第二十七話 一方、その頃
二月最後の更新となります。
うーん……三月には三章を終わらせたいところ。とはいえ、適当に書くわけにもいかない……この先の話は怒涛の戦闘回になると思うので……。
ヤミノ達がザベラ砂漠へ向かっている間も、世界は侵略者達に対抗するため動いている。
永炎の絆により闇の炎を扱えるようになった者達を中心に。
「うむ! まったく連絡がこない!! 退屈!!」
「だったら、学園長の仕事をやったらどうなんだ? あっ! それに触るな!! それにも触れるな!!」
「えー?」
「えーじゃない! ミウの邪魔をするな!! そんなに暇なら、修練でもしたらどうなんだ!?」
しかし、退屈そうにしている仙狐族が居た。
救援要請があればすぐに出られるように拠点にて待機しているシャルルだったが、あれから数時間が経つと言うのに、まったく連絡がこない。
退屈過ぎて、ミウの工房で遊んでいた。
「我が修練をしている間に、救援要請がきたらどうすると言うのだ!?」
「そんなこと、ミウが知るか」
呆れたとばかりに、ミウは魔道具の制作を再開する。
「お茶です」
「おっ、ありがたい。ついでに、甘い菓子を頼むぞ」
「そう言うと思い、こちらを。王都で新発売したほろ苦チョコケーキです」
「おー! それはいい! 渋めの茶にはぴったりだな!! どれどれ」
「はあ……」
もはや、なにも言うまいとミウはため息を漏らす。
「うまうまっ」
「……お前」
数分ほどの静寂の後、呑気にケーキを食べているシャルルに、ミウは作業をしながら話しかける。
「んー?」
「どう思う?」
「どうって?」
「侵略者達の動きだ」
ミウは、これまでのことをヤミノ達から聞き考えた。そして、ある疑問に至ったのだ。
「連中は、世界を侵略しようとしている。特別な力でないと傷つけることができない化け物を使って」
「そうだな」
「だが、あまりにもおかしい。確かに、連中が操るイア・アーゴントという鋼鉄の獣は強敵だ」
今は、対抗手段が増え、世界中に広まりつつある。ミウが現在進行形で作っている魔道具もその内のひとつだ。
炎魔武装ヤミノ―。
闇の炎の力が蓄えられた鉱石を使い、より強固に。そして、より闇の炎の伝達率を上げた代物だ。
「ならば、もっと数で攻めこめばいい。現段階で、ミウ達に対抗手段が複数あれど、まだまだ準備段階」
「そうだな。それに加えて、連中は空間転移でも使えるかのように、どこにでも現れる。もし、数百、数数千、数万もの軍勢が世界中に現われでもしたら」
想像しただけで、ぞっとする。
一体だけでも街一つが壊滅するかもしれない相手。それが、軍勢で攻めこんだりしたら……人類は、容易に滅亡するだろう。
だからこそ、ミウは疑問に思ったのだ。
「世界規模で侵略をしようという連中だというのに、現れる場所は数えられるほど。その中には、対抗手段のひとつである闇の炎がある場所が含まれている」
「……そういえば、我が対峙したあののっぺり仮面。妙なことを言っていたな」
ずずずっと茶を啜りながらシャルルは思い出す。
フォレントリアの森で対峙した仮面の男のことを。
「それもヤミノから聞いた。その仮面の男の言葉と動きからミウはこう考えた。―――連中は、侵略作戦を実行しながら、戦力を整えている、と」
「まあ、確かに。そうであるなら、不自然ではあるな」
「無計画。ミウには理解できないことだ」
「我は、ほとんど計画を立てないがな」
「学園のトップが、それはどうなんだ?」
「はーっはっはっはっはっは!! 共に働く者達が優秀なのだ!! 我、大感激!! あっ、茶のおかわりを頼む」
「はい」
圧倒的な力を持つ者がゆえの慢心か。それとも、本当に無計画だっただけなのか。謎が多い敵なだけに、まったく予想ができない。
不気味……あまりにも不気味だ。
・・・・
時を同じくして、ザベラ砂漠のとある場所。
一歩、また一歩と進む毎に、周囲の小さな石柱に火が灯っていく。
岩壁に囲まれた薄暗い地下。
そこを歩くのは、白い機械人形―――マギア―だった。
『あら? ロヴィウス、どうしたの?』
耳部分にある突起物に触れると、目の前に青白い正方形の枠が出現する。
そこに映っていたのは、マギア―と同じ侵略者の一人であるロヴィウスだった。
『こちらの準備も順調なのでね。休憩がてら、君の様子を知ろうと思ったのだよ。で? 久しぶりの人形遊びは楽しめているのかな?』
『それはもう。でも、物足りないかしらね……今の人間って、本当に馬鹿ばっかりなのかしら。せっかく力を与えたのに、すぐやられちゃって……』
はあ……と、ため息を漏らす。
『仕方がない。彼らにとって我々の力は大き過ぎるのだ』
『今日だけで、二回も手助けしたのよ? せっかくのお人形遊びが台無しになっちゃうところだったんだから』
『おやおや。それはそれは』
文句を言いつつもマギア―はくすっと笑う。
『まあ、多少のトラブルはあったけど。人形劇はフィナーレに突入するわ』
『君が注文していた物は、しっかり仕上げておいた。人型はあまり好みではないのだが、仕事はしっかりこなすのが主義なのでね。……まあ、楽しむと良い。君の心行くまで』
『ええ。そうさせてもらうわ』
そう言ってロヴィウスが映っていた青白い枠は消える。
『さあ、劇を更に盛り上げるために……特別ゲストを起こしましょう』
マギア―が辿り着いた先で待っていたのは……巨大。あまりにも巨大な鋼鉄の人形が佇む空間。崩れ去った天井から差し込む光で照らされたそれは、白金の鎧を身に纏った騎士。
『わたくしを楽しませてくださいまし。可愛い可愛い炎ちゃん達……』