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第三十六話 猛き赤炎の子

「おー、なんか見たことあるような? ないようなのがいきなり来たねー」

「敵!? 敵だよね!?」


 周囲の警戒をしていたエメーラとルビアだったが、突如として空間が歪み渦が生まれた。そこから、姿を現したのは多足の生命体。

 どこかで見たことがある。そんな気がし、エメーラは小首を傾げていた。


「おや? どうやら、まだ何かが来るみたいだね」


 さらにその背後からも気配を感じ、視線をやるとまた空間が歪み渦が生まれ、イア・アーゴントの大群が出現した。

 これまで、数えれるぐらいだったが……ざっと数えても数十体は居るだろう。


「うへー。もしかして、お遊びは終わりってことなのかな?」

「うぅ……! うぅ……!」

「ん?」


 頭上から唸り声のようなものが聞こえ、視線を向けると……今にも飛び出して暴れたいという感情を必死に抑えているルビアが視界に映った。

 

「いいよ」


 ぴょんっとルビアの手から離れたララーナは、いつもの調子でルビアに言う。


「え? いいの!?」

「このままじゃ、オアシスが危ないからねぇ。それに、僕らがここに留まったのは、こういう時の場合を想定してだから」


 真っすぐオアシスへと向かってくる敵の大群を見てエメーラは語る。

 戦力が分散したところに、敵が攻めてくる可能性があるかもしれないと考えたからこそ……殲滅力があるルビアを残したのだ。

 エメーラは、もしものことがあった場合の保険。傷を癒すことができ、かつ支援もできる。


「よーし! それじゃあ、さっそく!!」


 ギラギラと闘志を燃やし、ルビアは飛び出そうとするが。


「あ、待って待って」

「ええ!? やっぱ暴れちゃだめなの!?」


 やる気を出したというのに、だめなのか? とルビアは頬を膨らませる。


「いやいや。暴れてもいいよ。ただ、ひとつだけ」

「なに?」

「壊すためじゃない。護るために暴れること」

「ん? んー?」


 さすがのルビアでも、エメーラが言ったことがおかしいことは理解できた。


「誰かのためにってこと。あいつらは、僕らを。オアシスに居る皆を襲おうとしている」

「うん」

「だからさ……僕らを護っておくれ、ルビア」

「……護る……護る……」


 何度も何度も呟きながら、ルビアは真っすぐ進んでいく。


「うう! やっぱりよくわかんない!! ……でも」


 脳裏に浮かんだのはヤミノ達の姿だった。それが、どういう意味なのか。まだ完全には理解できていないが、ルビアの体は動く。

 

「お前らを壊せば、わかるかも!!!」


 そして、一瞬のうちに両手両足に炎を纏わせ、赤き弾丸となって敵に突っ込んでいく。

 先頭に居た剣が頭から生えている多足の生命体が反応する。正面から突撃してくるルビアを切り裂かんと、頭の剣を振り下ろした。


「うがああっ!!」


 だが、ルビアは一瞬も臆することなく鋭利な刃が生えているかのような赤炎の腕を振るう。


「わっとと……なーんだ。全然柔らかいじゃん!!」


 勢いをつけ過ぎてバランスを崩す。

 自分に振り下ろされた刃は、ドロドロに溶かされた痕を残し、折れていた。それだけじゃない。ルビアが振るった腕から発せられた炎は、そのまま左へと飛び、おまけとばかりに数体ほど倒していた。

 

「なんだかつまんないなぁ……もっと強いかと思ったんだけど」


 口ではそう言うが、ルビアの炎はさらに燃え上がっていく。


「こんなんじゃ、全然燃えないよっ!!!」


 咆哮。

 ルビアを中心に、炎が爆発した。彼女を囲むように襲い掛かってきた敵も高温の炎に耐えきれず、溶けてしまっている。

 

「壊れろ! 壊れろぉ!!」


 目の前の敵を。自分に向かってくる者達を次々に倒していく。その度に、ルビアの炎はより激しく、大きく燃え上がっていく。

 そんな様子を、エメーラは遠くから見守っていた。

 

「ふーむ。とりあえずは、力をコントロールはできてるかな?」

「―――いや、あれのどこがコントロールできてるっていうの?」


 うんうん、と頷いているとティリンとダルーゴが駆け寄ってきた。


「どう見てもただ暴れてるようにしか見えねぇが」

「あれでも、マシなんだよ? ちゃーんと理性があるからね」


 フレッカと戦った時のルビアを知っているエメーラにとっては、理性があるだけ成長しているんだと感じている。


「……で、加勢するべきか? あれ」

「どうでしょうね。下手に突っ込んだら、こっちが燃やされちゃいそうよね。あたしは、魔法使いだから比較的安全だけど」

「戦士の俺は、めちゃくちゃ危ねぇって……」


 加勢に来たもののルビアの激しい戦いっぷりに、どうしたものかとティリンとダルーゴは頭を悩ませる。

 

「いや、一緒に戦ってほしいな」

「死ぬ気で突っ込めってか?」

「いやいや。……御覧の通り、ルビアは凄い力を持ってるけどさ。まだまだ戦い方が甘いんだよね。その証拠に、ほれ」

「あー、なるほどね」


 エメーラの言わんとすることを、ティリンはすぐ理解できた。

 確かにルビアは、敵を容易に倒している。

 だが、視野が狭いせいか……何体か見逃してしまっていた。特に頭上の敵など目に入っていないかのようだ。


「俺も理解した。そういうことなら、やれることはあるわな」

「そうね。じゃあ、あたしは空中の奴をやるわ」


 そう言って、ティリンは魔力を高め己の周囲に雷の大槍を十本同時に生成した。


「ダルーゴ。あんたは地上の奴ね」

「おうよ!」

「そんじゃ……【轟雷の槍】! 十連撃!!」


 雷属性の上級魔法である【轟雷の槍】を十本同時発射。

 それを開始の合図とし、ダルーゴも戦斧を構え、こちらへ向かってくるイア・アーゴントへ突撃していく。


「【グランド・スラッシュ】!!」


 極限まで強化した戦斧を振り下ろす。

 その一撃は大地をも砕き割る。

 イア・アーゴントは、防御の体勢に入るも真っ二つに切り裂かれてしまった。


「悪いね」


 ルビアが倒しそこなった敵を魔法で撃ち落としている中、エメーラは小さく呟く。


「別に良いわよ。下手に突っ込んで、こっちがやられちゃお互い気分悪いでしょ?」

「あははは。あんたって意外とわかる人なんだねぇ」

「あたしほどの常識人は他にいないと思うけど?」

「おー、言いおる言いおる」

「まあね。あっ、こらー! ダルーゴ! 右から細いのが来るわよ!!」

「なにっ!?」


 ティリンが注意するも、反応が遅れる。

 猫背型のイア・アーゴントが一体入り抜けて行った。


「ああ、もう。しょうがないわねぇ」


 ため息を漏らしながら、撃退せんとするが。


「おまかせー」


 それよりも早くエメーラが緑炎の蔓を生成し、猫背型を縛り上げる。


「おらぁ!!」


 そして、身動きが取れなくなったところをダルーゴが背後から戦斧で両断した。


「わ、悪いな」

「なんのなんの」

「へえ。案外やるじゃない。ほら、ダルーゴ! まだ来るわよ!!」

「おうよ!!」

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