第二十話 積極的なのじゃロリ
うおおお!
三日連続更新でーす!!
寒いよー!!
「そうか……ミュレット達も」
ということは、このままザベラ砂漠で行動しているとどこかで鉢合わせるかもしれない。あの時は、まだこちらのことを知られていなかったから、普通に接することができたけど……。
今は、俺のことが。闇の炎達のことが知られているに違いない。
「……」
「……」
「……」
「……えっと、さすがに恥ずかしいんだけど」
俺が思考していると、フレッカが足りない身長を赤炎で補って、顔を近づけていた。鼻と鼻がくっつくぐらいの距離だ。
とても、とても綺麗で意思の強さを感じる真っ赤な瞳。俺が顔を逸らさないようにしているのか、その小さな両手でがっちりと固定している。まったく動かない。これは、ララーナと同じぐらい……いや、彼女の能力を考えるともっと上がるか。
「フレッカ! 主に失礼ですよ!! 離れなさい!!」
「なんじゃ、リムエス。嫉妬しておるのか?」
おそらく反応できないほどの速さで近づいたのだろう。少し遅れて、リムエスが者大きさになりフレッカを睨みつける。
だが、フレッカは余裕の表情……いや、楽しそうに笑みを浮かべていた。
「そういうわけじゃありません。距離感をどうにかしろと言っているんです!」
「む? 距離感? 特に嫌がっている様子もないし、別に良いじゃろ。これぐらい」
恥ずかしいんだけど。
「まあまあ、落ち着きなよ。リムエス。フレッカの距離感がおかしいのは昔からっしょ? 今更、あーだこーだ言ってもしょーがないって」
「エメーラよ。お前は、相も変わらずまったりしておるの。ヴィオレットは……何や妙な圧を感じるが」
「嫉妬してるのさー」
「むう……」
「ヴィオレットが?」
確かに、エメーラの隣に居るヴィオレットを見ると、いつもより目じりが下がっているような。
これにはフレッカも驚いているようで、交互に俺とヴィオレットを見てぷっと声を漏らす。
「そうか! そうか!! あのヴィオレットが……うむ! 良い変化じゃ!! お前ぇ!! やっぱりただモノではないようじゃな!! あはははははっ!!!」
「おおお、おおぉおっ?」
まるで子供を撫でるかのように満面の笑顔で俺の頭を撫でまわす。なんていうか……よく問題を起こすって言われていたけど、かなり仲間想いな良い子? って感じだ。
「さて。わしも、目覚めたばかり。この砂漠からも一歩たりとも出ておらん。ゆえに、今現在のお前達の状況を説明してくれぬか?」
「あいよー。てなわけで、ヤミノ。よろ」
「あ、俺なんだ」
ようやく解放された俺は、再び建物の中へと入り、フレッカともう一人―――リオちゃんに俺達のことを説明することにした。
フレッカが目覚めてから、これまでのことを聞いた後に。
「―――ほう。嫁に娘……」
「ほえー……」
興味深いと頷くフレッカに対して、リオちゃんはとんでもない話だったためか呆然としていた。
「つまり、わしもヤミノと婚約? いや契約? をすれば、ヤミノがわしの力を使えるうえに娘が生まれる、と言うことじゃな」
「そのとーりー。そんなわけで、レッツ婚約」
「か、軽いな……」
「結婚ってもっとこう……い、いいのかな? そんな感じで」
「やはり、俺達の常識とはかけ離れた領域にあるみたいだな」
エメーラの軽い言葉に、カルラ達はどう反応すればいいかと唸っていた。
「待ってください。フレッカとは、また今度にした方が良いかと思います。主」
「え? どうしてですか? リムエスさん。家族が増えるんですよ!!」
「あたしにも、ついに妹ができるのかぁ。でへへ……いっぱい可愛がろうっと!」
リムエスの言葉に、ララーナは驚き、エルミーはどう妹を可愛がろうかと妄想に浸る。
「これからの戦いを考えて、だね」
そんな中、リムエスの言葉を理解したアメリアが静かに呟く。
「その通りです。知っての通り、主と一体化すれば、我々は一気に弱体化します。今は、一人でも強力な味方が必要な状況。なので、やるにしても」
「さあ、ヤミノよ! わしと、子作りするぞ!!」
「フレッカちゃん!?」
「フレッカァッ!!」
リムエスの言葉など無意味とばかり爆弾発言をするフレッカに、リオは赤面し、リムエスは声を荒げる。その様子を見て、エメーラはけらけらと呑気に笑っていた。
「そう声を荒げるでない。リムエスよ、お前の言い分は理解できる。じゃが、戦力を増やしたいのであれば尚更じゃろ」
「生まれてくる子供もって、ことですか?」
「正直に言えば、子供を。それも自分の子を戦力として数えたくはないが……なあに! もし我が子が戦いたくない。怖い。やだー! と言えば、わしが代わりに戦ってやろうぞ!!」
「ですから」
「わしの能力なら、弱体化しても心配はない。お前達も知ってるじゃろ?」
フレッカの能力は増大。
あらゆるものは増やし、大きくする。確かに、この能力があれば弱体化してもどうにかなるだろうけど……。
「だとしても」
「まあまあ」
それでも、ここで一体化するのは止めておいた方が良いと口にしようとするリムエスだったが、エメーラがいつもと変わらない呑気な声で制す。
「ここはヤミノの判断に任せよーじゃないか」
「お、俺?」
「ふふ。責任重大だね、パパ。私としては、家族が増えから嬉しいんだけど」
