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第十七話 陽気な武者と生真面目な騎士

書籍版発売まで、あと一週間となりました。

いまかいまかと、ドキドキしながら日々を過ごしてるスタイリッシュ警備員です、はい。

 グラーチア大陸の北西。

 一面真っ白で、何もない雪の大地に黒き鎧を身に纏った騎士達が整列していた。その中央に居るのは、帝国騎士副団長であるコトロッツ。

 両腕を後ろで組み、精神統一をしているかのように目を瞑っている。


「副団長……ずっと黙ったままだけど、どうしたんだ?」

「馬鹿。これからの戦いのために精神統一をしているに決まっているだろっ」


 後方に控える騎士達が、数分の間ずっと沈黙を貫いているコトロッツに対して心配と疑問を抱いていた。

 すると、ようやくその沈黙を破るかのように深いため息が漏れた。


「まったく……まったく……!」

 

 何かに怒りを覚えている。

 それは、言葉と声音で誰もが理解できた。しかし、いったい何に対してなのかはわかっておらず、騎士達の脳内では、コトロッツが怒りを覚える人物、出来事が想像される。


「……あの、コトロッツ副団長」

「なにかね?」

「いったい何に、そこまでお怒りになっておられるのでしょうか?」


 自分達の想像が当たっているのかわからない。そこで、一人の男性騎士が率先して怒りの理由を問いかけた。


「ふん。何に、だと?」

「は、はい」


 ごくり、と騎士達の喉が鳴る。


「怒りもするであろう。なにせ―――今世界が危機的状況に陥っていると言うのに、呑気にデートなどをしている輩が居るのだからな!」

「え? で、デートでありますか?」


 問いかけた男性騎士が、予想外の返答に若干唖然しつつも言葉を交わす。


「そうだ! それが力を使うために必要だとかなんだと言っていたが、本当のところどうなのか……まったく、まったく!! 我々は、こうして真面目に働いているというのに!!」

「……」


 そう言って、拳を力強く握り締め、涙を流すコトロッツを見て騎士達は思った。


 またか、と。


「今のって、まさか例の?」

「ああ。闇の炎の力を操るっていう彼のことだろう」


 コトロッツが怒りの標的にしている人物に心当たりがある騎士達は、とりあえず何も言わず静かにすることにした。


「そもそも、すでに嫁が四人も居るという話じゃあないか! 四人!! だと言うのに、まだ足りぬと申すか!? どれだけ女に飢えていると言うのだ!? 私は……私なんて! 一人も……!!」


 コトロッツ・デンベル。

 帝国騎士副団長として、多くの騎士、帝国住民から信頼されている生真面目な男。生まれも、育ちも帝国であり、望んで騎士団へと入団した。

 その生真面目さは、彼の長所でもあるが短所でもある。

 更に、少々女性への免疫がないのにも関わらず、女性に飢えている面もあり。決して、悪い人間ではないのだが……。


「いや、だが私にもまだチャンスはある。私は、まだ三十八歳。まだまだ若い!」

「ふ、副団長!」


 一人でぶつぶつと呟き始めるコトロッツに、先ほど問いかけた男性騎士がまた声をかける。

 しかし、聞こえていないのか反応しない。


「コトロッツ副団長!!!」

「むっ!? な、何かね!?」


 声を張り上げたことでようやく反応してくれたコトロッツ。そして、反応してすぐ騎士達の様子を見て、察しがついた。


「―――ふむ。お出ましのようですな」


 先ほどの取り乱した様子から一変。

 正面を向き、腰に装備した愛剣を鞘から抜く。


「討伐対象を目視。さあ、誇り高き帝国騎士達よ!! 剣を抜くのだ!!」


 視界に映るのは、白い毛に覆われた二足歩行の獣。

 血走った鋭い眼光、巨木を思わせる太い両腕には手甲のように氷を纏わせており、べったりと赤い血が付着していた。

 

「ここへ来る前に、何かを狩ってきたか」


 こちらへ近づいてくる獣の様子を見てコトロッツは冷静に分析する。

 グラーチア大陸が生んだ白き獣の巨人ゴルイーマ。

 繁殖期になると雌を奪い合い、激しい戦闘を繰り広げる。そして、敗北した雄は戦闘後の余韻による興奮と敗北感から理性を失い、視界に入ったあらゆるものを、その拳で破壊することがある。


「犠牲者が出る前に、理性を失いし獣を討伐する!!」


 コトロッツが剣を天に掲げると、騎士達は声を上げ、今にも戦闘が繰り広げられる……かに思えたが。


「む? 待つのだ!! 騎士達よ!!」


 何か異変に気付いたコトロッツが、騎士達を静止させる。


「ふ、副団長? どうかされましたか?」


 止められた意味を理解できていない騎士達は、一歩また一歩と近づいてくるゴルイーマをただただ剣を構えたまま見詰めるしかなかった。

 しかし、その沈黙もすぐ破られる。

 こちらに近づいてきていたゴルイーマが倒れたのだ。

 

「ま、まさか息絶えた?」

「雌の奪い合いで、それだけのダメージを受けていたってことか?」

「いや、違う。奴の背中を見るのだ」


 背中? と騎士達はコトロッツの言うように目を凝らすと……大剣ほどの幅はある片刃の剣が突き刺さっていた。


『あー、居た居た。背中に剣が刺さってるのに、ここまで動けるなんてやっぱり凄いなぁ、魔物って』


 そして、ゴルイーマが倒れて一分も経たない内に、赤い鎧を身に纏った巨漢が姿を現す。


「な、なんだあの巨漢は!?」

「あいつが、ゴルイーマを倒したということなのか?」

「見たことがない赤い鎧……奇妙な顔……そうか、奴が件の」

 

 巨漢の特徴を確認したコトロッツは、一歩前に出て剣を構える。


「騎士達よ! 気を引き締めるのだ!! 奴は、世界中で魔剣使いを襲っているという魔剣狩りである!!」

『ありゃ? もうこんなところにまで広まってるなんて、意外と情報伝達能力は高いのか?』

「魔剣狩りだって?」

「あ、あれが……てことは、狙いは」


 魔剣狩りが、このグラーチア大陸に居る理由。

 コトロッツ達には、その理由がわかっている。

 

『あのー、あなた方が帝国騎士団ってことでいいんすよね? どもっす。えーっと、魔剣狩りのセギラって言います』


 並みの人間よりも一回りも大きいうえに、赤くごつい鎧を身に纏っているというのに、ぺこぺこと頭を下げてくる様を見て、騎士達は少し動揺するが、すぐに身を引き締める。


「ふん。情報通り、見た目の割に腰が低いようだな。魔剣狩りよ」

『あははは。悪役なのに、似合わないっすよね。でもまあ、これが俺なんで。……それで、魔剣使いの団長さんはいないんすか?』


 ゴルイーマから剣を抜き、その場で消し去りながらリックの所在を聞いてくる。


「貴様のような輩に、団長の所在を教えるとでも?」

『ですよねー。はあ……しょうがない。レーダーを使うとつまらなくなるから嫌だったんだけど』

「何をするつもりか知らんが、貴様はここで我ら帝国騎士が打ち倒す!!」

『え? あ、いや。俺の狙いは、魔剣使いだけなんで、あんた達とは……ちょちょちょっ』


 やる気のコトロッツに対して、セギラは慌てた様子で両手を交差させる。


「我が剣の冴え……味わうがいい!!!」

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