第二十一話 動き出す闇と光
久しぶりのお昼更新!
でも、ちょっと短めです……。
「き、筋力の低下? まさか弱体化魔法!?」
ファリエの言葉に、女性は対象の弱らせることで有利に戦う弱体化魔法を想像する。だが、魔法を使った素振りはなかった。
魔法とは、魔力を媒介に事象を起こす。
炎の魔法ならば炎を生み出し、水の魔法ならば水を生み出す。だが、付与魔法は肉眼では少々わかり難いのだ。何かをしている。何かをされていると。
だとしても、女性はずっとファリエを見ていたが、本当に何もしていないし何も起こっていない。ならば、ファリエは男性に何をした?
「魔法ではありません。これは、私達の能力です」
「なるほど……偽りとはいえ、神。いえ、神の子ということね……!」
多少怯んだ女性だったが、すぐにファリエを殺さんと刃を向ける。
「無駄です」
「なっ!?」
しかし、男性と同じく女性も武器を落とし、膝から崩れる。
「命までは取りません」
そう言うと、タイミングよく巡回をしていた兵士が通りかかる。
「これは……」
ファリエ達のことを目視すると、兵士は駆け足で近づいて来た。ファリエから事情を聞いた兵士は、なるほどと頷く。
「後のことは、自分にお任せください」
「よろしくお願い致します」
「最近は物騒ですから。こういった人気のないところを通るのは控えるように心がけてください」
「はい。それでは、失礼致します」
兵士に二人のことを任せ、ファリエは頭を下げてから、その場を離れる。
「……ふう」
そして、道を右へ曲がったところで深く息を漏らす。
「よし。お買い物を再開しよう」
・・・・
「くっ!? これはいつまでも続くんだ……!」
「わからないわよ、そんなの!」
ファリエが裏路地から離れた後。両腕と両足の筋力を低下させられた二人は、いまだに戻らない自分達の体に顔を顰めていた。
「さて、答えてもらおう。君達は、何者かを」
兵士は、地面に落ちている短剣を一本だけ拾い上げ、二人へ問いかける。
「……」
「……」
だが、答える気はないとばかりに兵士とは視線を合わさず口を紡ぐ。
「だんまりですか。まあ、この短剣と彼女を狙っていることで正体はわかりきっていますけど」
そこへ、一人の女性が空から現れる。
「メーチェル様」
四本の剣を携えた『闇の炎様好き好き教』の一人であるメーチェルだった。
「ご苦労様。いやぁ、それにしてもさすがはリア―シェン様のご息女。見事な早業でしたね」
「修道女……」
「どもども。『闇の炎様好き好き教』のふんわり仕事人メーチェルさんです。さっきも言いましたが、あなた達の正体はわかっています。『聖神教』の信徒さん、ですよね?」
メーチェルの言葉に、眉を動かすが、それ以上の反応示さなかった。
「この短剣。これは『聖神教』の信徒の証ですよね? 恰好はうまく一般人に変装できているのに、この短剣のせいでバレバレですね」
「黙れ! 偽りの神を崇める狂信者!!」
「はいはい。私達から見れば、あなた達も狂信者なんですよ。さて、ここだと目立ちますからね。場所を移しましょうか」
と、メーチェルが呟いた刹那。
ずっと立ち上がることができなかった二人が逃げ出す。
「ファリエ様の力が解けたようですね。でも……逃がしませんよ」
路地から出ようと走り去る二人を見詰めたままメーチェルは右手をかざす。
「なっ!? 体が……!?」
「う、動けない……!?」
あと少しというところで二人は冷たい風に足止めされる。体は浮き、瞬間的に二人を全身を凍てつかせた。
「さすがメーチェル様。お見事です」
「我々の出番はありませんでしたね」
再び静寂に包まれると、二人が逃げて行った方向から二人の兵士が現れる。
「この二人は貴重な情報源。凍結を解除したら、何をするかわからないですからね。そのまま運んでください」
「わかりました。メーチェル様は、この後のご予定は?」
「あはは。この後は、あの方たちのところへ戻ろうかと」
「では、後程」
「はいはーい。それじゃまた」
その場を兵士に扮した信徒達に任せてメーチェルは跳躍し、素早く壁を蹴って屋根へと上った。
「さて、念のためにファリエ様の護衛を陰ながらしましょうか」
早くファリエに追いつくため屋根の上を駆け抜ける。
「おっと、ちゃんとネネシア様にも連絡をしないと」
止まることなくメーチェルはネネシアへと遠話魔法を使う。
《あっ、ネネシア様。私です。メーチェルです。あなたの言う通り『聖神教』の信徒達がグラーチア大陸に上陸していました。そして、ファリエ様を襲いました》
《ご苦労様メーチェル。引き続き頼むわ》
《はい。わかりました》
《……》
《ネネシア様? どうかされましたか?》
問いかけてみたもののなんとなく予想がついている。
《あぁ……早く会いたい……会いたい会いたい会いたい会いたい!!! あぁでも、会ったら会ったでーーー》
ネネシアは溢れ出る感情を思いっきりメーチェルに送り込んでくる。そのあまりにも大き過ぎる感情に思わず遠話魔法を切ってしまう。
「……相変わらず重い愛情でしたね」
これは、面と向かって会ったらどうなってしまうのか。そんな少し未来のことを考えたメーチェルは頭を抱え深いため息を漏らした。