第二十五話 ネネシア様大暴走
お昼更新です!
皆さん、熱中症にはくれぐれもお気をつけを!
水分補給大事!
「あちゃー……やっぱりこうなりますか」
「だ、大丈夫なのか?」
突然吐血したネネシアへ、メーチェルは慣れたように近づき助け起こす。
よく見ると、口元が吊り上がっており、幸せそうな顔に見える。
「ネネシア様ー。しっかりしてくださーい。ヤミノ様達が困っていますよー」
「はひ……ほ、本物は段違い……ふひっ」
「ねえ、ヤミノ。なんであの人、血を吐いたの? 誰かに攻撃されたとか?」
どうしてネネシアが吐血したのか理由がわかっていないルビアは、俺に問いかける。
「いや、攻撃は……されてないと思う。たぶん」
俺もどう説明したらいいのかわからず、口籠ってしまう。
すると、エルミーがフォローをしてくれるのか、ルビアの頭を優しく撫でながら口を開いた。
「ルビアちゃん。あの人はね、あたし達のことが大好き過ぎて血を吐いちゃったんだよ」
「大好き過ぎると血を吐くの?」
「わ、私も知りませんでした……こ、怖い……!」
エルミーの説明にまだ理解していないと首を傾げるルビア。ファリエは、そんな怖い事実を知ってしまう本気で怖がり、俺の後ろに隠れてしまう。
「実はね。あたしも、見えないところで鼻血を流してるのよ」
「そうなの!?」
「だって、あたしは家族が大好きだからぁ!!!」
と、いつものテンションでルビアに抱き着き、俺の後ろに隠れていたファリエをも抱き寄せた。二人の妹に挟まり、なんとも幸せそうな表情。
「あぁ……今、わたくしは歴史に残る美しく、尊き光景を目の当たりにしている……」
「あーあ、ネネシア様。鼻血が出てますよ」
少し復活したのであろうネネシアは、エルミー、ルビア、ファリエ達のことを見て鼻血を出す。それをメーチェルはこれまた慣れたように拭き取っていた。
なんだろう、この光景。
もっと真面目な感じになると思っていたけど。いや、少ないながらもこれまでの情報から、こうなってもおかしくないとは……思ってはいたけど。
「―――こほん。先ほどは大変失礼を致しました。ヤミノ様。リア―シェン様。そして、ご息女様方」
あれから、一時間ぐらいが経ち、ようやく落ち着いたネネシアは、深々と頭を下げ、謝罪をする。
ただ気になるところが一点。
「ふふ、ネネシア。目隠しなんかして、そういうプレイがしたいのかしら?」
「そ、そんな……プレイだなんて……!」
リア―シェンのからかうような言葉にネネシアは動揺する。
そう。彼女は現在、両目を黒い布で覆っている。
さすがに、このまま直視し続けたらネネシアの身が持たないと判断したのか。メーチェルがそっと巻いたのだ。
「あら? どうしたの? 少し声が上ずっているわよ?」
「ち、違うのです! これは……これは! ようやく……ようやく!! こうして出会えたので、感動のあまり興奮しているだけなのです!!! はい!!! 決して、そういうプレイを想像しての興奮なのでは!!!」
「そうなの? 残念ね。あんたが望むなら」
「の、望むなら?」
「ふふ。どうしてあげましょうか?」
「ど、どうなってしまうのですかぁ……!? わたくしはぁ……!!!」
「こら、リア―シェン。その辺で止めておくんだ。話が進まない」
「あら、残念」
俺は、リア―シェンを止めた後、ちらっとメーチェルへと視線をやる。
ごめん、という謝罪の意味を込めて。
すると、メーチェルに伝わったのか。彼女も、こちらこそとばかりに頭を下げた。娘達の方も確認すると、エルミーが二人に耳を塞ぐように指示していたらしく、ネネシアのことを見て何をしているんだろう? と首を傾げていた。うん、聞こえてはいなかったみたいだな。
ありがとう、エルミー。
「ごふっ……また失礼を」
「いや、こっちこそ」
「こちらにいらしたのは、協力の要請をしたいということでしたね」
「うん。どうやら侵略者だけじゃなく『聖神教』も動いているみたいなんだ」
「私も襲われたわね。人気者はつらいわ……」
はあ……とため息を漏らすリア―シェン。
「『聖神教』のことは把握しております。もちろん侵略者……魔剣狩りがグラーチア大陸に居ることも。そして、帝国騎士団団長が行方不明だということも」
「それで」
協力してくれるか? と問いかけるようとすると。
「というわけで、わたくし達『闇の炎様好き好き教』は全力でヤミノ様にご協力致します」
「決断、早いな」
「ええ。すでにメーチェルから話は聞いておりましたし、わたくし達があなた様方の頼みを断るだなんて」
思っていた以上に早く承諾してくれた。
ここが闇の炎を信仰する場だと理解はしていたけど……。
「では、さっそく信徒達に『聖神教』の調査とリック団長の捜索を。メーチェル。頼みましたよ」
「了解です。それでは皆様、後程」
ネネシアの指示に、メーチェルは頷き、姿を消す。
「さて」
そういえば、メーチェルが居なくてメーチェルは大丈夫だろうか? 今は、かなり落ち着いているけど。
「ヤミノ様」
なんだ? 急に空気が。
「ひとつ、お願いしたいことが」
「お願い?」
「こんなことを頼むだなんて失礼だと重々承知しております。ですが」
いったいどんなことを……。
「ですが!」
声を張り上げ、彼女がどこからともなく取り出したのは―――スケッチブックと筆だった。
「え?」
「どうか! あなた様のお姿を絵に残したいのです!! いえ、あなた様だけじゃない。ご息女様方も!!!」
さっきまでの真面目な空気は吹き飛んだ。
興奮した様子で、スケッチブックを構えている。
「……俺は、良いですけど」
「ひゃっふー!!!」
もの凄い喜び方だ。でも、直視したらまた吐血しそうで不安なんだけど。
「あたしも、もちいいよー」
「えー? 絵を描くって、終わるまでじっとしてなくちゃならないんだよね? やだなぁ……」
「す、すぐ終わります! 本当にすぐですから!!」
「わ、私もその……そういうのは」
「後生ですからぁ!!!」
なんなんだろう、この人。
真面目な美人かと思ったら、このテンション……でも『闇の炎様好き好き教』と名称するだけはある、と感じさせる。
神に祈りを捧げるが如く、涙を流しながらルビアとファリエに懇願しているネネシアを見て、俺は苦笑した。