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第十四話 白炎とヤミノと

6月になり、本作の書籍発売も一ヶ月を切りました!

Webのほうもなんとか続けられていますが、もう毎日がドキドキでどうにかなりそうです……。

 予想通り、リア―シェンが待っていた。

 俺達を見るなり不機嫌そうに表情を歪める。

 

「まあいいわ。待つ気持ちと追われる気持ちが少しはわかったから」


 しかし、一瞬だった。


「わぁ、綺麗な人! それに着ている服もなんだか不思議な感じ!」

「あれって、シャルルが着ている服に似てない?」


 確かに、シャルルさんが着ている服に雰囲気が似ている。確か、一部の獣人が好んで着る服だったか。

 着物だったか? 似たような服はいくつもあるけど、獣人が作るものには敵わないと仕立屋達が揃って言っている。

 元は異世界の服で、それは以前の勇者が証明している。元から注目されていたが、勇者の出身世界の服ということで更に注目され、世界中で仕立てられるようになった。


「あら? この服に興味があるの? どうやら、似たような服が出回っているようだけど。これは、元から私が着ている服だから」


 上は袖丈が長く、白色と水色が鮮やかに交じり合う美しい服だ。

 そして、下は藍色の袴。スカートのようなものだと本には書いてあったような。腰の辺りできゅっと縛っているため体型がより明確にわかる。

 頭上には、ヴィオレット達と同じで青い炎の輪っかが浮かんでいた。輪っかの中央には、シンプルな青い炎を囲むようにいくつもの鋭利な刃があるように見える。


 正直に言おう。雪が舞う中で佇む彼女は、とても美しく見えている。それは、あまり見慣れない服のせいなのか。それとも、彼女自身にあるのか。


「リア―シェン。どうしてこんなことを」

「え? さっきも言ったじゃない。待つ気持ちと追われる気持ちを知りたかったのよ。だって、私達これから夫婦になるんでしょ? 私、今まで女性として持つ気持ちというものがなかったから」


 な、なるほど。だけど、規模が大き過ぎるような。


「それにしても」


 リア―シェンは、俺の前に立ち、その青い瞳でじっと見詰めてくる。


「あんたが本当に―――へティアの生まれ変わりなの?」

「……え? 生まれ変わり?」


 それにヘティアって……。


「ど、どういうこと? お父様が、誰かの生まれ変わりだって言うの?」

「そうだよ! ヤミノはヤミノだよ!!」


 俺もそうだが、二人も動揺している。とても信じられないことだと。


「あら? あんた達が噂の娘ちゃんなのね。想像よりも可愛い子達ね」


 だが、リア―シェンはにこりと笑みを浮かべながら二人を観察するように見詰める。


「そー言ってもらえるのは嬉しいんですけど! 今は、お父様のこと!!」

「あー、そのこと。白の炎ヘティア。私達のリーダー的な存在であり最強。彼女は、私達の炎も、能力も、自在に使いこなしていたわ」

「そ、それって」


 エルミーは、俺のことを見る。

 

「あんた、何か思い当たる節とかない?」

「……そういえば」


 彼女の言葉に、俺はフレッカと契約した時のことを思い出した。あの時見た光景は、ヘティア……生まれ変わる前の俺が見ていた光景だっていうのか?

 

「あるようね」

「だ、だけどヴィオレット達はなにも」

「あえて言わなかったんじゃない? 理由は明白。ヘティアが死ぬなんて。そして、好きになった男がヘティアの生まれ変わりだって信じたくないってところかしら それか、単純に忘れているか」


 た、確かに。男に生まれ変わっているとはいえ、元が身内だって知ったら俺だってどう言葉に表せばいいかわからない。

 ……じゃあ、そんな葛藤の中で皆は、俺と一緒に戦ってくれていたのか。


「さて、これであんたがヘティアの生まれ変わりだってことは証明されたわけだけど」

「ま、待ってくれ!」

「なによ?」

「俺が、ヘティアの生まれ変わりだって言うなら、俺は白炎を使えなくちゃおかしいんじゃ」

「さあ? そんなこと私に言われても知らないわ。見たところ、あんたは未熟も未熟。私が知っているヘティアの足元にも及んでないわ。雑魚ね、雑魚」


 ざ、雑魚……。でも、本当のことだ。もう四つの炎を宿しているのに、まったく使いこなせている気がしない。どれもこれも中途半端。

 仮にも最強の生まれ変わりだというのに、こんなザマじゃ……。


「お、お父様。落ち込まないで! ほら、よしよーし」

「ヤミノは強いよ! 絶対強いよ!! 元気だせー!!」


 明確に落ち込んでいる俺を娘達は元気づけてくれる。膝をついている俺を、エルミーは頭を撫で、ルビアは言葉を全力でかけてくれている。

 

「リア―シェン様。そ、その辺で」

「撃たれ弱いのね。そんなんじゃ、これから大変よ?」


 そうだな……俺が、本当に最強の炎であるヘティアの生まれ変わりだと言うなら、やることはひとつ。


「よし! 立ち直った!!」


 いつまでも落ち込んではいられない。これからもっと強くなって、皆を護れるような男になるんだ。


「おー!」

「お父様ー!」

「はい、パチパチ。復活おめでとう」

「あっ、そうだ。もうひとつ聞きたいことがあるんだけど」


 気持ちを新たに立ち上がった俺は、もうひとつ気になっていたことをリア―シェンに問いかけた。


「なに?」

「黒の炎のことは、覚えているか? 名前とか」


 他の炎達も謎が多いけど、いまだに姿も名前も明らかになっていないのは黒の炎だけ。ヴィオレット達にも聞いたことがあるが、四人とも名前を忘れ、どこに居るかも見当がつかないようだ。

 

「黒ね……」


 少し考え、リア―シェンは口を開く。


「残念だけど、私もわからないわ。そうやって聞くってことは、他の連中も名前を忘れているようね」


 リア―シェンもわからないか。


「でも、心配しなくても大丈夫でしょ」

「ど、どうしてだ?」

「白と黒は、格が違うのよ。まあ、最強の白が生まれ変わって男になっているから、信用できないでしょうけど」


 皆も、どこに居るかわからないけど、黒の気配は感じると言っていた。俺も、最近になって感じるようにはなったけど……どこに居るんだ? 


「さあ、この話は終わり終わり」


 ぱんぱん、と手を叩き話題を変えようとするリア―シェン。


「あんた達が、ここに来た目的はなんだったかしら?」

「リア―シェンに会いに来たんだ」

「もち! 夫婦になりにきた!」

「子共を作りにきたー!!」


 本当のことなんだけど、言葉にすると凄いな……俺の目的って。


「ふふ。断るわ」


 断れてしまった。


「えー!? なんでー!? ルビアも妹ほしー!!」

「そーだよー! 家族になろうよー!!」


 なんとなく雰囲気から予想していたけど、こうもばっさりと一刀両断されるとは。


「意地悪で言ってるんじゃないわ。ただ、私には私の考えがあるのよ」

「その考えって?」


 俺の問いかけに、リア―シェンはくすっと笑みを浮かべる。


「デート」

「え?」

「まずは、恋人から始めましょう」


 な、なるほど。そういうことか……。

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