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第十九話 鬼の刃と魔の刃

もう、夏の季節ですね……。それぐらい暑い一日でした……。

『おー、まさに中二病って感じだ。他の二人は、剣の力を解放しただけだったけど……その右目と魔剣って繋がってるっしょ?』

「そうだよ。僕の魔剣シュヴァルゼンは、僕の右目にはめ込まれている魔眼と繋がっている。そして」

「ひゃっほー!! 今回の相手はめっちゃ巨大じゃあねぇかよ! リックっ!!!」


 いつも眼帯で隠されている右目は赤く鋭い。何よりも目立っているのは、リックの背後に現れた黒い生命体。

 赤い単眼をぎょろりと動かし、裂けているかに見えるほど大きな口を豪快に開いて大笑いをしている。足はなく、両の手の指は全て巨大な鎌のように鋭い。


『さしずめ、魔剣に宿る悪魔ってところか。くう……! 本来だったら、はしゃいでいるところだけど、こっちもこっちでやることをやらないといけないんでね』

「おいおい! 誰が悪魔だってぇ? 俺は、魔剣の精霊―――そう! 魔霊とでも呼称しよう! なあ? リック!?」

「魔霊かぁ、いいんじゃない? それっぽくて」

「だよな!? だよな!? つーわけで! 俺は、魔霊シュヴァルゼンだ!!」


 今から、命をかけた戦いが繰り広げられるという状況で、楽しそうに会話をするリックとシュヴァルゼン。それを見たセギラは、両手に持った巨大ノコギリを構える。


『そんじゃあ、勝負開始だ。そのうるさい魔剣を奪わせてもらう!!』

「僕に勝ったらね」

「おいおいおいおい!! そりゃあねぇぜ! リック!! お前と俺の物語は始まったばかりなんだぜ? 見捨てないでくれよぉ!!」


 リックが負けたらすんなりと渡すと言われ、悲しみの声をあげるシュヴァルゼン。が、それと同時にぐんっと右腕がセギラへ向けて伸びた。


『おっと……不意打ちとは、やるね』


 しかし、巨大ノコギリを盾にし、容易に防がれてしまう。


「不意打ちじゃねぇぜ! もう勝負は始まってんだ! 攻撃して何が悪い?」

『ごもっともな言葉で』


 防いだシュヴァルゼンの右手を弾くと、セギラは巨大ノコギリを見詰める。


『……なるほど。さすが魔剣だ』


 よく見ると、刃の側面にいくつもの傷跡がついていた。


「さすがリック団長!!」

「これならいけるぞ!!」


 コトロッツを含めた騎士達の攻撃が一切効かなかったセギラに傷をつけた。その事実を見て、騎士達は歓喜の声を上げる。

 だが、その中でコトロッツだけが神妙な顔つきでじっと見詰めていた。


『これは、こっちも負けてられないな』


 数分前までは、受け身ばかりだったセギラだったが、ついに自ら攻撃を加えんと動き出す。


「おお、どう攻めてくるのか楽し」

『まずは、さっきのお返しだ』


 一瞬だった。

 その巨体からは考えられないほどの速度で、距離を詰めてきた。そして、気づいた時には巨大ノコギリが眼前に。


「あはっ」


 笑顔。

 それは、恐怖によるものではない。

 歓喜による笑顔だ。

 

『防いだか』

 

 ほんの数秒遅かったら、その凶刃により殺されていただろう。常人には考えられない反応速度により、剣を斜めに構えることでリックは防いで見せた。


「防いだだけじゃねぇぜ!!」


 距離を詰めたことで、リック達の攻撃も当たりやすくなる。今度は、左右から同時にシュヴァルゼンが攻撃を仕掛ける。

 左側は防げたとしても、右はリックを攻撃しているため防ぐことはできない。

 騎士達は、誰もがもらった! と心の中で叫ぶ。


『俺の肩のやつ……盾っぽいだろ?』

「へえ、面白い体をしてるね。肩から腕が生えるなんて」

「うひゃあ!? きもっ!?」


 誰もが防ぐことはできないと思っていた攻撃を、肩にあった盾のような装甲で防いで見せた。それだけじゃない。その盾は、肩から現れた三本目の腕が持っていたのだ。

 いや、四本目の腕も右肩から生え、攻撃を防いでいる。

 

