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第十二話 強くて可愛い娘

 街を出て一日が経った。

 こうして、遠出するのは久しぶりだったが、ヴィオレットとアメリアが居るおかげで楽しいものとなっている。

 

「この調子なら、王都もすぐだな」

「野宿楽しかったね、ママ」

「うん。いつも一人だったから、楽しかった」

「そういえば、ヴィオレットはずっと草木のない大地で……」

「ほとんど寝ていた状態、だったけど……それでも、ずっと一人は寂しかった」


 だよな。俺が、いや父さん達が……それ以上前からずっとあり続けていた。時折、崇める者達や研究する者達が訪れたりはしただろうけど、基本はあの何もない大地でずっと一人。

 俺が住んでいる街ができたのは、百五十年前。

 闇の炎は、あまり人が寄り付かないような場所にもあるが、ヴィオレットのように誰でも寄りつける場所で燃え続けている闇の炎も存在する。


「……えっと、今更なんだけどヴィオレット」

「なに?」

「あの日……俺が変なテンションで突っ込んできたの覚えてるよな?」

「……うん」

「正直どうだった?」


 あの時の俺は、本当にテンションがおかしかったと自分でも思っている。思い出しただけで、馬鹿じゃねぇの? と思ってしまうほどに。

 炎に抱いてもらう。

 言葉にすればめちゃくちゃおかしい。だが、闇の炎の正体がまさかあんな美人だったとは。そんな美人に抱いてなんて……。


「……」

「……」


 うぅ、沈黙。

 俺がヴィオレットだったら、なんだあの変態ってドン引きするところ。


「情熱的、だと思った」

「え? そ、そうか?」

「そして、わたしが生まれたんだよねー」


 アメリアは、俺とヴィオレットが一体化することで生まれた子供。

 なにか使命があったようだが、思い出せないようなのだ。

 けど、闇の炎を扱える者。つまり俺が現れたのは、その使命を果たす時が来たということ。それは確かなんだそうだ。


「寝起き、だったからびっくりしたけど」

「あはは。確かに、寝起きであんなことを言われたらな」


 しかもパンツ一丁で。

 本当、あの時の俺は気が狂っていたって思うよ。


「あっ、パパ。ママ。前に魔物」


 平原を駆けていると、前方に灰毛の獣が群れを成してこちらに向かってくるのが見えた。あれは、確か集団で敵を襲う魔物。

 名前は、ウィードルウルフ。主に平原や草原などを縄張りにする魔物。

 数はざっと十五ってところか。


「よし、一度馬を止めて」

「任せてパパ」

「アメリア?」

「そのまま。任せて」


 アメリアが手を振り上げると、俺達の周囲に、紫炎の矢が十五本出現する。しかも、一本一本の目の前に、あの円も。


「いけ!」


 手を振り下ろすと、十五本の矢は円へと入っていく。

 そして。


「おお」


 一気にウィードルウルフの近くに現れ、一体一体的確に矢が命中。

 

「凄いな、アメリア」

「えへへ。パパもできるんだよ?」


 アメリアのおかげで止まることなく、駆けることができた。

 そうか。

 空間操作の力を使えば、あんなことも……ただでさえ、遠距離から攻撃できる矢が、空間を飛び越えてくるんだからな。

 相手からしたら、何が起こったのかわからないまま殺されるようなものだ。


「また魔物が出たらわたしに任せて。さあ、一気に王都に行こうー!」

「……おう! 任せたぞ娘!」

「任されたー!」


 道中はアメリアのおかげで止まることなく進むことができた。

 

「よしよし、頑張ったねお馬さん」


 とはいえ、馬の体力も無限じゃない。途中入った森の中で、水辺があったので、一時そこで休憩をすることにした。

 

「はむ……」


 今のヴィオレットのサイズだと、俺にとって小さい食べ物でも大きく感じるだろう。それを必死にもぐもぐと食べている姿は、小動物のようだ。

 つい見てしまう。

 食べているのは、はちみつたっぷりの丸い菓子パンを千切ったもの。子供でも一口で食べられるものをヴィオレットは、小さな口で普通のパンのように食べている。


「ヴィオレット。今、どれくらい回復しているんだ?」

「順調……私、他の炎達と比べて燃費が悪い、から。力の制御も、下手だし」


 確かに、空間を操るなんてとんでもない力が少しの力で扱えるはずがない。それに、力の制御も相当要するだろう。

 

「でも、ヤミノのおかげで私も少しは成長できた」

「それはよかった。ほら、もっと食べるか?」

 

 食べていた分がなくなったヴィオレットに、俺は自分の分を千切り渡す。


「うん。ありがとう」


 ヴィオレットは、快く受け取り齧り始める。

 休憩を終え、また馬を走らせる。

 途中、王都からきたという荷馬車と遭遇し、今どんな様子なのかを聞いた。


「お祭りやるんだね」

 

 ついに勇者一行が、救済の旅に出る。それを祝って、王都では大々的に祭を開かれるそうだ。

 祭は、三日続くそうだ。


「今からだと、俺達が参加できるのは初日の途中からだな」

「美味しいものたくさんあるかなぁ」

「美味しいもの……」


 結局、俺も王都では何も食べていないからな。一緒に行った知り合いの商人から王都の食べ物を貰ったけど食べていない。

 あの時の俺は、精神的に参っていたからな。

 けど、今回は思いっきり堪能する。そのために王都に行くことを決めたんだから。

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