第十四話 謎の寒気
ちょっと短め。
「元気そうでよかった。それにしても、いつの間にかあんな可愛い義理の妹ができていただなんて」
「……」
ヤミノとの再会を果たした後、勇者将太と聖女ミュレットは王城へ向かって歩いていた。
ミュレットにとっては、数か月ぶりに幼馴染に会えた。
元気そうでよかったと、笑顔で話すも将太はなにも反応を示さない。気になったミュレットは、話すのを止めて将太を見る。
「将太様?」
震えているように見える。しかし、神々から選ばれた勇敢なる光の戦士が何に怯えているのか?
(なんだったんだ、さっきの妙な悪寒は。一瞬……ほんの一瞬だったが、息が止まるほどの殺気を感じた)
眉を顰め、先ほどのことを思い出す将太。
途中までなにも感じなかった。
ヤミノと話していた時は何も。
(そうだ。あの時……ヤミノの義理の妹。アメリアと目が合った時だ。……いや、ありえない。勇者である僕があんな子供に?)
ただの人形を抱きかかえた可愛らしい子供じゃないかと将太は小さく笑む。
(そういえば、アメリアが抱えていたあの人形からも妙な気配を感じたような……まるで生きているみたいな作りをした奇妙な人形だったな)
「将太様。体調が悪いようでしたら、どこかで休憩をなさいますか?」
「いや、大丈夫だよミュレット」
気のせいだ。勇者である自分に怖いものなどないのだ。
将太は、ふうっと一呼吸入れてからミュレットに微笑む。
「そういえば、言わなくてよかったのかい? 僕達が付き合っているってことを」
「本当は言おうと思ったのですが。どうせなら最終日のパーティーで言おうかと思いまして」
「それはいい。彼はきっと驚くだろうね」
「ふふ。彼ならきっと祝福してくれますよ」
今は、自分達を祝福してくれているこの祭を楽しもう。
将太は、ミュレットの手を握り締め、人混みの中へ消えて行った。
(ヤミノくんには悪いが、幼馴染は僕が貰ったよ)
・・・・
「えっと、本当にやるのか? アメリア」
「もちろん!」
「うぅ……は、恥ずかしい」
さっそく祭を楽しむために、色んなところへ訪れていた。
最初は、普通に気になった食べ物を一緒に食べたり、珍しいものを手に取って楽しんでいたりしていたのだが。
アメリアが、突然俺達にやってほしいことがあると一人で、とある店に突撃していった。ヴィオレットは、俺に預けて。
そして、帰ってきたアメリアが持っているものを見て、何をしてほしいのかすぐ理解した。
「こういうのも夫婦らしいよね」
「いや、これは夫婦というよりも恋人なんじゃ?」
テーブルの上に置かれているのは、桃色のジュースが入っている大きめのコップ。
その中央には……ハート形のストロー。それもダブル。
つまり、これは二人でひとつの飲み物を飲むと言うもの。
こういうことは恋人同士の間で流行っているそうだけど。まさか自分がやることになろうとは。まあ、俺は恋人を吹っ飛ばして夫婦になってしまったんだが。
「どっちにしても仲睦まじい間柄なのは間違いないよね?」
「……えっとじゃあ」
わざわざ人気のないところを選び、例の空間を操る力でいつ用意したのか真っ白な丸いテーブルをセッティング。
まさかとは思うが、前々から計画していた? アメリアは頭も良い。よく本を読んでいるも大人が読んでいそうな文字びっしりのものばかりだからな。
「……あむ」
俺が先にストローを口に含むと、恥ずかしがりながらも両手で掴みながら大きく口を開けてヴィオレットもストローを口に含んだ。
「んぐ」
「チュー……」
透明なストローだったが、桃色のジュースにより一気に染まった。
「こ、これでいいか?」
さすがの俺も恥ずかしくなって顔が熱くなる。
ヴィオレットに限っては、今までにない恥ずかしさだったのか。身を丸くして完全に顔を見せない状態になっている。
まあ一人だけめちゃくちゃ笑顔な子が居るんだが。
「じゃあ、次はわたしとね。パパ!」
娘は、そう言って嫁とは違う飲み物を取り出した。
「あはは、娘ともか」
なんだかいつもよりテンションが高いようにも感じる。でもまあ、それだけ楽しんでいるって証拠だっよな。