第十八話 魔剣解放
発売まで、後四日……。
うぅ、緊張してきたぁ……。
「騎士達よ! 奴を捕縛するのだ!!」
『いやいや! だから、俺はあんた達には用はないんだって!!』
果敢に剣を振るう騎士達に対し、セギラはまったく戦う気がないと攻撃を避け続ける。
「……」
騎士達が攻撃している中、コトロッツは思考する。
(情報によれば、奴は魔剣使いを二人襲い、魔剣を狩っている。世界に現存する魔剣使いは三人。だが、リック団長は、最近魔剣使いとなった。情報はまだ広まっていないはず……)
リックは、帝国騎士団の歳少年騎士団長として名が広まっていた。だが、魔剣使いとなったのは、一週間ほど前の話だ。
(……奴は、それほどまでに情報収集能力に優れているということか)
腰が低い相手ではあるが、実力は本物だ。
なにせ、魔剣使いを二人も倒しているのだから。
「だがしかし、それでも帝国の剣は折れることはない! いざ!!」
剣を掲げ、一目散にセギラへ突撃していく。
『うーん、やっぱり戦闘は避けられないのかぁ……できれば、魔剣使い以外とは戦いたくないんだけどなぁ』
しょうがない、とばかりにセギラは切りかかって来た騎士達を弾き飛ばし、右手で顔を覆う。
『―――バトルモードってね』
「ぬっ!? なんと言う邪悪な仮面!!」
覆われた右手が離れ、現れたのは二本の角が生えた黄色の仮面。
『まあ、鬼の面だから邪悪に見えてもしょうがないけど……』
ため息交じりにセギラは、両の手にどこからともなく大剣ほどの大きさはあるノコギリを出現させる。
「ノコギリ? ふざけておるのか!!」
剣と剣の攻防になると思っていたコトロッツだったが、ノコギリを出されて不満と怒りのまま刃を振り下ろす。
『ふざけてませんってば』
「ぬおっ!? な、なんというパワー!?」
しかし、その大きさから普通ではないのは明白だった。
コトロッツの一撃を軽く片手で弾き飛ばした。
『さっきも言いましたけど、俺の目的は魔剣使いなんで。このまま引いてくれませんかね?』
「ならば、こちらも言ったであろう。団長には近づけさせんと! そして、貴様はここで我々が捕縛するとも!!」
「副団長!」
「騎士達よ! 迂闊に近づくな! 弓を使える者は、遠距離より狙撃! 盾持ちは、防御に専念せよ!!」
コトロッツの指示に、騎士達は声を揃え「はっ!!」と叫び、隊列を組む。
弓矢を持った騎士達は、距離を空け弓矢を構え、盾を持った騎士達はどっしりと盾を構えながらセギラの様子を伺う。
「他の者達は、私と共に相手をかく乱するのだ」
『おー、ヒット&アウェイってやつか。けど、並大抵の攻撃じゃ、俺の装甲は傷つけられないっすよ? 無駄になる前に、さっさと』
お前の話など聞かないとばかりに、矢が飛んでくる。
が、セギラが身に纏っている鎧には傷ひとつついていない。
「はあっ!」
「せあっ!」
槍使いの二人が魔力を纏わせた一撃を左右から食らわせるが、それでも傷つかない。
『良い一撃だけど、俺の装甲は傷つけられないっすよ?』
「ならば、これでどうかね!!」
剣に雷を纏わせ、鋭き突きをコトロッツは繰り出す。
「【騎電一閃剣】!!!」
帝国騎士コトロッツが編み出した雷を纏わせた突き攻撃。この技で、コトロッツは帝国に仇名す敵を葬ってきた。
その一撃は、鋼鉄をも貫く。
『それもいい一撃だと思うんだけど―――無駄っすよ、騎士のおじさん』
はずだったが、それでもセギラの鎧に阻まれる。
「ば、馬鹿な!? 副団長の技が通用しない!?」
「まさか、そんなことが……」
『だから言ったじゃないっすか。無駄になる前に……って、これは言ってる途中で止められちゃったんだったっけ? まあ、ともかく。あんた達じゃ、俺には勝てないってことが理解できたはず。無駄に命を散らせたくないから、さっさと魔剣使いを』
「させぬと言っている!!!」
コトロッツも、騎士達も決してリックを差し出すわけにはいかない。その確固たる意思は、揺らぐことはない。
「うんうん。僕のことを大切に想ってくれているのは嬉しいけどさ……」
「だ、団長!?」
「な、なぜこちらに!?」
「まさか、もう片付いたというのですか?」
「うん。そのまさか」
緊迫した空気の中、子供のような眩しい笑顔で姿を現すリック。彼は、コトロッツ達とは別のところで魔物討伐をしていた。
彼の実力ならば、単身でも大丈夫だと言う判断だったが、これほどまでに早く片付いたことにコトロッツ達も、さすがに驚いている。
「ゴルイーマは、小さい頃にも倒したことあったし、簡単だったよ」
『いや、今でも子供じゃん』
「あははは、そうだね」
『おっと、ついツッコんでしまった。……君が、魔剣使いのリックでいいんだよな?』
余裕の表情で、自分の前に立つリックにセギラは問いかける。
「そうだよ。僕が、魔剣使いのリックだ。そういう君は、噂の魔剣狩りだね? いやぁ、いつか僕のところにも来ると思ってたけど、予想よりも早かったね」
『……なるほど。情報通りの戦闘狂だ』
「ん?」
『俺を目の前にして、笑顔でいるって相当だぞ? それに、声が明らかに弾んでる』
セギラを目の前にしているリックの表情は、まさに遊び相手を見つけた子供……いや、そんな幼稚なものじゃない。
そこに狂気が混じっており、今にも切りかかりそうだ。
「……うん。そうだよ。だって魔剣使いは並大抵の実力じゃない。それを二人も倒した相手だよ? 戦いたいと思うのは当然のことでしょ?」
目を見開き、にんまりと口元を吊り上げる。
『うわあ、他の二人はまともだったのになぁ……』
「さあ、さっそくやろうか! ねえ!?」
『ちょいちょい! やるのは良いけど、君の部下達を下がらせないと戦いに巻き込まれるぞ?』
「へえ、意外とまともなこと言うね」
『俺の目的は、魔剣だけなんでね』
セギラの言葉を聞き、リックは溢れ出そうな狂気を一時抑え、背後に居るコトロッツ達に指示を出す。
「君達は下がってて」
「で、ですが団長!?」
「コトロッツ」
「……承知」
コトロッツ達が、離れたのを確認したリックは魔剣シュヴァルゼンに手をかける。
『それが』
「うん。僕の魔剣だよ。……さあ、強敵だ。君の力を解放するよ、シュヴァルゼン」
眼帯を取り外し、閉じられた目を開く。
「―――抜剣」