第二話 情報共有
「よーし、これで完成! やぁん! 今日も完璧!! やっぱり、何かを作る時って楽しー!!」
「わぁ、相変わらず凄いね、エルミーちゃん」
「もっと褒めてー!」
「大変です! アメリアお姉ちゃん!」
「どうしたの? ララーナちゃん」
「卵が……全然うまく割れません!!」
「ルビアもー。卵って脆過ぎるよー」
「あはは。もう、しょうがないなぁ。ミウズ。殻を取ってあげてくれるかな?」
「はい」
アメリア達が厨房へと向かったと知り、様子を見に来たら仲良く姉妹で料理をしていた。アメリアが中心に、エルミーは手先の器用さで飾り付けや加工をし、ララーナとルビアは食材などを切ったりしているのだが……中々うまくいっていないようだ。
その度に、エルミーやミウズが手助けをしている。
「ルビアちゃん! 諦めちゃだめです! 力の調整ができないなんて言い訳もしちゃだめです!!」
「うん!」
「というわけで、今度はこの野菜を細かく切りましょう!」
「おー!!」
でも、二人は全然諦めない。何度も挑戦して、役に立とうと努力をしている。
「あら? 覗き見?」
「せ、セリーヌ様……あ、いや。邪魔をしちゃ悪いかなと」
別に覗きをしていたつもりはなかったのだが、そっと陰から見ていた俺は傍から見たら覗きをしているように見えていたみたいだ。
「お、お母様。あの」
フィリア様も一緒に居て、何かを言いたそうにセリーヌ様の手を握る。その意図をすぐ理解したセリーヌ様は、彼女の背をそっと押した。
「いってらっしゃい。あっ、初めての子が居るからちゃんと挨拶を忘れちゃだめよ?」
「は、はい!!」
どうやら、アメリア達の仲間に加わりたかったようだ。笑顔で厨房へと入っていったフィリア様は、すぐルビアのところへ行きもじもじしながらも挨拶をする。
そして、挨拶が終わると仲良く食材を切る作業へ。
「凄いですね。フィリア様、あんな綺麗に野菜を」
まだ五歳だと言うのに、包丁の使い方が様になっている。これには、苦戦していたララーナとルビアもおーと感心していた。
「ふふ。フィリアは、好奇心旺盛なのよ。まだ一人で全部をやれるわけじゃないけど、食材ぐらいなら綺麗に切れるようにはなったわね」
「王族の英才教育というやつですか?」
「レノスには、フィリアに包丁を扱わせるなんて危ないですよ! なんて止められたけどね。最近は、随分と張り切ってるの。お姉ちゃんだからって」
「ははは。可愛らしいですね」
「でしょ?」
娘達が作る料理を楽しみにしながら、俺はセリーヌ様と共にその場から離れる。その時、ふと思い出したようにセリーヌ様は口を開く。
「あっ、そういえばお嫁さん達は?」
「今は、俺の中で休んでいます。……侵略者達も、いよいよ本格的に動き出そうとしているようですから」
「……詳しく聞かせてくれるかしら?」
「はい」
俺は、ザベラ砂漠であったことをセリーヌ様に話した。今まで少数精鋭と思われていたイア・アーゴントがとんでもない数になっていたことを。
白騎士ゼーノのような巨大な敵も今後投入されるだろうということも。
「なるほどね。やっぱりミウ達の予想通りだった、てことかしら」
「どういうことですか?」
「それは、ミウから説明してやる」
ミウがイド―に乗って姿を現す。
しかも、ファリーさんも一緒みたいだ。
「ミウ。発明の方は順調か?」
「誰に言っている。この天才発明家は疲れ知らず! ……まあ、精神的に疲れることはあるがな」
「ん?」
ミウが深いため息を漏らす。俺がいない間に何か遭ったんだろうか? ファリーさんは、なんだかわかるぞと言った感じで頷いている。
……まさかとは思うけど。いや、確実に疲労の原因は。
「んん! ともかくだ! 今後について軽く会議をするぞ」
「わかった」
疲労の理由が気になりつつも、俺とセリーヌ様は近くの部屋に入り軽く情報交換をした。
「なるほど。確かに、ミウの言う通りかもしれないな」
「だが、ヤミノの話から察するに。侵略者側は、戦力の増強が本格的になってきているようだな」
「となると、今後は世界中に軍隊規模のイア・アーゴントが現れるかもしれないわね」
「私達も、エメーラ様達から対抗手段である炎の力を与えられてはいるが、消耗戦となれば苦しいだろう」
永炎の絆により闇の炎の力を得た人達は、俺達と違ってすぐ力尽きてしまう。もし、ザベラ砂漠と同じ規模のイア・アーゴントが襲ってきたら対応できない。