『複腕ってやつだ。こいつは、俺の意思でどうにでも動く。もちろん背後から攻撃しても、な』


 シュヴァルゼンの手を弾き、実際に背後の攻撃も防げることを見せ付ける。


「おいおいおいおい!! 俺の真似すんなよなぁ!!」

『別に真似をしてるわけじゃないんだけどなぁ、っと!!』


 今度はこっちの番だとばかりに、セギラは右腕をリックへと振り下ろす。

 

「っと……思っていた以上に手強いね」


 身を引き回避するが、完全ではなかった。


「だ、団長の顔に傷が!?」

 

 リックの右頬に鮮血が垂れる。


「まあ、こうじゃないとこっちも楽しめないんだけどね」

『本当に怖いなぁ、君』

「さあ、ここからはもっと上げていくよ!! シュヴァルゼン!!」

「おうよ!!」


 先ほどまでは、お互い様子見。

 ここからは、瞬きも許されない攻防が始まった。

 リックは、魔霊シュヴァルゼンと共に。セギラは、両肩の複腕を使い一歩も引かず斬り合う。頬が、腕が、腹が傷つこうと。

 

「……この戦い、リック団長が不利だ」


 ずっと沈黙を貫いていたコトロッツがようやく口を開いたと思えば、騎士達を不安がらせる言葉を発する。これには、騎士達も声を上げた。


「な、なにをおっしゃるんですか!? コトロッツ副団長!?」

「確かに、あのリック団長が傷つくところを見たのは初めてですが……相手もダメージを負っています!」

「うむ。確かに、相手も傷ついている。だが、それは鎧が傷ついているだけなのだ」


 コトロッツの言葉に、騎士達は目を見開き、再びリックとセギラの戦いを目にする。

 確かに、互いに攻撃を受け、傷を負っている。

 しかし、コトロッツの言うようにリックは生身に傷を負っているが……セギラは、傷がついてもまったく痛みを感じない鎧に傷がついているだけ。

 傷つくたびに痛みが走り、血は流れ、次第に体力を奪われていくリックに対してセギラは血も流れず、痛みもない。唯一体力は奪われているかもしれないが、そんな様子もないように見えほど激しい動きだ。


「くっ!? そんな……!」

「団長……!!」


 まだ軽傷で、血もそれほど流れてはいないが、それも時間の問題。

 徐々に、足元の雪がリックの流す血により赤く染まっていっている。


『お? 空中を蹴った……なるほど、魔力の壁か』


 得意の素早い動きも、容易に見切られ防がれている。このままでは、確実にリックは敗北へ向かうばかり……。


(リック団長……)


 ここで助太刀すべきか? と一瞬考えるコトロッツだったが。


「まだ、まだだよ!! ここからじゃないか!!」


 リックは、いまだにセギラとの戦いを楽しんでいる。コトロッツが気づいていることを、リックが気づいていないわけがない。

 だと言うのに、彼は笑顔のままだった。

 

「さすがリックだ!! その狂人っぷり!! 最高ぉ!!! に!!! 俺好みだぜぇ!!!」

『本当に、どうかしてるぞ君達。そんじゃまあ、でかい一撃を食らえば少しは笑顔が消えるかな? ってね』


 空気が揺れる。

 先ほどまで、どこかおちゃらけた雰囲気があったセギラだったが、それが一瞬にして消える。今から、計り知れない巨大な何かを繰り出してくる。

 

 構えを取るセギラの動きは、まるで時が遅くなったかのようにゆっくりに見えた。


「団長!! お逃げくだされ!!!」


 コトロッツは叫ぶ。

 だが、リックはもう止まらない。天へ大きく振り上げた両の複腕が持った装甲に光を収束していく。


『【黄刃おうば鬼人斬きじんざん】』


 黄金の刃が振り下ろされる。

 それは、空を切り、薄暗かった周囲を照らした。


「望むところ!!」


 逃げるなどありえない。リックは、真向から立ち向かった。背後に控えていた魔霊シュヴァルゼンを魔剣へと纏わせ、三倍もの大きさはあろう漆黒の刃へと変化させる。


「団長おおおおっ!!!」

 

 ぶつかり合う黄金と漆黒。

 視界が奪われるほどの光の中、コトロッツは叫ぶ。だが、その叫びは届くことはなかった……。

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