交代だぁ!!』
「承知!!」
爆発的に体に纏った雷が唸りを上げる。
炎魔武装ヤミノ―の切っ先を突き出し、コトロッツは上空から雷の槍となり鎧武者へと突貫した。
「ぐっ!?」
鎧武者の右腕を破壊したコトロッツは膝を突く。
身に纏った雷は消え、炎魔武装ヤミノ―はボロボロに砕け散る。
「団長……後は……」
『上出来だぁ!! コトロッツ!! 褒めてやるぜぇ!!!』
右腕がなくなり、バランスを崩したところでリックが剣と化した五本の爪を振り下ろす。
反撃せんと残った左腕で鎧武者は大剣を振るう。
ぶつかり合う二つの攻撃。
一瞬、リックが押されているかのように見えたが。
『細切れに―――なりやがれやぁ!!!』
魔霊シュヴァルゼンの鎧が砕けながらも、鎧武者の大剣ごと体を切り裂いた。
「がっ!?」
「うおっ!? 融合が……!?」
そのままの勢いで地面を転がり、リックと魔霊シュヴァルゼンとの融合は解ける。
「はあ……はあ……はあ……」
冷たい雪の上に仰向けになりながら乱れに乱れた呼吸をなんとか整えようとするリック。魔霊シュヴァルゼンも、ほとんど力を使い果たし今にも消えそうになっている。
「だ、団長……!!!」
自分の呼ぶコトロッツの声にリックは霞む瞳をなんとか開く。
「ははは……凄いね、君は」
瞳に映ったのは片腕を捥がれ、体を引き裂かれながらも動いている鎧武者の姿。そして、身動きがとれないリックへトドメを刺さんと左腕を振り上げていた。
自分を助けようとコトロッツが引きずるように動くも間に合わない。
当然、巻き込まれないように距離をとっていた騎士達も間に合わない。
「あぁ……世界ってほんと……強者が多いなぁ」
まだ見ぬ強者達と戦えない悔しさと、ここまでして倒せなかった自分の不甲斐なさをヒシヒシと感じながらリックは、己の死を覚悟する。
「団長おおおおおおっ!!!」
あの時と同じ。
コトロッツの声がどこまでも響き渡る。
「……ん?」
が、あの時と違い衝撃はなく、ただただ冷たい風が吹くばかり。
どういうことだ? とリックは閉じた瞳を開ける。
「団長……我々の……勝利ですっ」
「そう、みたいだね……」
振り上げた左腕からボロボロと崩れ落ちる鎧武者。
よく見れば中身はなく、ほとんど空洞となっていた。
「はあ……素直に勝利を喜べないのは、これが初めてだよ」
今までリックは、その才能で負け知らずの人生だった。魔剣を手にしてからは、さらに相手になる者はいなくなり、騎士団の団長となったもののまだ見ぬ強者を求めて世界へ旅立とうと本気で考えていたところへ……魔剣狩りが現れた。
初めて敗北を味わい、追い込まれ、死を覚悟した。
そんな相手に、本体ではないとはいえ勝利したというのに……リックはもやもやした気持ちでいっぱいだった。
「……コトロッツ」
「な、なんですかな?」
這いずりながら、ずっと近づいてきていたコトロッツにリックは声をかける。
「僕は―――弱いね」
「……ですが、まだ強くなれます」
「うん……」
強くなる。
それは昔から変わらない。しかし、今は敗北を知ったからこそ、今まで以上に強くなると決意するのだった。
「そういえば、あの人は今頃なにをしているんだろうね」
「おそらく……本体と戦っているかと」
と、リア―シェンが姿を消した方向を二人は見詰めた。