第四十一話 ザベラ砂漠の未来
ども。スタイリッシュ警備員です。
活動報告にて、お待たせした書籍情報を解禁しました!
赤き闇の炎の化身であるフレッカを求めてやってきたザベラ砂漠。
そこで起こったザベラの民と侵略者マギア―との戦い……結果から言えば俺達の勝利だが、どうもスッキリしない。
それは、マギア―の残した言葉が、俺の中で引っかかっているからだ。
その場に居たフレッカや、俺の中で聞いていたであろうヴィオレットとリムエスも、口には出さないけど気になっているはずだ。
彼女達の欠落した記憶。
それを、マギア―は知っているのだから。
心がざわつきながらも、俺達は勝利を喜んだ。戦いが終わったその日の夜……オアシスでは、宴で大いに盛り上がった。
ちなみに、捕らえたモルドフ達の処遇についてだが。
「―――はっ。ぬるい奴だぜ、てめぇは」
皆が宴で盛り上げっている裏で、カルラとシンは捕らえたモルドフ達を解放していた。俺達は、遠くからその様子を見守っている。
部外者である俺達は詳しく知らないが、幸い死者は出ていないようだ。とはいえ、この過酷な砂漠で水は宝物だ。それが湧いているオアシスは、ザベラの民達にとってなくてはならない場所。
それを武力により奪い、支配しようとしていた。
本来ならば、そのまま牢獄に入れられ、場合によっては……。
「いくらでも言うといい。だが、ここは無法地帯。お前達がやったことは、ここでは当たり前のことだ」
「それに、これでも十分過ぎるぐらい処罰だと思うけどな」
「俺達が、素直に従うとでも思ってるのか?」
モルドフ達に下された処罰。それは、ザベラ砂漠からの追放だ。一度、ザベラ砂漠から出たら二度と戻ることは許されない。
「残念だが、お前達は従うしかねぇぞ? 外に連れて行ってくれる心強い人達が居るからな」
そう言って、こちらを見るシン。
俺達は、モルドフ達をザベラ砂漠の外へ送り届ける任務を受けた。空間転移を使えばあっという間に遂げることができるから。
「頭。あいつらはやばいですぜ」
「それに、この広大なザベラ砂漠を一瞬で出られるんだから従った方が」
「正直、外の世界ってのが気になってたところですからね」
「実は、俺も」
「俺もだ」
「てめぇら!! うるせぇぞ!!」
部下達は、どこかわくわくしているような様子で騒ぐも、モルドフの一喝で静かになる。
「しゃーねぇから、処罰を受けてやる。だがよ……その甘さ。この先、枷になるぜ」
「だろうな」
「カルラ……」
モルドフの言葉を肯定するカルラ。それを心配するかのようにジンは見詰める。
「だが、それでも俺は……俺の信じる道を進む。このザベラ砂漠で。ザベラの民達と共に」
「てめぇが、この砂漠の王にでもなるつもりか?」
「王、か。……それもありかもしれないな」
カルラの返しに、モルドフは目を見開く。そう返してくるとは思わなかったんだろう。
「……けっ。おい!! さっさと俺達を砂漠の外に転移させろ!!!」
その後、モルドフはつまらなそさそうに舌打ちをしたと思えば、早く転移させろと叫んでくる。
彼らの近くに寄り、予め決めていた場所へ転移陣を繋げる。
一人、また一人と転移させ、ついにモルドフが最後となった。
「じゃあな。外で悪さしたら、指名手配されるらしいからな」
「うるせえよ」
振り向くことなくモルドフは転移陣に入っていく。彼らの転移先は、近くに何もない山岳地帯。無法地帯であったザベラ砂漠では、何をしようと罰せられなかったが……外に出たら勝手が違う。
シンの言う通り、罪を犯せば指名手配をされ、冒険者や傭兵などに狙われることとなる。
「ヤミノ」
「ん?」
転移を終え、静寂に包まれた中でカルラは静かに俺の名を呼ぶ。
「俺の判断は」
「正しかった、て言えば嘘になるかな」
「……」
「俺からしたら略奪犯を逃がしたことになるから」
でも。
「でも、俺はカルラのことを咎められない。……なにせ共犯だからな」
「……すまない。そして、ありがとう」
・・・・
「さあ! 飲め! 飲めぇ!! どーした! リオ!! 全然飲んでないではないか!?」
「あうぅ……もうお腹たぷたぷだよぉ、フレッカちゃぁん」
「くははは! そうかそうか! それは何よりじゃ!!!」
勝利を祝った宴は、大いに盛り上がっていた。ヤミノ達の協力のおかげで十分過ぎる食料と飲み物が、ザベラの民達に与えられている。
砂漠から出たことがない民達にとって珍しい食べ物ばかりということもあるが、これまでずっと続いていた戦いが終わったのだ。
「……」
誰もが笑顔でいる中、一人だけ眉間に皺を寄せて考え事をしている者が居た。
「闇の炎……」
将太だ。
燃え上がる炎を中心に盛り上がっている空間から少し離れた場所に鎮座しており、その瞳は、闇の炎の化身たるフレッカ達に向けられていた。
(あの時……動けなかった。動こうとしたのに……体が言うことを聞かなかった)
将太の脳裏に浮かぶのは、ヤミノとフレッカが臆することなく白騎士ゼーノと戦っていた光景。自身も、勇者として戦おうとした。
しかし、頭でやろうと思っても、体が言うことを聞かず、そうこうしている内にヤミノ達は白騎士ゼーノを撃退したのだ。
(くそっ! 僕は勇者だぞ! 選ばれた存在なんだ! ……もう、あの時の僕とは)
世界を救うために神から選ばれた存在であるのにも関わらず、今回の戦いは全然活躍できなかった。宴が始まる前に、ザベラの民達から感謝の言葉を貰ったが、将太にはヤミノ達のついでに言われたようにしか聞こえなかったのだ。
「なーにしてるの? 勇者様」
「ティリン、か。君こそ珍しいじゃないか。僕に話しかけてくるなんて。……随分と仲良くなったみたいだね」
どこか悪循環に陥っていた将太のところにティリンが訪れる。その胸には、ミニサイズのエメーラが抱きかかえられていた。
「同じ緑として共鳴したのだよ、少年」
にへらとした表情で言うエメーラだったが、ティリンは否定的なようで眉をひそめる。
「いや、あたしらが仲良くなったのって色なの?」
「色々あるけど、とりあえず色だーねー」
「色々ってなによ」
「色々だよー」
「ほんと、掴みどころのない奴ね。……で? 随分と苦悩しているみたいだけど。ミュレットに相談とかしないのかしら?」
そう言ってティリンは、ザベラの民達と楽しそうに話しているミュレットに視線を向ける。それを追うように将太もミュレットを見詰めるが、すぐ視線を落とす。
「今は……一人で居たいんだ」
「ふーん。あっ、ヤミノ達が戻ってきたみたいね」
「……」
再びティリンの言葉に将太は顔を上げる。
視界に映ったのは、いち早くヤミノ気づき笑顔で手を振るミュレットの姿だった。
「さーて。あたしも、宴を楽しみましょうかね」
用事が済んだとばかりに、ティリンは去って行く。将太は、無言でヤミノを見詰めたまま。
「……くそっ」
ようやく三章が終わります。残り、一話か二話ぐらいでしょうか?
ちなみに四章は、ダークよりになる予定です。