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第二十六話 白炎の記憶

今年の夏は一味違いますね……。

 夢だ。

 これで何度目か……。

 これまでは、どうして自分はこんな夢を見るんだろうと疑問に思っていた。最初は、闇の炎の化身である彼女達と一体化したからだと思っていたけど……違った。


 これは、俺の前世。

 つまり白き闇の炎であるヘティアの記憶。

 俺はそれを追体験するかのように、夢で見ているんだ。


「はあ……まったく、あんたは」

「なんじゃと!?」


 そして、これまでは身振り手振り。会話は一切聞こえなかったが、今ははっきりと聞こえる。

 俺の目の前で、フレッカとリア―シェンが言い争いをしている。

 それを、ヴィオレットがどうしようと言った風に慌て、エメーラはいつも通りヴィオレットの膝の上でぐったりとまったりとしている。

 

「止めなさい、二人とも。今日はいったい何で言い争いになったのですか?」


 と、そこへ眉を潜めながらリムエスが止めに入る。

 これが、彼女達にとってはいつものこと。

 ヘティアは、それはじっと見詰めている。

 まるで、子供同士の可愛らしい喧嘩を見詰める親のような。わかるんだ……前世、だからかな。


「よくぞ聞いてくれた! リムエス!! こやつがのぉ」

「あら? 悪いのはフレッカ。あんたの方よ」

「何を言っておる。どう考えても、リア―シェンが悪いじゃろうが!!」

「あーもう……ヴィオレット、エメーラ。どういう状況なのか説明してください」


 二人ではらちが明かないと、リムエスはヴィオレットとエメーラに状況の説明を求める。


「え、えっとね。その……」


 ヴィオレットは、何とか説明しようとするも、言葉がうまく出てこない。


「いつもことだってばさ。まあ、しょーもないことだよ」


 にへらっと緩く笑いながらエメーラが言う。

 リムエスは、そんな彼女の言葉を聞き、ため息を漏らす。


「この二人の喧嘩がいつものことなのは知っています。自分が聞きたいのは、どういう経緯で、喧嘩になったのかを聞いているんです」

「えー、説明するのめんどくさいー」

「あーもう!」


 やはり、エメーラではだめだとリムエスはこちらを見る。


「ヘティア。にこにこしてないで、説明してください」

「――――」


 何かを言っている。

 だけど、どうしてか雑音のように聞こえる。


「あなたは、またそうやって……」

「――――――」


 なんでヘティアの言葉は聞こえないんだ? 前世……一度死んでいるからか?


「へ、ヘティア。お、お願いだから、止めて……」


 今にも泣きそうな表情でヴィオレットが懇願すると、ヘティアは動く。

 そして、フレッカとリア―シェンの間に入り―――



・・・・



「そーれ!! 壊れろ!! 壊れろぉ!!!」

「いけー! ルビアちゃん!! 暴れてる姿も可愛いぞぉー!!!」


 俺達は現在リックの捜索をしている。

 帝国騎士団も、リックが行方不明になったところから広範囲に渡り、手分けして捜索をしている。もちろん『闇の炎様好き好き教』の人達も。

 今は、捜索の途中で襲ってきた魔物の集団と交戦している。

 ……まあ、ルビアが我慢してきたものが爆発したかのように一人で殲滅をしている。

 

「……」

「どうかしたか? リア―シェン」


 とはいえ、相変わらず討ち漏らしがあるので、俺達が処理している。

 戦っている魔物は、グラーチア大陸に生息する固有の魔物アイスモンキーだ。簡単に言えば、白い毛の猿型魔物。

 人間の子供ぐらいの大きさで、集団で襲ってくる。

 知性も高く、氷属性の魔法も使うので、かなり厄介だ。……今回は、ルビアの赤い炎で燃やし尽くされているので、本来の力を発揮できていないようだが。


「やっぱり子供だからかしら。フレッカに戦いっぷりが似てるわね」


 今でも思い出す。

 フレッカとルビアの戦いを。あの時よりは、多少力をコントロールしているので、全力で暴れているように見えて、余裕を残している。

 あの時と一緒だったら、今頃地形が変わっているはずだ。


「それで……」


 周囲を警戒しつつも、俺はかなり離れた位置で、スケッチブックにルビアの雄姿をスケッチしているネネシアの姿があった。

 ……鼻血を出しながら。

 

