第八話 空中戦法
相手は騎士団の団長。それも若干十四歳で上り詰めた……どうやら、魔剣は鞘から抜かないようだけど。
さて、どう出る。
「それじゃ」
武器を構えたまま様子を伺っていると、リックが先に動き出す。
「直進?」
何かの作戦か? まさか何も考えていない?
素早い動きでかく乱をするでもなく、真っすぐ進んでくるリックに思考する。
「考えてるね」
「はやっ!?」
地面を一蹴りで間合いを詰めてきた。
俺は何とか反応し、振り下ろされる一撃を防ぐ。
だが、一度飛び退き……空中を蹴った。
「なっ!?」
そのまま勢いよく突っ込んできたリックを回避するも、またも空中を蹴り突っ込んでくる。
どうなっているんだ? まさか空間操作?
「え? なになに? あれ!? まるで空中に壁でもあるみたいに蹴ってるんだけど!?」
(壁?)
予想外の動きに、困惑しながらも俺は何とか動きについていけている。
そして、エルミーの言葉を聞き、今一度観察する。
よく見ると、リックの足の底には魔力が纏っていた。その足で、空中を蹴ると光の壁のようなものが見えた。
……まさか。
「良いたとえだね」
俺の周囲を弾むように跳び回りながらリックは語り出す。
「君達も使ったことあるかもだけど。魔力障壁の応用だよ」
魔力障壁。
それは、魔法とは違い魔力そのものを壁として具現化させる。物理攻撃は当然のことだが、魔法も防げる。
対魔法戦では必須となる技術のひとつだ。俺も、子供の頃から母さんから対魔法戦のためにかなり教え込まれたものだ。
「空中に薄い魔力の壁……いや板かな? うん。板を作って、それを蹴るんだ」
「魔力の壁……」
地上から空中へ。空中から地上へ。
様々な方向を自由自在に跳び回り、一瞬視界から消えて攻撃をしてくる。なんとか防ぎ切れているけど、これはやり難い。
「っと」
すると、リックは空中で静止する。
「これは魔力障壁を板状にして空中に生成して、その上に立ってるんだ。これは便利だよ? ほら、ここって雪とか氷で動き難いからさ」
魔力障壁は物理系も防げるから、立つことだってできるってことか。だけど、戦いの中でよく見ないと視認できない板状の魔力障壁を空中に生成させるなんて……。
剣士かと思ったけど、これほどの魔力コントロール。本職の魔法使いにも負けないかもしれない。
「どういう原理かはわかったけど……教えて良いのか?」
こちらとしては謎が解けてすっきりした。しかも、そういう戦い方もあるのかと知識も得た。
だが、今は戦いの最中だ。
戦う相手に自分の戦略を教えるなんて自殺行為と言える。
「ははは。別にいいよ。それで相手がもっと強くなるんだったら、僕も嬉しいからね」
これまた嘘偽りのないと言った笑顔で言い切る。
ここまでの言動でなんとなくわかってはいたけど。彼は、純粋に戦いを楽しんでいる。
「……そういうことなら」
俺は、静かにその場で軽く跳び―――空中に立った。
「こういう感じか」
「あはははっ! 凄い凄い! 一度聞いただけでもうできるなんて!」
だけど、リックほど薄くはないし、大きさもまだまだだ。
「それじゃあ……続きをやろう!!」
「来い!」
でも、それは戦っている中で少しずつ修正していけばいい。これからの戦いは、予想外なことが多いだろう。だから、新しい戦い方を学んで、取り入れて、自分のものにする。
俺には、それができる。
自信を持て。
「そぉら!!」
「はあっ!」
最初よりも明らかに気分が高揚したような表情で切りかかってくるリック。俺も、正面から応戦する。
「まだまだ!!」
まるで弾かれるかのように、後ろへ跳び、左手で何かを掴み、くるっと一回転したと思えば、弾むように天高く飛んでいく。
「うわぁ、やっぱり張ってたかぁ」
「張ってた? なになに? 知ってるの? メーチェル」
今度は、先ほどとは比較にならないほどの速度で空中移動を繰り返すリック。
「これはさっきのと似たような方法だよ!!」
弾むように空中移動を繰り返したリックは、その勢いのまま身を回転させ切りかかってくる。回避するのは困難と判断した俺は、左腕に魔力を纏わせ。
「腕で?」
攻撃を防ぎ、そのままカウンターとばかりに炎魔武装ヤミノ―を振るう。
が、跳躍することで簡単に回避される。
リックは、そのまま空中にあるなにかを左手で掴み、静止した。
「うーん。本当に素早いな、リックは」
「……君って、意外と荒っぽい戦い方をするんだね。もっと堅実な戦い方をするかと思ったよ」
「そ、そうか?」
「そうだよ! お父様! 腕で剣を防ごうだなんて荒っぽいにもほどがあるってば! 鞘に収まったままだったとしても、下手したら骨折だぞー!!」
エルミーのお怒りの言葉に、俺はごめんっと素直に謝る。
すると、それを見たリックはふっと小さく笑みを浮かべながら地上に降りてきた。
「リック?」
なんだかさっきと雰囲気が違うような。俯いたまま何かを考えている?
「あっ、これは」
メーチェルがまた知っているような反応をすると。
「ヤミノ」
「ど、どうした?」
「気に入ったよ」
「え?」
「うん。気に入った! 僕は、君のことが大好きになったよ!!!」
……なんて?