第四十話 人形劇の幕引き
「うむ! これで少しはスッキリした!!」
膝をつくゼーノを見て、にかっと笑みを浮かべながらフレッカは右拳を左手に打ち付ける。
「だけど、まだ終わってない。一気に決めるぞ、フレッカ!」
「よかろう!! ―――む?」
再び動き出す前にトドメを刺そうとフレッカと共に攻撃を仕掛けようとした刹那。
『ごきげんよう。どうやら、ゼーノを倒したみたいですね』
ゼーノの兜に刻まれた赤い十字が輝き出し、開戦前に見たあの半透明の薄い板が出現する。そこには、侵略者マギア―の姿があった。
『まずは、おめでとうと祝福の言葉を送りますわ。はい、パチパチー』
「なんじゃ? まさか、自分から負けを認めるということか?」
『その通りですわ。人形劇は、これにて幕引き……わたくしとしても、十分に楽しめたので』
ずっと思っていたが、マギア―はこの戦いを心の底から楽しんでいる。まるで、本当に人形劇をしているかのように。
「まだゼーノはやられていないみたいだが」
俺がいまだ膝をついているゼーノを見詰めながらマギア―へ問いかける。
『確かに、まだ動けますが……わたくしもまだ本調子ではありませんので。この度の人形劇は、ある程度、で幕を引くことにしておりましたの』
「ほう? ご自慢の騎士がやられるまでが、お前の言う”ある程度”なのか? わしには、負け惜しみにしか聞こえんがの」
煽るように、そして面白くないと言った表情でマギア―へと発言するフレッカ。
『負け惜しみ、ですか。まあ、そう思われてもしょうがありませんわね。ですが、あなた方も本調子ではないのでしょう? なにせ、ゼーノに苦戦をしていたのですから』
「苦戦などしておらぬわ! どう見ても圧倒していたであろう!!」
『あらあら。ゼーノに投げ飛ばされて、砂塗れになったのは、どこのどなたでしたっけ? わたくし、ぜーんぶ見ていましたのよ? くすくす……』
「ぐぬぬ……!」
本当のことなだけに言い返せず拳を握り締めながらフレッカは、マギアーを睨みつける。それにしても、いったいどこから見ているんだ?
どうやら侵略者達の技術力は、俺達の想像を超えるほど発展しているようで、マギア―が使っているものも、何かしらの道具を使っているのだろう。
「……待て」
『あら? なんですの?』
ふと、俺はマギアーのとある発言に疑問を持つ。
「どうして、本調子じゃないってわかるんだ?」
まるで、本調子の……昔のフレッカ達を知っているかのような発言。……どうしてかはわからないが、俺にはそう聞こえた。
『……ふふ。どうしてと言われましても。”知っているから”としか』
「なに? お前!! わしらのことを知っておるのか!?」
フレッカを含めた闇の炎の化身達は、記憶が欠落している。そして、マギアーの言葉が本当だったとしたら……フレッカ達は、過去に侵略者達と出会っている?
少なくとも、俺が調べた歴史書には、そんなことは書かれていなかった。だからこそ、鋼鉄の獣も最初は未確認の魔物とされていたんだから。
『ご想像にお任せしますわ。わたくしは、そろそろこの人形劇に幕を引きます。……派手な花火で』
「はなび?」
どういう意味だ? と首を傾げていると、マギア―は消え、ゼーノの体が点滅するように輝く。
「まさか……!? 自爆させるつもりか!?」
「自爆!? くっ!?」
マギア―の言葉の意味を理解した将太の言葉に、俺は空間転移を使用する。
「きゃっ!? あ、あれ? ここ……オアシス?」
転移先は、オアシス近辺。
すぐさま、俺達が居た方向へ目をやると……天を貫くような光の柱が見えた。
「おー、派手じゃのー。あれがはなびというやつか?」
「い、いや。花火は、もっとカラフルで……いや、それより」
フレッカにはなびのことを説明しようとするも、すぐに止めて聖剣を鞘に納める将太。
「これで終わり、だな」
「はい! 私達の勝利です! 将太様!! あ、ヤミノ」
尻餅をついていたミュレットは、砂を掃い、俺のところへ駆け寄ってくる。
「やったな」
「うん!」
ミュレットは、にっこりと笑みを浮かべる。
「お? どうやら、出迎えが来たようじゃぞ」
「え?」
「がおおおおおおおっ!?」
「ぐああああああっ!?」
衝撃。
獣のような咆哮が聞こえたと思いきや、腹部に衝撃が走り、吹き飛ばされていた。ごろごろと体は転がり、砂塗れになるもなんとか静止する。
「いったぁ……」
「おかえり!!!」
「ルビア……あ、あはは。ただいま」
俺に突撃してきたのは、ルビアだった。だいぶ興奮しているようで、赤炎を身に纏っていた。
「もう、ルビアちゃん! パパ達は、とっても疲れてるんだから」
その後、近くにアメリア、ララーナ、エルミーが転移してくる。どうやら、エメーラはいないみたいだけど……。
「ですが、目立った傷はありません! あ、おかえりなさいです! お父さん!!」
「おかえりー、お父様。お母様は、中かな?」
「ただいま。ララーナ、エルミー」
「がううっ!!」
「よしよし。まずは、落ち着こうね。ルビアちゃん」
空間転移で俺から無理矢理ルビアを引き剥がし、がっちりと拘束しながらアメリアは頭を撫でる。
「おかえりなさい、パパ。こっちも終わったよ」
「カルラは……やったんだな」
「うん」
そっか……ちゃんと決着をつけられたんだな。完全勝利、とまではいかないけど。このザベラ砂漠での戦いは、これで終わり。
「おりょ? お父様。なんだかスッキリしてない顔だけど。だいじょーぶ?」
「ま、まさかどこか怪我を!? さあ、言ってください! すぐ治しますので!!」
おっと、娘達を心配させてしまったようだ。
「大丈夫。かすり傷程度だから。ただ、いつも以上に炎を使い過ぎたから、疲労感が凄い、かな」
「では、私が背負います! おいしょー!!」
「おおお!? ちょ、ちょっ!? さすがにこれは恥ずかしいんだけど……」
疲れているのは本当だが、背負ってもらうほどまでではない。俺は、慌ててララーナに下ろすように言おうとするが。
「くはははは! 娘達は、元気が有り余っているようじゃな! では、オアシスまでかけっこじゃ!! 誰が先に到着するか、勝負じゃー!!! わしに続けー!!!」
「おー!!」
「うおおおおおおっ!?」
「がおおおおっ! ルビアも、走るぞー!!!」
「あっ、ルビアちゃん! もう!」
「あははは。皆、可愛いにゃあ。眼福! 眼福!!」
まだ【オーバー・フレア】を解除していないフレッカが、上がったテンションのまま駆け出す。ララーナやルビアも、それに触発されてしまったようだ。
せ、せめてオアシスに到着する前に下ろしてもらわないと……。