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第十話 紫炎の旗

「ふう……とりあえずは、形にはなったわね」

「カーリー。その炎は」

「これ? ほら、永炎の絆で闇の炎を使えるようにはなったけど。ヤミノやあなた達のように、能力は使えないじゃない? だから、色々と工夫をしようって思ったの」


 永炎の絆によって得られるのは、闇の炎だけ。

 ヤミノやヴィオレット達のように能力を得られることはない。闇の炎という力だけでも、イア・アーゴントには対抗できるが、足りない気がした。

 そこで、カーリーがシャルル達との修行で編み出したのが、闇の炎の形状変化だ。


「ヤミノやあなた達も、炎を色んな形に変えているでしょ?」

「はい」


 今現在、リムエスが使っている黄炎の大盾リーシェルもその内のひとつだ。


「まあ、完璧ってほどじゃないけど。十分過ぎるほど形にはなっていると思わないかしら?」

「そうですね。……では、その力。確かめさせて頂きます。ガチでかかってきてください」


 カーリー達が、闇の炎の力を向上させようとしていたのは聞いていた。

 リムエスは、想像以上だと笑みを浮かべながら構える。


「そのつもりよ」


 カーリーが構える槍型の炎魔武装ヤミノ―は、通常の槍と少し違う。

 貫通力に特化したように穂先から柄まで細い。そして、よく見ると接合部分が下方にあった。


(さて、どうくる?)


 リムエスの基本戦術は、待ちだ。

 相手の攻撃を防ぎ、カウンターをする。ただ遠隔操作ができる小盾があるため、相手の誘うことも、攻撃することもできる。

 盾を使っているため防御だけだと思われるが、割と攻防一体なのだ。


「行くわよ!」

(きた。まずは、真正面から突撃)


 槍使いの長所は、そのリーチと突貫力。

 遠距離武器ほどではないが、相手を寄り付かせないように戦える。


「ふっ!」


 ぐん、と伸びるように片手で攻撃をしかける。

 だが、ただ真正面からの攻撃ならばリムエスは容易に防ぐことができる。黄炎の大盾リーシェルは、リムエスが使う盾の中でも最高の硬度を持つ。

 

「やっぱ、ただの突きじゃ無理か」

「ただの盾なら貫いていたと思います。ですが、自分のリーシェルはガチガチですから」

「あはは、ガチガチかぁ。それじゃあ」


 一度、一歩下がりカーリーはくるっと炎魔武装ヤミノ―を回してから再び構える。

 刹那。

 柄の部分を捻ると、二つに分かれた。


「まさか」

「槍と剣の変則ってところかしら。私、槍が一番得意だけど、二番目に得意なのは剣なの」


 右手に少し短くなった紫炎の旗が揺れる槍を、左手に紫炎の刃が生成された剣を。

 

「それが、あなたの新たな戦法ということですか」

「昔の私は、強くなるためにひたすら鍛えたわ。武器だって剣から槍、弓なんかも使ってた。まあ、結局どれもしっくりこなかったから槍一本に絞ったんだけど」

「そういえば、主に色んな武器の使い方を教えたのはあなたでしたね」

「ええ。でも、剣を使うのは久しぶりだから……ちょーっと激しいわよ」


 一呼吸入れ、カーリーは動き出す。

 今度は、真正面からではない。回り込むように走り出す。


(速い)


 並みの戦士なら目で追うのは無理だろう。それほどに今のカーリーは素早い。


「まずは!」


 仕掛けてくる。リムエスは、黄炎の大盾リーシェルを構える。

 

「それ!」

「なっ!? 槍を!?」


 何をするかと思えば、槍を投げた。

 そういう戦法があるのは知っている。だが、カーリーが投げた方向に問題があった。リムエスへ向けて投げるならともかく彼女が投げたのは……上だった。

 わけがわからず驚愕し、思考が乱れる。

 いや、よく見れば紫炎の旗がカーリーの手に絡まっていた。

 

「まさかっ!?」


 意表をついたとばかりににやっと笑みを浮かべながら紫炎の旗を掴んだ右腕をカーリーは振り下ろす。

 天高く飛んでいった槍は、リムエス目掛けて急落下するも、生成された小盾に弾かれる。


「まだまだ!」


 そのまま弾かれた槍を紫炎の旗を引っ張ることで回収し、突撃する。


「今度は剣……」


 横薙ぎに振るってくる剣を、冷静に黄炎の大盾リーシェルで防ぐ。


「これで―――どう!!」


 剣を防がれるも、紫炎の刃をすぐに消し、そのまま体を回転させ槍で足元を狙う。


「……なるほど。型にはまらない戦法と言ったところですか。先ほどの攻撃は意表を突かれました」


 しかし、それも防がれる。自由自在に操れる小盾が見事に攻撃を受け止めていた。


「でも、やっぱり硬いわねぇ。結構いい線いってたと思ったんだけど」


 自信があったものの全て防がれてしまった、とカーリーはため息を漏らす。


「これでも、盾を武器にしていますから。それに主の盾として、そう簡単に破られるわけにはいきません。たとえ、主の母君であろうとも」

「本当に幸せ者ね、ヤミノは」


 カーリーは、どこか達成感を得たと言う表情で二つに分かれていた炎魔武装ヤミノ―を元に戻す。


「もうよろしいのですか?」

「ええ、十分よ。ありがとう、私の訓練に付き合ってくれて」

「いえ。こんなことでしたら、いつでもお声掛けください」


 リムエスも戦闘態勢を解き、穏やかに声をかける。


「うーん。やっぱり、炎が見えるから意表を突いても、さっきみたいに即座に対応されちゃうかしら」

「ですが、あの炎の使い方は素晴らしいと自分は思います」

「そうよね。じゃあ、もっと自在に扱えるように頑張らないと」


 最初よりは扱えるようになってきたが、まだまだ。これからの苛烈化する戦いを生き抜くためにもっと精進しないといけない。


「自分もお手伝いします」

「ありがと。んー!! さて、と……そろそろお昼ね。今頃アメリアちゃんがミウズと一緒に準備をしている頃だろうし。私も手伝いに行こうかしら」

「あ、あの」

「ん?」


 背伸びをし、厨房へと手伝いに行こうとしたカーリーだったが、それをリムエスが呼び止める。


「じ、自分もご一緒してよろしいでしょうか?」

「……ええ、もちろん」

「ありがとうございます!」

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