第十三話 王都到着、そして再会
「着いた」
「わあ、あそこが王都なんだねパパ」
「まだ距離あるけど、大きい……」
丁度昼頃。
さんさんと輝く太陽が頭上に来ており、腹が空いてきた。年甲斐もなく、今か今かと楽しみでしょうがない。
遠目からでも賑わっているのはわかる。
俺達がこれから入る北門では、多くの人々で列を成している。いや、北門だけじゃない。各門でも列ができているようだ。
「入るの大変そうだね」
「普段から色々とチェックしてから入ることになっているからな。そこに、今回は勇者一行のための祭。普段以上に人の通りが多いんだろう」
チェックも普段より厳重だろうな。
さて、問題はアメリアだな。
さすがに娘では無理があるだろう。
「アメリア。悪いけど」
偽造になってしまうが、今回は。
「―――うん。問題なく通れたな」
アメリアの素性は義理の妹ということで通った。
北門に配置されていた兵士の一人が、以前母さんが冒険者をやっていた時に知り合った人で、あまり深い事情は聞かずに納得してくれた。
それに、前回王都へ来た時も顔を合わせたからな。
「やったねお義兄ちゃん」
「ははは。アメリアにそう言われると違和感あるな」
「でも、ここに居る間はこう呼ばないといけないんだよね?」
ま、そういうことで通しているからな。さすがに、俺ぐらいの青年にアメリアのような子がパパなんて言ったら絶対皆びっくりする。
騙しているようで悪いが、義理の妹っていう設定が一番しっくりくるのだ。
「ママはわたしが抱きかかえてるね」
「ああ、頼む」
そして、次はヴィオレット。俺の中に居ても外は見れるようだが、今回の目的は家族旅行。黙っていればどこからどう見ても可愛らしい人形。
アメリアに抱きかかえられたままで王都を楽しむことにした。
「さて」
これからどうするか。先に祭を楽しむか……それとも。
「お義兄ちゃん。先に早く終わる用を済ませた方がいいと思う」
「……だな」
考えるまでもなかった。俺はアメリアの手をぎゅっと握り締め、早く終わる用を済ませるためとある場所へと向かった。
移動している間も、その賑わいはひしひしと伝わってきた。
楽しそうな人々の声。
美味しそうな食べ物の匂い。
前来た王都と比べても、賑わい方は桁違いだ。
「皆、楽しそうだね」
「祭だからな。最終日には王城で勇者達全員が集まるパーティーがあるって話だ」
しかし、そのパーティーは誰でも参加できるわけじゃない。王族、貴族、招待を受けた者達しか参加できない。
他の者達は、今みたいに街中で騒ぐか。翌日の勇者一行の出発を待つか。
「……見つけた」
人々が祭で楽しいひと時を過ごしている中。俺は、目的を果たすためにとある場所へと真っすぐ向かっていた。
そこは、噴水公園。
前来た時は、まばらに人が居たけど、今日は違う。見渡せば、人、人、人。その中で一際目立つ二人を見つけ、ゆっくりと近づいていく。
「久しぶりだな、ミュレット」
「ヤミノ! 久しぶり。数か月ぶりだね」
いまや世界が注目する救世主の一人。
聖なる光で皆を癒す者……聖女ミュレット。
(数か月ぶり、か)
当たり前と言えば当たり前だよな。あの時は、王都に来たけどミュレットとは会っていない。
そして。
「ヤミノ。この人が、手紙に書いていた紹介したい人」
「やあ、初めまして。君が噂に聞くヤミノくんだね? ミュレットから、話は聞いてるよ。天宮将太だ。世間的には勇者ってことになってる」
ミュレットの隣に居る黒髪の青年。
爽やかな笑顔は、全ての女性を魅了しそうなほど輝いていた。勇者将太の住む世界。そこの日本という国では黒髪がほとんどらしく、珍しくはないそうだ。
俺達の世界では、黒髪はかなり珍しくある特殊な種族が、黒髪だと言う話。
「初めまして。こうして勇者様に、お会いできるなんて光栄です」
あくまで初めて出会った。
そういうていで俺は挨拶をする。
「そんなに畏まらないでくれ。勇者と言っても、同じ人だ。できれば友人のように接してくれると嬉しい」
「そんな恐れ多い。ですが、勇者様がそうおっしゃるのであれば……善処します」
「ははは。ところで、ずっと気になっていたんだ。隣の女の子は?」
「私も気になってたの。ヤミノ、誰? その子」
一通りの挨拶が終わると、二人はアメリアに興味を示す。
「実は、母さんの友人の子なんだ。突然急死しちゃって。他に親族もいないから、引き取ってくれるところがない。そこで、母さんが引き取ったんだ」
「私が王都に居る間、そんなことが……」
もちろん作り話だ。まさか、目の前に居る子と抱えている人形が、あの闇の炎とは思わないだろう。
ちなみに、さっきの作り話はもしものためにと母さんが用意したもののひとつだ。
他にも、生き別れの妹の子というのもあった。
「悪い。この子も、まだ新しい環境に慣れていなかったから。でも今は……ほら、挨拶を」
「アメリアだよ。ヤミノお義兄ちゃんから、いっぱいお姉ちゃんのことは聞いてるよ。よろしくね」
「うん。よろしくね、アメリアちゃん」
特に問題なくミュレットとアメリアは挨拶を交わす。
「アメリアちゃんって言うんだね。僕は天宮将太。よろしくね」
「……うん。よろしく」
ん? なんだか一瞬空気が重くなったような気がしたけど。
「二人で来たってことは、祭も二人で楽しむってこと?」
「そのつもりだ。父さん達も、王都に行くならアメリアも連れて行って思いっきり楽しんで来いって。たっぷり軍資金もくれたよ。というか、祭があるならあるって手紙に書いてくれたらよかったのに」
「ごめんね。手紙を出した後で、書き忘れたのを思い出したの」
「まあ、別にいいけど。それじゃ、俺達は行くよ」
「うん。兄妹仲良く楽しんでいってね。あ、そうだ。ヤミノ、これ」
「これは……」
ミュレットが渡してきたのは、一通の手紙。
「最終日に開かれるパーティーの招待状。王都に来たら渡そうって思ってたの」
「いいのか?」
「もちろん。だってヤミノは、私の幼馴染でしょ?」
「……そっか。ありがとう。そうだ、アメリアも行っていいか?」
「もちろんだよ。僕の方から、王城には伝えておくよ」
「ありがとうございます」
その後、俺達は別れた。
嘘塗れの会話を終えて……。