第二十二話 皇帝との謁見
「うん。メモにあるものを全部買えてるな」
「が、頑張りました!」
「出て行った時よりもいい顔になったわね。よくやったわ、ファリエ」
「はい!」
一人で買い物に出たファリエは、メモに書かれたものを全て買い戻って来た。リア―シェンの言うように、出ていた時よりもなんだか落ち着いた雰囲気だ。
時間にして一時間ぐらいなんだが……。
「あっ、そうです。ヤミノ父さん、リア―シェン母さん。伝えたいことが」
「伝えたいこと?」
首を傾げながら、俺とリア―シェンはファリエが体験したことを聞く。
「……そいつらは、私を襲った連中と同じで間違いないわね」
「リア―シェンも襲われたのか?」
「ええ。あんた達が来る前の話だけど。連中も、私のことを偽りの神だとか言って襲ってきたわ」
偽りの神……ファルク王から聞いていたが、そいつらは『聖神教』かもしれない。『聖神教』は、闇の炎のことを本当の悪だと思っている。
今までは、こちらへ接触してくる気配はなかったが、どうやら本格的に動いているようだ。
「……」
俺は途端に別行動をしているエルミーとルビアが心配になり、たくさんしゃべろうぜくんを使って二人に連絡をとる。
すると、すぐにエルミーが出てくれた。
『お父様? どうかした?』
「エルミー。ルビアは一緒か?」
『いるよー』
声音から察するに、どうやら何事もないようだ。少しほっとした俺は、二人に事の次第を説明した。
『そんな悪いやつらが居るんだね! やっつける? やっつけちゃう!?』
「ルビア、落ち着いてくれ。まずは、集合しよう」
『うん。りょーかい。それじゃあ、どこに集合する? お父様』
「そうだな……」
俺は二人に集合場所を伝えたくさんしゃべろうぜくんを仕舞う。
「よし。後は、周囲を警戒して―――ん? あれは」
移動しようとした時だった。
遠目に黒い鎧を身に纏った集団が見えた。しかも、なにやら足取りが危ういように見える。一人一人が肩を貸し合って移動している。
「なにかあったみたいね」
「行ってみよう」
丁度集合場所への進路だ。今自分達も危険な状況だが、見過ごすわけにはいかない。俺達は駆け足で彼らへ近づくと、いち早くコトロッツさんが気づく。
「貴様らは」
「コトロッツさん。なにがあったんですか?」
「……魔剣狩りに、襲われたのだ」
「魔剣狩りに?」
その言葉に、俺はすぐリックのことが脳裏に浮かぶ。
この場にリックはいない。
そして、彼らはボロボロ……嫌な想像をしてしまったが、まだそうと決まったわけじゃない。
「それで、リックは?」
「団長は……」
ごくりと、喉を鳴らしコトロッツさんの言葉を待つ。彼は、俯きながらも静かに重い口を開く。
「わからぬ」
「わからない? つまり、死んだかどうかわからないってことかしら」
「そ、その通りです。リック団長は、魔剣狩りと一対一で戦ったのですが。お互いに大技を放ち……気づいた時には、二人とも姿がなかったのです」
と、コトロッツに肩を貸している男性騎士が説明してくれる。
「あんた達は、気絶していたってこと?」
「うむ。どれくらい気絶していたのかは定かではないが、あまりの力の波動に我々は気を失ってしまっていたようなのだ。……情けない。副団長として、帝国の騎士として……!!」
ぐっと拳を握り締め、コトロッツさんは涙を流す。
「ふん。本当に情けないわね、今のあんた」
「り、リア―シェン?」
そんな彼を見てリア―シェンはため息交じりに口を開く。
「今、あんたがすることって自分の情けなさに涙を流すことなのかしら? そんなことをしていても、何も変わらないわ。団長は、行方不明なのよね? なら、やることは決まっているでしょ」
「……」
「団長を信じているのなら、涙を流すのは後にしなさい」
