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第十六話 もしもの話

遅くなりましたが、今日からタイトルを書籍版に変更して更新をしていきます!

 リア―シェンに振り回される形で、俺はデートを続けていた。

 エルミーとルビアは、メーチェルと一緒に帝都のどこかで今頃遊んでいるはずだ。


「人間達も中々面白い進化をしているのね。特に技術方面で」

「やっぱり、魔道具の影響が強いかもな。それに加えて、前の勇者の知恵もかな」

「今の勇者と同郷なんだっけ? ……そういえば、その勇者パーティーにあんたの幼馴染も居るのよね」

「うん。聖女として」


 展望台から帝都の街並みを眺めながら、俺は呟く。

 

「その聖女様は、どうしてあんたじゃなくて勇者様を選んだんでしょうね」

「さあ、どうしてだろう」


 それは、俺にもわからない。王都に居る間に、なにかがあったんだろうけど……それは、将太とミュレットの二人しか知らないことだろう。


「気にならないの?」

「気にならないって言えば嘘になるけど。もう前に進むって決めたから」

「へー、案外決断力あるのね」


 それもこれも、ヴィオレット達と出会えたからだと思っている。

 もし、彼女達に会えず、俺だけだったら……。


「あんまりくよくよしてると、皆に……家族に心配をかけちゃうからな」


 気恥ずかしさのあまり頬を人差し指で掻きながら言葉を返す。

 

「大事にされてるのね、あの子達」


 リア―シェンの言うあの子達とは、ヴィオレット達のことだろう。

 形や経緯はどうあれ、彼女達はもう……俺の大事な家族なんだ。


「ふふ、私のことも大事にしてくれるのかしら?」


 小さく笑みを浮かべ、俺の左頬を突きながら問いかけてくる。


「そ、それはもちろん」

「ふーん」


 やっぱり、彼女の濁りのない澄み切った青い瞳で、じっと見詰められると変に緊張してしまう。フレッカも、かなり人のことを見詰めるタイプだったけど、リア―シェンはフレッカと違い何を考えているのか読めないんだ。

 そんな俺の反応を見たリア―シェンは、口元を少し緩ませてから視線を外す。


「まあ、期待してるわ。それじゃあ、今日のところは終わりにしましょう。十分楽しめたから」

「もういいのか?」


 まだ太陽は、大分上の方にある。

 この数日の間、彼女は暗くなるまでデートを継続していたのに……まさか、恋人期間は終わりってことなんだろうか?


「私は、まだ続けたいけれど。今は、そうも言ってられない状況なんでしょ?」

「……ああ」


 こうして居ると、平和のように思えるが。今もどこかで侵略者達は、どこかを襲っているに違いない。よほどのことがない限り、こっちに連絡はこないことになっているけど……あっちは、大丈夫だろうか?

 さすがに、一度も連絡をしないのは心配させるだろうし。

 宿に帰ったら、連絡をしよう。こういう時、遠話魔法を使えれば良いんだけど。


「あっ、そうだ。あっちは、仲良くなれたのかしらね?」

「どうかな。エルミーとルビアは、仲良くなりたいようだけど……」

「楽しみね。それじゃ」

 

 と、リア―シェンは―――ミニサイズになった。


「っと……!」


 それを、俺はなんとか受け止める。


「さあ、行きなさい。ヤミノ!」


 俺達が泊っている宿は、帝都の中でも高級のところだ。普通に泊まれば、数万はかかる。もっと上のクラスになると、十数万以上はかかるらしい。

 帝都を治める皇帝の客人として広まっているらしく、最初は最高級の宿に泊まることになっていたのだが……こう、なんていうか。あまり高級なところは慣れないというか。

 本当は、下町にあるような宿がよかったんだけど。

 好意を無下にするわけにもいかなかったので、今の宿にすることで話は済んだ。


「自分の体が、こんなにも小さくなるなんてねぇ」


 俺に抱えられたままリア―シェンは、くすくすと楽しそうに笑う。


「……」


 楽しそうに喋り続ける彼女を見て、俺は思い出す。

 デートをすると言われて、すぐのことだった。

 

《あっ、それはそうと子供を生誕させましょう》


 などと、さらっと言ってきたのだ。つい先ほどの自分が言っていたことを簡単に覆す言葉。エルミーやルビアは、最初こそ呆気に取られていたけど、すぐに笑顔になった。

 リア―シェンが言うには。


《別に結婚していないからって、子供を生んじゃだめなんてことはないでしょ?》


 とのことだった。確かに、結婚をしないと子供が生まれないとか、生んじゃだめだとかは決まっていない。

 更に。


《それに、正確には結婚をするというよりも契約を結ぶの。人間達にとっては、子供ができてから結婚をするなんて当たり前みたいだからね》


 闇の炎の化身達と夫婦になったものの、他の人達のように式を挙げたわけじゃない。彼女の言う通り、契約を結んだような感じだ。

 だから、間違ったことを言っていないので言い返すことはできなかった。


(……結婚式、か)