「はー!! 捗ります! もの凄くペンが進みます!! こんな寒い中でも、ペンが進みます!!!」


 ネネシアは、てっきり残るかメーチェルと一緒に行くかのどちらかかと思っていたが。俺達の方についてきた。

 メーチェルの話だと、実力は本物だと言うことなので期待していた。

 実際、かなりの実力で。


「この高ぶる感情を糧に、いざ!!」


 スケッチしながらも、火属性の魔法で討ち漏らしたアイスモンキーを倒している。ある意味で、かなりの実力だと言える。

 そんなこんなで、数百単位のアイスモンキーを倒した俺達は、たくさんしゃべろうぜくんを使い、他の捜索隊へと連絡をした。


「コトロッツさん、メーチェル。こっちには、リックはいなかった。そっちは?」

『こっちにもいませんね。それらしい痕跡も』

『こちらもだ。くっ! リック団長は、どこに居るのだ……!』


 捜索を開始して、一時間ほどが経ったが、リックは見つからない。

 俺も、リックと魔剣狩りが戦ったところへ行ってみたが……雪崩が起きていて、あったであろう痕跡は雪に埋もれていた。

 

「コトロッツさん。諦めずに探し続けましょう」

『う、うむ。では、こちらは引き続き捜索を続ける』

『こっちも、もうちょっと捜索範囲を広げてみます。あっ、そういえばネネシア様は迷惑かけてませんか? どうせ、鼻血を流しながらスケッチをしていると思いますが』


 さすがメーチェル。まさにその通りだ。

 とはいえ、迷惑はしていない。

 むしろ、魔物処理に貢献してくれていたので助かっている。そのことを伝えると、メーチェルは。


『そうですか。それじゃあ、申し訳ないんですが。ネネシア様のことをよろしくお願いします』

「わかった」


 会話が終わり、次はどこを探そうかと皆に相談しようとすると。


「……どうやら、騎士団長さんよりも先に出会ってしまったようね」

「みたいだな」


 こちらへ向けられる明らかな敵意。

 ネネシアも、さすがにスケッチをしている場合ではないと思ったのか、手を止めていた。


「あわわ……!? あ、あんなに人が……」


 ファリエが驚くのも無理はない。

 ざっと数えても、ローブを羽織った人間が、五十人以上は居る。数だけだと、さっき戦ったアイスモンキーの方が多いが……一人一人が、かなりの実力者だというのはわかる。

 アイスモンキーなど比にはならないほどに。


「裁きの時だ。偽りの神よ」

「俺は、神を名乗ったつもりはないんだけど……。お前達は『聖神教』の信徒達だな?」

「そうだ。我らが崇めし聖神様はお怒りだ。人の身でありながら、神と偽るその暴挙……万死に値する」


 聖神様、か。

 彼らの言葉が正しいのであるなら、俺はこの世界の神から悪だと認識されていることになる。


「御託は良いわ。やるなら、さっさとやりましょう。どうやら、面白いものを持っているようだしね」


 感じるかしら? とばかりに、リア―シェンは俺を見る。

 ああ、感じる。

 今までに感じたことがない異質な力を。だけど、それはまだ解放されていないのか。微量に力が漏れ出しているかのような感じだ。


「お前達には、色々と聞きたいことがある」


 紫炎の弓を生成しながら、俺は『聖神教』の信徒達を睨む。


「捕縛させてもらうぞ」

「できるものならやってみるがいい。先に、我らの聖なる刃が貴様達の罪を裁いて」

「うがあああああっ!!!」

「あっ」


 張り詰めた、とてもシリアスな雰囲気だった。

 しかし、それをぶち壊すかのように赤い流星が『聖神教』の信徒達へと落ちて行った……。


「な、なにがっ!?」

「くっ!? 不意打ちとは……なんという卑劣な!!」


 信徒達がルビアの攻撃に動じる中、エルミーはやったぜ! とばかりに親指を立て、ファリエは開いた口が塞がらないと言う感じに固まっていた。

 そして、リア―シェンは。


「ヤミノ。さっき、私が言った言葉を撤回するわ」


 というと、フレッカとルビアが戦い方が似ているってやつか。


「どうやら、あの子はフレッカに似ず、随分な暴れん坊みたいね」

「……うん。まあ、元気なことは良いことだと思うけど」

「そうね。さあ、あの子のおかげで相手の陣形は崩れたわ。一気に畳みかけるわよ」

「ああ!」

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