「となれば、話は簡単だな。闇の炎の化身は、残り青だけなんだろ?」
ミウが、俺に確認をしてくる。
「確認されている、という意味では」
「なら、今後は闇の炎の化身と娘達には、襲撃報告を受けた際に一番ヤバそうなところへ一人ずつ向かってもらうことにしよう。本来エンフィリノスは、そういうことをするためにあるんだからな」
ミウの発言に、俺達は頷く。
今までは、数は少なく襲撃されたところも魔剣や聖剣などのイア・アーゴントに効く特殊な武器を持った者達が対処してくれていた。
そうじゃないところもあったけど……おそらく侵略者側も、この世界の戦力を確認しつつイア・アーゴントの量産をしていたのかもしれない。そうじゃなきゃ数で攻められて、対処し切れずもっと被害が出ていたはずだ。
「俺も賛成だ。彼女達ならやってくれる」
「ふふ。凄い自信ね」
「とはいえ、私達もただエメーラ様達を頼るばかりじゃない。せっかく与えられた力だ。抗って見せる」
ぐっと拳を握るファリーさん。フォレントリアの森での敗退が、彼の心に炎を灯した。シャルルさんから聞いているが、エメーラの炎をかなり使いこなし、矢として放つほどまでに成長しているようだ。
「―――話は聞かせてもらったぞ、お前達」
今後の方針が定まってきた。会議も一旦区切ろうかと思っていた時だった。聞き覚えのある声にドアがある方へと視線を向けると……そこには、不敵なに笑みを浮かべたファルク王が立っていた。
しかも、リオと一緒に。表情を見ればわかる。かなり緊張しているようだ。
「あら? ファルク。王城を空けてきて大丈夫なの?」
そうだ。セリーヌ様もここに居るから、今王城は王も王妃も居ない状態。絶対大騒ぎになっているはずだ。
「俺だって、たまには息抜きをしたいんだ。そもそもお前ばかり出歩くのはずるいぞ」
「ふふっ。人の上に立つ者はつらいわね」
「お前もだぞ。……さて、少し脱線したが。今後の方針は、本格的にエンフィリノスが世界中で活動する、ということでいいな?」
「はい。ですから、このことを」
「わかっている。俺やマルクスから世界に伝えておく。あ、そうそう。この子から聞いたぞ。ザベラの民達も、協力するらしいな」
そう言ってファルク王は、リオの小さな肩に手を置く。
「彼らにも、闇の炎の力を与えました。それとたくさん喋ろうぜくんと一瞬でとべるくんも渡しました」
「ちゃんと私達の魔力を登録したものよね?」
「もちろん」
「ならばよし! では、世界中への情報共有は俺達に任せろ。お前は、最後の闇の炎のところへ向かえ!」
「そのつもりです。あっ、そういえばリオ」
「は、はい!」
あははは、やっぱり緊張しているな。そりゃあ、同じ空間に王や王妃が居るからな。
「アメリア達は今、厨房に居るから行って見たらどうかな?」
他のところよりは緊張せずに済むはずだ。
「えと……ふ、フレッカちゃんは?」
「今は、俺の中で休んでるよ。だから、しばらく会うのは無理かな」
「そ、そうですか。えと、では厨房に行ってきます!!」
やはり一番仲が良いフレッカのことが気になっているようだ。しかし、会えないことを知ると逃げるように厨房へと向かっていく。
「ふむ。逃げられてしまった。ザベラ砂漠のことをもっと知りたかったんだが」
「しょうがないわよ。あなたは王様なんだから」
「あれぐらいの幼子が、王と王妃と同じ空間に居るのは酷と言うものだ。お前達は、自分の立場を考えろと何度もミウは言っているだろ」
腕組をしながらミウが言う。確かに、王族にしては結構自由だよな、この二人。
「はっはっはっは!! それに拍車をかけたのはお前だぞ、ミウ」
反論するように笑顔で、一瞬でとべるくんを取り出すファルク王。それを見て、ミウは言い返せず口を紡ぐ。
「確かに、ミウの作る魔道具は便利だ。私も、これのおかげでフォレントリアの森へ一瞬で戻ることができている」
「ふ、ふん! ミウは天才発明家だからな!!」
「さすが天才発明家。その調子で、世のために便利な魔道具をいっぱい作ってね?」
「当然だ!! 今は、ミウズの他にも優秀な助手が居るからな!! いつもの倍以上の速さで魔道具を作って見せる!!」
それはエルミーのことだろう。彼女のことをよほど気に入っているようだ。闇の炎の力だけじゃない。ミウが作る魔道具も、侵略者達への対抗手段のひとつ。
勝負をしているわけじゃないけど、俺も負けないように力をつけないとな。