 もし、今の戦いが終わったら……彼女達と。


「―――ねえ、ちょっと聞いてるのかしら?」

「え? ご、ごめん。考え事をしてた」

「また未来のことを考えていたのね」

「な、なんでわかるんだ?」


 ズバリと言い当てられ、俺は目を見開く。


「あの時と同じ顔をしていたわよ。空を見上げて、遠くを見詰めながらね」


 リア―シェンの言う、アイスクリームを買った時のことだろう。


「雪道を、よそ見しながら歩いていると転ぶわよ? あんただけならいいけど、私を抱きかかえているんだから気を付けなさい」

「俺だけだったらいいのか……」

「もし、転んだら笑ってあげるわ」


 もの凄い笑顔ではっきりと言ってくる。しかし、悪意というものがそこまで感じない。


「ほら、前を向かないと大好きな娘達が心配するわよ」

「お父様ー!! やっほー!!」


 どうやら娘達も宿に戻るところだったらしく、逆側の道から手を振りながら駆け寄ってきていた。

 

「あれ? メーチェルはどうしたんだ?」

「なんか、急用ができたとかで、途中で別行動!」


 ルビアの説明に、俺は申し訳ない気持ちになった。

 彼女にも、彼女の用があるはずだ。

 だと言うのに、無理に付き合ってもらっている。ここ数日も、ずっと娘達と行動を共にしてもらっていた。

 彼女は、楽しいから大丈夫ですと笑顔で言っていたけど……。


「それで? あの子とは、仲良くできたのかしら?」


 リア―シェンの言うあの子とは、メーチェルのことじゃない。

 所謂……俺とリア―シェンとの間に生まれた子供のことだ。デートをしている間は、エルミーやルビアと一緒に居てもらっていたのだが、彼女の姿もない。

 ……いや、居た。


「あー! また隠れてる! おーい!!」

「ひゃうっ!?」


 ルビアも、彼女のことを発見し大声で呼ぶ。すると、物陰から小さな悲鳴が響き、ぴょこっと出ていた細い獣の尻尾が逆立つ。


「うーん。まだ駄目か」


 呼ぶも姿を現さない娘に、俺は頭を掻く。

 

「えへへ。あーいうところも可愛いんだけどねぇ」


 エルミーは相変わらずの反応である。


「しょうがないわね」


 いつまでも出てこない娘に痺れを切らしたのか。リア―シェンは、俺の腕の中から離れ、元の姿になる。

 そして、そのままゆっくりと歩み寄っていった。


「さっさと出て来なさい。子猫ちゃん」

「は、恥ずかしい……」


 リア―シェンの手に引かれて出てきたのは、肩まで長い澄み切った空のような色の髪の毛に獣の耳と尻尾が生えた少女だった。

 後ろ髪の毛先は、白銀に染まっており、瞳は琥珀色。

 身に纏っている服は、リア―シェンと同じ着物をベースにしたもので、違うところと言えば下がスカートということだろうか。ちなみに、リア―シェンが考案した服である。

 シャルルさんが着ているものに似ているが、何かが違うように見える。同じ獣人で、同じような服を着ているけど……何が違うんだろうか。


「ファリエ!! 離れちゃダメって言ったじゃん!!」

「ごごご、ごめんなさい……!!」


 ルビアの大声に、ファリエはびくっと耳と尻尾を逆立つ。


「ルビアちゃん。あんまり大声で怒っちゃだめ。こわーいお姉ちゃんだって思われて、余計に離れていっちゃうぞ?」

「そ、そうなんだ! えっと、えっと……だめだよ。勝手に離れちゃ!」

「ご、ごめんなさい。ルビア姉さん」


 彼女の名前は、ファリエ。

 見ての通り臆病で、すぐどこかに隠れてしまう。それに、他の娘達と違って獣人だ。


「ファリエ」

「は、はい! リア―シェン母さん」


 ルビアに続いてリア―シェンから声をかけれると、自然と背筋が伸び姿勢を正す。


「あんたには、秘めたる才能がある。私は、そう確信しているわ」

「ひ、秘めたる才能……」


 ちらっと、ルビアのことを見てからリア―シェンは、再びファリエへ視線を戻す。


「この私が、母親なのだからもっと自信を持ちなさい」

「そ、そう言われましても……」


 自信がない、と言う風に沈んだ表情でファリエは俯く。感情に連動してか、尻尾もへにゃりと垂れていた。

 

「リア―シェン。さすがにそれは」


 自分の考えというものを、子供に押し付けているように見えた俺は、彼女を止めようとする。

 

「―――そして……あんたが、どうありたいかを、しっかり考えなさい」

「どう、ありたいか?」

「ええ。ゆっくりでいいわ。いくら体が大きくても、あんたはまだ生まれたばかり。これから、色んなものを見て、体験し、学びなさい」

「は、はい! が、頑張ってみます!!」

「ええ、頑張りなさい」


 ……少し、早とちりをしてしまったようだ。

 言いかけた言葉を飲み込み、俺は口を閉ざす。すると、リア―シェンはすぐにこちらへ身を翻す。


「あら? ヤミノ。さっき、なにか言おうとしていたようだけれど……なにかしら?」

「うっ……! そ、それは」

「なーに?」


 もの凄い笑顔だ。まさか、わざと? 俺が、止めることがわかっていて、あんな風に言っていたのか?


「おぉ……お父様が弄ばれてる!?」

「え? 遊んでもらってたの?」

「そうよ、ルビアちゃん。今、ヤミノで遊んでいたの」

「そうだったんだ!! それで、どんな遊びをしてたの?」

「か、勘弁してくれ……」


 これからも、こんな風に弄ばれると思うと……不安になってきた。

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