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第十一話 王都へ家族旅行

「温かいねぇ」


 アメリアはくっつくのが好きだ。

 なので必ず一回は接触してくる。

 今日は、いつものように膝の上に乗る接触方法。だが、違うところがある。それは、アメリアがヴィオレットを抱えているというところ。

 一度やってみたかったとアメリアが言うのでやることにした。


「仲いいな、お前ら」

「ん? 珍しいな、父さんが来るなんて」

「いいだろ。たまには。それに疲れを可愛い孫を見て癒されたいんだ。それより、手紙届いたぞ。……ミュレットちゃんからだ」


 ミュレットの名前に、俺はぴくっと眉を動かす。

 父さんは、どこか渡したくないような表情で、こちらに差し出してくる。


「どうする?」

「……読むよ」


 俺は、父さんから手紙を受け取る。

 

「……」


 父さんは、そのまま去って行った。

 さっそく手紙を開封し、目を通す。

 こんなにも早いペースで手紙が届くなんて思わなかった。だから、どんな内容が書かれているのか……。


「どんなこと書かれてたの? パパ」

「要点だけを言うと……王都に遊びに来ないか、だそうだ」


 どうやら救済の旅にそろそろ出るらしい。

 そこで、旅に出る前に会いたいと。

 

「ふーん、わざわざ王都に呼び出すなんて気の利く幼馴染さんだね」


 ミュレットはまだ知らないんだ。俺が、密かに王都に行っていたことを。

 

「……行くの?」


 心配そうにヴィオレットが聞いてくる。

 何も知らないミュレットは、おそらく一度も王都に行ったことがない俺に王都を見せたいのだろう。まあ、あの時は観光って感じじゃなかったからな。

 それに、ショックが大き過ぎて目に入ったものがすっぽり抜けてしまった。

 本当なら、ミュレットとはあんまり会いたくはない。会って何を話せばいいか。それに……。


「パパ。紹介したい人が居るって書いてあるけど」

「……まあ、勇者のことだろうな」


 俺が読み終わった手紙をアメリアとヴィオレットが読んでいた。

 手紙の内容は、ただ王都に来ないかだけではなく、その時に紹介したい人が居るとも書いてあったのだ。伏せてはいるが、予想はつく。

 もしかしたら、勇者だけはなく、他のメンバーも紹介するかもしれないが。だったら、紹介したい人達と書くはず。


 だから、ミュレットが紹介したいのは一人。

 ……まあでも。


「よし、行くか王都」

「いいの?」

「ああ。つらい思い出がある場所だけど。この大陸で一番栄えている都市だからな。二人も行って見ないか?」

「それって……あの、家族旅行?」


 ヴィオレットの言葉に、俺は頷く。

 すると、アメリアはぱあっと笑顔を作る。


「家族旅行!! 行こう、パパ!!」

「うん。それじゃあ、さっそく準備しないとな」



・・・・



「本当に大丈夫か? やっぱ護衛をつけた方が」


 さっそく返事を出してから、俺は旅行の準備した。

 本来なら、馬車に、旅の護衛を金を払って依頼するのだが……。


「心配いらないって。それに今回のは、家族旅行なんだ」


 今回は、馬車も、護衛もなし。

 馬一頭だけ。

 それに荷物を積み、王都まで行くことになっている。ちなみに俺が乗ることになったのは、街一番足が速い馬。馬力が半端ないのだ。

 

「そりゃあそうだが」

「タッカル。大丈夫よ。ヤミノは、あたしが戦い方を叩きこんだ子よ? 心配いらないわ」

「……そうだな。ヤミノ。楽しんで来い」

「うん」


 俺は、先にアメリアを馬に乗せた後、続いて跨る。


「いってきまーす!」

「行ってらっしゃい、アメリアちゃん。楽しんできなさい」

「土産、頼んだぞ」


 父さんと母さんに見送られ、俺は馬を走らせる。

 

「楽しみだね、パパ」

「そうだな。ヴィオレットはどうだ?」


 アメリアに抱えられているヴィオレットに問いかけると、静かに頷いた。


「そうか。よーし! 行こう! 王都に!!」

「おー!」

「お、おー」


 俺が住んでいる街は、割と王都に近い。

 なので、何事もなければ予定より早く到着するかもしれない。馬車を使って数日だからな。早馬なら、もっと早いだろう。


「初めての遠出だね」

「アメリアは、外に出るのも久しぶりだもんな。ごめんな」


 馬を走らせながら、俺達は他愛のない会話をする。

 アメリアは、ずっと外に出ることができなかった。本当は、もっと自由にさせたいんだが。


「大丈夫だよ。それに、王都から帰ったら自由になれるんだよね?」

「もちろん。父さんや母さんも、手伝ってくれるからな」


 薄々、俺とミュレットの関係に気づき始めている。

 それにいつまでも隠し通せるものでもない。

 ……王都で。王都で、ミュレットが紹介する相手が勇者で。その関係性が、恋人、というものだったら。


(俺は、すでにもう新たな人生に傾いている。いや、進んでいるか)


 なんだかんだで嫁と娘ができてしまったが、今となっては二人とも仲良くなった。


「あ、そうだ。知ってる? パパ」

「ん? なにをだ?」

「実は、わたし達闇の炎には特殊能力があるんだよ?」


 特殊能力? それは、炎の弓矢のことじゃ、ないのか?


「えい」

「お?」


 くるっと、空中で円を描くアメリア。

 すると、見覚えのある紫炎の円が出現する。


「ママとわたしの特殊能力は……空間操作」


 そして、円の中に手を突っ込む。


「じゃーん。おやつの菓子パンだよ」


 円の中から取り出したのは、アメリアお気に入りの甘い菓子パン。

 というか。


「今、アメリアが力を使ったのか?」

「そうだよ。わたしは、ヴィオレットママの娘だもん。同じ力を持っているのは当たり前。当然パパも使えるからね。あ、ちなみに空間移動もできるよ。王都にだって一瞬なんだから」

「……マジすか」

「えへへ、マジ」

「ま、マジ」


 マジか……そんな凄い能力があったなんて。え? じゃあ、馬で移動しなくても。


「―――まあ、このまま馬で行くか」

「だよね。せっかくの家族旅行だもん」

「ご、ごめんね。秘密に、してたわけじゃないの」

「いいっていいって。よっしゃ! 気を取り直して! 王都へ!!」


 なんか、一気にアメリアが可愛いだけじゃない娘だって実感した瞬間だった。

 てことは、他の闇の炎も、そういう特殊能力持ちってことか?

 他は、いったいどんな力なんだろうか……ちょっと、いやかなり気になるんだが。

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