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第七話 帝国騎士団長リック

「あちゃー……やっぱりこうなってしまったか」


 なにやらメーチェルが頭を抱えている。いや、メーチェルだけじゃない。コトロッツさんも、ため息交じりに顔を手で覆っている。

 

「おー! 決闘! 決闘!!」

「むむ! お父様にいきなりの決闘の申し込み! これは……何事!? ちょいちょい。少年! どういうことか説明!!」

「説明? 僕が戦いたいからだけど?」

「わーお……普通でかつ狂気染みてる」


 エルミー同様、俺も少し彼の言葉には狂気染みているように感じた。確かに、理由は普通なのだが……メーチェルやコトロッツさんの反応を見る限り厄介なことなんだろう。


「ヤミノ! 頑張れー!!」

「え、いや。ルビア。まだ受けるなんて言ってないんだけど」

「あのー、ヤミノ様。受けない方が良いですよ? リックは戦いが好きな戦闘狂ですから」


 対応に困っているとメーチェルがぼそっと耳打ちをする。


「やだなぁ、メーチェル。僕は狂ってなんかいないよ。誰かれ構わず戦いを挑むことなんてしない。僕が挑むのは強者だけだから。僕が強くなるために」


 純粋、無垢……彼は、本当に戦うのが好きなんだと思う。

 

「……わかった」

「ちょっ、ヤミノ様!? 私達は、リア―シェン様に会いに行かなくちゃならないんですよ?」


 少し悩んだが、俺はリックの挑戦を受けることにした。それを聞いてメーチェルは慌てて、本来の目的を思い出させるように言う。

 確かに、俺達はリア―シェンに会うためにグラーチア大陸を訪れた。それは忘れてはいない。


「だけど、時間までは指定されてない。ただ会いに来いとしか言われてないだろ?」

「そ、そうですけど」


 それに、若干十四歳で帝国騎士のトップになった実力を確かめてみたい。なによりも、今後の戦いに向けて少しでも、自身の実力を向上させたい。

 一人で鍛えるのも良いけど、実践を積み重ねることでより向上するものもある。

 

「ごめん、メーチェル。少しだけだから」

「……うぅ。わ、わかりました」


 渋々身を引いてくれたメーチェルに、俺はありがとうと礼を言い再びリックと向き合う。


「勝負を受けてくれてありがとうね。それじゃあ、さっそく町の外に行こう。町中だと狭いからね。コトロッツ。君は、立会人だ。よろしくね」

「はあ……こうなってしまったら団長は止まりませんからな。よろしい。このコトロッツ。その任を引き受けますぞ! ……はあ」


 なんだかコトロッツさんも色々苦労しているんだな。

 その後、俺達は揃ってプルナンの外へ向かった。

 途中で、焼き魚の美味しそうな匂いにルビアが物欲しそうに涎を垂らしていたので、人数分を購入。ただ待たせるのも申し訳ないと思い、温かい飲み物も購入した。


 このグラーチア大陸では、当たり前の飲み物でチョチョ茶という。

 チョチョの葉というグラーチア大陸にしかない植物を煎じたもので、飲めばたちどころに体中が温まるとのこと。

 俺やエルミー、ルビアは大丈夫だが、メーチェル達は違うからな。

 ちなみに、真っ赤でちょっとどろっとしている。飲み物というよりも、スープのようなものだと思った。


「ここならいいでしょう」


 プルナンから出てすぐ、林の中へ入ってしばらく進むと拓けた空間に出た。

 なにやら戦闘痕のようなものが、そこら中にあるように見えるが……。


「ねえ、誰かここで戦ったの?」


 というルビアの問いかけにコトロッツさんが顎を触りながら答える。


「ふむ。我々が、プルナンへ向かう途中で魔物と交戦したのだ。なぁに、誇り高き帝国騎士である我々にとっては楽な相手であった」

「へぇ、おじさんって強いんだね」

「誰がおじさんか!? 失敬だぞ、褐色の少女よ!! まったくまったく……」

「えー? 褒めてるのにぃ」


 エルミーにとっては褒めているようだったが、コトロッツさんは不満の声を上げる。まあ、おじさん呼ばわりされたからだろうけど。

 悪気がない分、攻撃力は凄いようだ。


「コトロッツ。君はもう四十手前なんだから。おじさんだと思うよ? 現実を見ようよ」


 フォローを入れようかと思ったが、それよりも先にリックがこれまた純粋な笑顔で追撃を与える。


「ぐう……!? た、確かにそうなのですが……おほん!! そ、そんなことより! お二方。さっそくですが、武器を構えて頂きたい」


 これ以上何かを言えば、更に追撃がくると判断したのか。コトロッツさんは、武器を構えるように急かす。

 

「わかりました」

「ちなみに、私が立会人となった以上は、私の判断に従ってもらいますぞ。良いですな? 団長」

「うん。もちろん」

「……本当ですな?」

「えー? なんでそんなに疑うのさ」


 僕って信用ないのかな? と言うリックに、俺の隣に控えていたメーチェルは、そりゃあそうでしょ、とため息を漏らしていた。

 

「おほん! これより闇の炎の使い手ヤミノと誇り高き帝国騎士団長リックによる模擬試合を開始する!! なお、この試合において攻撃魔法の使用は禁止とする!! 両者! 構え!!」


 エルミー達は離れた場所で観戦している。俺は、見守られる中で炎魔武装ヤミノ―を構える。


「おー、それが噂の最新武器?」

「あ、ああ」

「ねえ、名前はなんていうの? まだ知らないんだよね」


 うぐ……! またか。


「そ、それは正式な発表を待って」

「炎魔武装ヤミノーだよ!!!」

「……」


 まあ、名前は開発者特権ってことで……もう無理かな。


「な、なんと!? ルビア様、その名前は本当なんですか?」


 メーチェルも当然知らなかったため、驚愕の声で問いかける。


「うん!」

「ふふん。ちなみに、開発にはこの天才美少女エルミーちゃんも関わっているのです!!」

「へぇ、そうなんだ。炎魔武装ヤミノ―か。いい名前だね」

「あ、ありがとう。作り手も喜ぶと思う」


 彼は、リックは本当にそう思っているんだろう。それは、純粋な笑顔から伝わる。


「それじゃあ、僕の剣も紹介しようかな」


 そう言ってリックは腰にぶら下げていた漆黒の剣を構える。

 だが、鞘に収まったままに。


「抜かないのか?」

「あ、ごめんね。別に手加減しようってわけじゃないんだ。……鞘から抜く時が楽しみだ」


 楽しみ。その言葉に乗せられた感情がひしひしと伝わってくる。

 期待の中に背筋がぞっとする狂気が、俺に向けられている。


「魔剣、なのか?」

「うん。これは魔剣シュヴァルゼン。僕の相棒だよ」


 やっぱり魔剣だったか。どう見ても普通の剣じゃないとは思っていたけど……魔剣使いと戦うのは初めてだな。これはいい経験になりそうだ。


「準備はよろしいですな?」


 武器を構えたところでコトロッツさんが、今一度確認をとってくる。俺とリックは、同時に頷く。


「では……始め!!!」

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