第二十二話 激突する二つの太陽
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久しぶりです、この感覚……。
「そうか……じゃあ、フレッカはあの子のために」
俺が寝ている間に、起こったことをリムエスから聞いた俺は、空中で赤炎を纏った拳を叩きつけ合っている二人を見詰める。
とんでもない衝撃だ。
ぶつかり合う度に、衝撃音が鳴り響き、赤炎が空で弾ける。空中……それもかなり距離があるというのに、ここまで衝撃が届いている。
「まったく、あんなことがあったのに起きないなんて。寝坊助さんだねぇ」
「ごめん……。それで、あの子はあれでどうにかなるのか?」
「どうでしょうか。フレッカの子であるのなら、あの子も増大の能力を持っていると思いますから」
俺は、右手に赤炎を灯す。
一体化は成功している。フレッカとの繋がりも確かに感じる。そして、フレッカとの間に生まれた子供。溢れ出る力を、楽しんで使っているように見える。
フレッカも、大分大人になっているけど……楽しんでいる。どちらも一歩も引かない攻撃と攻撃のぶつかり合い。防御など不要とばかりに、ただただ攻め続けている。
「まだまだ! まだまだじゃ!! どんどん叩きつけてくるがいいぞ!!!」
「アハハハハハッ!!!」
終わりがない。
そう思わせるほどの攻撃の嵐だ。
「……」
「主」
自然と障壁の外へ出ようとしていた。
それをリムエスが止める。
「心配なのはわかります。ですが、ここはフレッカに任せてみませんか?」
「……わかった」
父親として、あの子のために何かをしたい。そう考えたら、自然と体が動いた。
動いたが、何ができる?
フレッカのように、我が子と全力で戦えるのか? これまでのことを振り返ると、俺はとことん娘に甘い父親のようだ。戦おうという考えにすら至らなかった。
だから、今まさに娘と戦うと考えて……迷ってしまっている。この迷いのまま、二人の前に出たら確実にこっちがやられる。
「パパ。大丈夫?」
俺を心配して、アメリアが右手を握ってくれた。ミニサイズになったヴィオレットを抱きかかえながら。
「……アメリア」
「ん?」
「俺って、だめな奴、だよな……」
フレッカのように全力で暴走する娘を止めるために戦えない。自分の情けなさをつい口にしてしまう。甘いだけじゃだめだ。時には、親として厳しくしなくちゃならない。
アドバイスをしてくれた何人もの先輩方から、そう言われていた。
「ううん。そんなことないよ。家族を想ってるから、迷っちゃうんだよね。そういう優しさは、とっても大事。だから、だめなんかじゃない」
「ありがとう……」
「うむ。そういうわけだからさ」
左にミニサイズのエメーラを抱きかかえたララーナが。更にその隣にはエルミーが並んだ。
「新しい家族が戻ってくるのを待ってよーじゃないか」
「だな。それと、あの子の名前も決めないとな」
「おー! なんて名前になるのか楽しみです!」
「可愛い名前にしてねー? お父様」
「あっ。み、見て。二人が」
ヴィオレットの声に、俺達は一斉に空中へ視線を向ける。さっきまで、休むことなく攻撃し続けていた二人だったが、空中で静止していた。
戦いが終わった? 違う。あれは。
「大技を出すつもり、か?」
「のようですね。ご覧ください。今まで以上に炎を燃え盛っています」
炎が、二人の体を覆っていく。それは丸く、丸く。そして徐々に大きくなっていく。
あれはまるで―――太陽。
「我が娘よ!!! やろうとしていることは同じようじゃな!!! ならば、この一撃で終わりにしようぞ!!!」
一気に大技で勝負を決める。さすが親子と言うべきか……考えることは同じようだ。
「や、やばくないか? あれ」
「……まるで太陽が二つもあるみたい」
「お母様。あたしもお手伝いしよっか?」
さすがにあれはやばいと思ったエルミーは、協力しようと声をかける。
「ええ。構いません」
「やぁん! お母様ってばがんこー!! ……え? 今、なんて?」
どうせまた断られると思っていたエルミーは、いつもの調子で言葉を返すも、予想外の言葉が返ってきた。
「今の自分は弱体化しています。あれを防ぎきるのは、難しいです。さあ、早く」
二つの太陽はますます大きくなっていく。
そして、今にも激突しそうだ。
もちろんリムエスの守りは硬い。弱体化しているとはいえ、この場に居る者達を助けられる。しかし、完全ではない。
二つの疑似太陽がぶつかり合えばどうなるか。リムエスには予想ができない。そのため、より強固な守りが必要となる。
「わは! お母様がデレたー!! あたし、感激ぃ!!」
リムエスの貴重なデレにエルミーはにかっと笑みを浮かべながら、隣に立つ。
感情に呼応するかのように、黄炎は燃え盛り、いつもより大きめの小盾が十個以上形成される。
「親子の共同作業だー!!」
「真面目にやりなさい!!」
「あたしはこれで真面目でーす!!」
リムエスの障壁を覆うように小盾は展開し、新たな障壁を生み出す。
「さあ! フレッカ!! 思いっきりやりなさい!!!」
「言われずとも!! 親として負けるわけにはいかんからのー!!!」
「うがああああああっ!!!」
ついに動き出す二つの疑似太陽。
空はすでに夕焼け。
茜色に染まる中、決着をつけるため二人はぶつかり合う。
「【エクスプロード・サン】!!!」
まさに大爆発。
いったいどれだけの炎エネルギーなのか。それがわかるほどの大爆発が空中で起こった。かなり距離があるというのに、地上にまで爆風が届いている。
「うひゃあ!? ま、まるで砂の津波です!!」
「まー、あれだけのエネルギーがぶつかり合ったんだから、こうなるよね」
フレッカ達を中心に広がっていく砂の波。
リムエスとエルミーのおかげで、俺達は吹き飛ばされることもなく無傷。だが、そこで俺はある人物のことを思い出す。
「あ、そういえば捕らえた男って」
「あっ、そういえば!」
「やべ。すっかり忘れてた……!」
俺だけじゃない。襲われていたカルラ達も男の存在をすっかり忘れていたようだ。
「だ、大丈夫」
「ヴィオレット? ……あっ」
後ろを見ると、完全に白目を向いている男が焼け焦げた状態で倒れていた。
「さ、さすがに、あの攻撃の中じゃ死んじゃうと思ったから。咄嗟のことで、最初の爆発の時は助けられなかったけど……。なんとか見つけ出して、こっちに転移させておいたの」
「さすが、ママ!」
「あ、アメリアも手伝ってくれたからだよ」
「えへへ」
「よ、よく無事だったな。こいつ」
「結構焼け焦げてるけど……」
「それは、このエルミーちゃんが作ったお手製の牢屋ですから!! 即席でも強度はばっちしなのでーす!!」
ドヤ! と緊迫した状況だというのに余裕とばかりにエルミーは胸を張る。
さすが硬化の能力だ。クレーターを作るほどの爆発を防ぐとは……とはいえ、随分と焼け焦げている。そしてしばらくは砂に埋もれていただろうから。
「大変です! 今すぐ治療しなくては!!」
男のことはララーナに任せるとして。
「……どうやら決着がついたみたいですね」
空中には、もう二つの疑似太陽はない。
そこに居たのは……ぐったりとした娘を抱きかかえたフレッカだった。さすがのフレッカでも、無傷とはいかなかったようで、服は破け、体のいたるところがボロボロだった。
その状態で、静かに地上へ下りてきたフレッカはにかっと笑みを浮かべる。
「やんちゃな娘じゃ。これから苦労するぞ、夫よ」
「……頑張るよ」