「そう、であるな」
「副団長?」
リア―シェンの言葉を聞き、コトロッツさんは涙を掃い、男性騎士から離れる。
「団長は生きている。我々が、信じずどうすると言うのか……!」
先ほどまでの沈んだ表情から一変。
いつもの騎士としての顔となり、騎士達に指示を出す。
「騎士達よ! 団長捜索のため、再びあの場へと向かう! 準備をするのだ!!」
「了解!!」
コトロッツさんに肩を貸していた男性騎士が指示を受け、他の騎士達を連れ走り出す。
リック……無事でいてくれ。
「おほん! ……先ほどの言葉、感謝する。私としたことが、己の情けなさに心が沈んでいた」
「私は、言いたいことを言っただけよ」
「そうであるか。私は、これより団長のことを皇帝陛下に伝えに行く。貴殿達も、できるなら共についてきてはくれぬか?」
皇帝陛下か。唐突なことなのに、よくしてくれているからお礼を言いたいし、今起こっていることを伝えておきたい。
「もちろんです。ただエルミーとルビアと合流してからで良いですか?」
「うむ、構わぬ」
「じゃあ、私も一緒に行っても良いですかね?」
コトロッツさんを加え、今度こそエルミーとルビアと合流しようと転移陣を出したところで、ずっと別行動をしていたメーチェルが姿を現す。
「あら? 用事は済んだのかしら?」
「ええ、まあ。そのすみません。途中で離れてしまって」
「外せない用事だったんだろ? こっちこそ配慮が足りなくてごめん」
「い、いえいえ! そんなそんな! ヤミノ様が謝ることではありませんよ! そ、それよりも早くエルミー様とルビア様のところへ向かいましょう」
そうだな、と頷き俺達は二人と合流すべく中央広場へと転移する。
その後、二人に皇帝陛下と会うために城へ向かうことを伝え、コトロッツさんを先頭に城へと向かった。丁度、中央広場から北へ真っすぐ行けば城だったため転移を使わずに済んだ。
これまで帝都に来て、何度も目にしていた城。
王都にあるものとは違い、どこか人を寄せ付けない雰囲気がある。周囲を城壁と魔力結界で常に守っており、出入り口は正面のみ。その正面の出入り口も巨大な鋼鉄の門と帝国騎士達が守っている。
「皇帝陛下かー。どんな人なんだろね、お父様。なんだか聞く限りちょーお堅い人みたいだけど」
「リムエスみたいに?」
「ふふ。あながち間違ってはいないわね」
エルミーの言葉へルビアが返すと、それを聞いてリア―シェンが口を開く。
「そういえば、リア―シェンは一度会ったことがあるんだったか?」
城内へと入った俺達は、コトロッツさんの案内で皇帝陛下が待つ皇の間へと向かっていた。そこで、当然のようにどんな人なのかという話題になり、前にリア―シェンが一度会ったと話していたのを思い出す。
「まあね。ちょっと挨拶だけでもしておこうかしらって」
「あの時は肝が冷えましたよ……」
メーチェルも一緒だったようで、その時のことを思い出しため息を漏らす。
「まったくだ。陛下に対して上から目線で話すなど……」
「さ、さすがリア―シェン母さん。す、凄いです……!」
「そうでもないわ」
どこか得意げに笑みを浮かべながら鼻を鳴らすリア―シェン。容易に想像できてしまう。おそらく皇帝陛下を前にしても、跪かずに堂々といつも通りの調子で話していたんだろう。
「あんまり真似しちゃだめだぞ。普通なら失礼な行為なんだから」
「あら? 皇帝陛下様は、よい。許すって言ってくれたわよ?」
寛大な人で助かった。
「よいか? 陛下は確かに寛大だが、失礼のないように」
中央に何やら巨大な魔石のようなものがはめ込まれた扉前に辿り着いた。
『入るがいい』
すると、待っていましたとばかりに魔石から声が響き扉が開く。
(あの人が……帝国を治める)
その先に居たのは、全身に漆黒の鎧を纏った人物だった。