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第十一話 お喋り武者と青の一太刀

『へえ、新作を作ってるのね』


 真っ白な椅子にうつ伏せで寝そべりながら、マギア―は作業に没頭するロヴィウスに声をかける。


『ああ。今や、製造ラインは格段に増えている。効率よく、それでいて完全なイア・アーゴントが次々に作られる。ゆえに、私は新作に力を入れられるということだよ』


 振り向くことなくロヴィウスは作業を続けながら嬉々として答える。その反応を見て、マギア―は作られている新たなイア・アーゴントへ目を向ける。

 

『また獣なのね』

『もちろんだ。前にも言ったが、私は人型は好まない。いや、嫌いと言っておこう』

『でも、わたくしの注文で作ったじゃない』


 傍にあるパネルに触れると、小さな白騎士ゼーノが映し出される。


『私も技術者なのでね。そこは、仕事と割り切ってやらせてもらった』

『ふーん。大変ですわね、技術者というのは』


 どこか興味がなさそうに、マギア―はもう一度パネルに触れる。すると、もう一体の白騎士ゼーノが現れ、戦いを始めた。

 その様子を眺めるマギア―は、足をバタバタとさせていた。


『あっ、そういえば最近入った新人くんは、今どこに居るのかしら?』

『あぁ、彼か。彼ならば、熱心に仕事をしている頃だろう』

『ご主人様のことを疑いたくないのだけれど……彼、大丈夫なの?』


 白騎士ゼーノ同士の戦いは、左の方が勝利を収めた。勝ち残った方はすでにボロボロで、今にも壊れそうになっている。

 だが、マギア―は追い打ちをかけるかのように新たな白騎士ゼーノを出現させ戦い続けさせた。

 当然だが、ボロボロだった方はすぐ破壊される。

 

『さあね。だが、我が神がわざわざ新たに引き込んだのだ。弱いわけがない。それに』

『それに?』


 ロヴィウスは作業を止め、くるっと身を翻す。


『すでに彼の強さは確認済みだ』

『……その様子だと、相当強いのね』

『ああ』 

『そう。なら良いわ』

『私としては、君の方が心配なのだがね』


 作業に戻ったロヴィウスが、椅子から離れたマギア―に言う。


『あら? どうしてですの?』


 踊るように優雅に体の向きを変えるマギア―。

 そんな彼女に、ロヴィウスは振り向くことなく喋り続ける。


『人形遊びが過ぎて、また彼女達にやられないか、だよ』


 巨大な鉄にロヴィウスが触れると、まるで溶かされたかのように柔らかく変化する。両手で器用に、形作っていく彼を見て、マギア―は静かに笑う。


『……ふふ。大丈夫ですわ。あんな屈辱を受けたのですもの。今度こそ必ず』

『ならば良いのだが』

 


・・・・



 空は雲に覆われ、日差しが差し込まない白い世界。

 雪が降り注ぐ中で、青の闇の炎の化身―――リア―シェンは、巨木の下で一人立ち尽くしていた。

 まるで、誰かを待っているかのように。その場からじっと動かない。

 だが、何かの気配に気づき、心底嫌そうに深くため息を漏らす。


「最悪だわ……」


 巨木から離れ、青炎で形作られていた傘を消し、そのまま背後を確認する。

 

『いやぁ、着物美人が見えたのでつい近寄ってしまった……! でも、後悔はない! あ、というかそれ大正時代の着物っすよね? いやぁ、よく似合ってますよ! お姉さん!! いいですねぇ、袴って。まさか異世界に来て見れるなんて思ってもいなかったです!!』

「あら? ごつい見た目の割に随分と明るいのね」


 そこに居たのは、赤き鎧の武者。

 リア―シェンよりも圧倒的に体は大きく、見上げるほどだ。しかし、どこを見ても武器らしきものは見当たらない。

 重厚で、精巧な防具を身に纏っているというのにもかからわず剣も槍も装備していないのだ。よく見れば両肩が盾のように見えなくもない。リムエスが、盾を武器に使っている。もしや、赤き鎧の武者もそうなのだろうか? と、リア―シェンは思考する。


「ところで、その顔どうなってるの?」


 武者の顔は基本顔がないのっぺりとしたものだ。しかし、感情を表現するかのように目や口が表示されていた。


『あっ、これですか? いやぁ、俺って人じゃないですからね。人間のように表情がないんですよ。だから、こうやって感情を表現してるわけですね。俺の先輩方は、どうしてこういう風にしないのかまったくわからなくて。めっちゃおすすめしたんですけど―――わひょっ!?』


 このままだと永遠に喋り続けるだろうと感じたリア―シェンは、武者の足元から青炎の刃が出現させ攻撃する。

 が、ギリギリのところで回避したようで、当たることはなかった。


「長いし、うるさい」


 口元だけ笑っているリア―シェンに、武者はおうふ……と身を引く。


『えー!? お姉さんが聞いて来たから俺は説明したのに!? なんという理不尽!? ですが、そういう気の強い感じがよりお姉さんの魅力を引き立てる!!』


 しかし、まったく効いていないのか。武者はずっとテンションが高いままである。


「……もういいわ」

『え?』


 これ以上何を言っても黙らないだろうと察したリア―シェンは、静かに左の手の平に小さな青炎を灯す。


「あんた、名前は?」

『名前ですか? 二つあるんですけど、どっちが良いですか?』

「どっちでもいいわ。好きな方を名乗りなさい」

『はい! では、二つとも名乗ります! ちなみに、どうして二つあるのかは』


 刹那。


『―――はれ?』


 武者は斜めに両断されていた。


「あんたって人の話を聞かないのね」

『なんで、俺斬られたんです?』


 両断されるも、まったく動じずに雪の中に倒れながら武者は喋り続ける。


「何を聞いていたのかしら? お馬鹿さん。好きな方を名乗りなさいって言ったのよ。ほら、死ぬ前にさっさと名乗りなさい」


 リア―シェンは、冷たい瞳で武者を見下しつつ、刀を顔に突き付ける。


『あっ、はい。鬼童きどう蓮児れんじって言います。そして! もうひとつの名前は―――』


 もうひとつの名前を喋ろうとするも、それよりも早く刃が顔を貫く。

 武者―――鬼童蓮児の体は、徐々に塵となって朽ち果てていく。

 

『またお会いしましょう。闇の炎のお姉さん』

「二度と会いたくないわ」


 虚空へ消えていく声に、うんざりとした表情でリア―シェンは吐き捨てる。


「リア―シェン! 今ここに敵がいな―――うわっ!?」

「遅い」


 その後、入れ替わるようにヤミノが慌てた様子で転移してくるが、リア―シェンは刀を突きつける。ギリギリのところで顔の真横を通り抜けたので、怪我はない。

 満面の笑顔で、それもいきなり突き付けられたためヤミノは冷や汗を流しながら硬直する。


「いや、あの」

「未来の伴侶に、他の男が先に話しかけてきたのよ。夫として、何か言うことは?」

「す、すみません」

「謝れば済むと思っているのかしら?」

「じゃ、じゃあどうしたら」

「やり直し」

「え?」

「や・り・な・お・し。良いわね?」


 満面な笑顔で、刃物を突き付けられる。完全に脅迫だが、ヤミノは。


「はい……」


 素直に返事をした。

 

 どうして、こんなことになったのか。それは、今から三日ほど前に遡る―――

なんだか色々情報を詰め込み過ぎたかな……と。

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