「私もです!! ご心配なく! 妹のお世話はお姉ちゃんである私に任せてください!! お父さん!!」
「あたしも! あたしもー! いーーーっぱい!! 可愛がるからぁ!!」
娘達は、もう新しい妹ができると楽しみでしょうがないらしい。そんな眩しい目で見られたら、父親としては……。
「……」
「む? やはり心配か?」
「まあ、心配と言えば心配、かな。なんていうか、今までパターンも違うからさ」
「どういう意味じゃ?」
「えっと、ね。これまでは、炎の中で一体化したの」
ヴィオレットの言う通り、これまでは彼女達がまだ休眠状態。人の姿をしていない時に一体化をした。なので、フレッカのように人の状態で一体化を試みるのは初めてなのだ。
これまではうまくいっていたが、どうなることか。
「心配あるまい! できる!!」
「根拠はあるんですか?」
「ない!!!」
うん。清々しいほどに、良い笑顔で言い切ったな。
「フレッカァッ!!!」
「り、リムエス。お、落ち着いて……」
「あはははー、やっぱり変わらないねー、フレッカは」
なるほど。なんとなく、関係性が見えてきた。どこかしっかりもののように見えたフレッカだったけど、こうやって根拠のないことを言ったり、登場した時のように派手な攻撃をしたりして、周りを困らせていたんだろうな、たぶん。
「考えるのも必要じゃが、直感に任せて行動するというのも時にはいい方向に進む。わしは、今までそうしてきたし、これからもそうするつもりじゃ」
「それで、何度も自分達を困らせてきて」
「というわけで、ほれほれぇ。子供を作ろうではないか、我が夫よ!!」
「……」
「攻撃しちゃだめだーよ、リムエスさんや」
「が、ガード……!」
今にもフレッカに攻撃をせんと黄炎を燃やすリムエスだったが、ヴィオレットが必死に間に入ってガードしている。
「ほれ」
完全に楽しんでる。これ以上は、時間を食うだけ、か。
「頼むから、仲良くな?」
そう言って、俺はフレッカの手を握った。
すると、これまで同じように眩い光が溢れ出す。
「別に喧嘩をしているつもりはないが?」
「あ、うん」
フレッカ的には、じゃれ合っているって感じなんだな。一層にぎやかになると思うけど……どうなることやら。
楽しくもあり、不安でもある未来を思いながら、俺の意識はいつも通り闇に沈んでいく。
また目を覚ませば、新しい家族が増えている。
そう思ったのだが……今回は、いつもと違っていた。
(―――あれ? 目を覚ました? いや、これは……)
まだぼんやりとした意識の中。
視界もぼやけており、目に映る光景が曖昧だ。音も、耳に届かない。体も動かない。俺は、ただただその場に居る。
そして、視界に映ったのは……ヴィオレット、エメーラ、リムエス、フレッカの四人。
でも、どこか違和感がある。
それがどこなのかは、はっきりしない。
エメーラは、ヴィオレットに身を預けだらーっとしており、リムエスはなにやらフレッカに怒鳴っているように見える。
身動きがとらないヴィオレットは、どうしたらいいかわからず慌てている。
(これ、もしかして未来の……)
俺は、最初に夢を見ているんだと思った。
彼女達と共に過ごすようになってからの未来の光景。だとすれば、感じる違和感にも納得がいくと。
(未来……もし、今起きている戦いを終わらせたら、どうなるんだろうな)
今の生活は、本当に楽しい。充実していると言ってもいい。世界が危機的状況じゃなければ、皆ともっとまったり、ゆったりとした日常を過ごせるんだろうけど。
(ん? リムエスが、こっちを向いて何かを叫んでいる? フレッカもなんだか訴えているように感じる。あ、動いた)
リムエスとフレッカが、こちらを向いて何かを叫ぶと、ずっと動かなかった体が前へと動き出した。やっぱり、これは未来の光景なんだろうか。
そう……思ったが。
(あれ? でも、これ……なんだか視点が)
俺が感じていた違和感。
そうだ。なんだか俺が見ているんだとしたら……視点が低く過ぎる。
(じゃあ、これは)
どういうわけなのかと考えた瞬間。
再び、俺の意識は闇へと落ちた。
「ん」
「おはようございます!!!」
「……」
「あれ? おはよー!!! ござい―――ひゃうん!?」
「ララーナちゃん、め! パパの耳がおかしくなっちゃうよ」
今度は、本当に目を覚ましたようだ。そして、すぐに視界に映ったのはララーナの顔。フレッカの真似をしたのか。かなりの至近距離で、そこから大きな声で朝の挨拶をしてきた。
もう昼近いと思うんだが。
そして、俺が反応しないのでもう一度、最初より大きな声で挨拶を試みたが、お姉ちゃんであるアメリアに叱られてしまい、しゅんっとしている。
「やほー、ようやく起きたんだねぇ、お父様。意識、はっきりしてるぅ?」
次に顔を出したのは、エルミーだった。
ちょんちょんと左頬を突いてくる。
「ああ、うん。大丈夫だ。……あ、膝枕してくれてたのか。ヴィオレット」
「う、うん」
妙に心地いいと思ったら、ヴィオレットが元の姿で膝枕をしてくれていた。
「……それにしても、なんか騒がしくないか?」
ぼんやりとしたままでも、ずっと耳に届いていた騒がしい音。
まるで、誰かと誰かが戦っているような……って、まさか!?
「敵が攻めてきたのか!?」
勢いよく体を起こし、俺は周囲を見渡す。
侵略者……らしき気配はしない。
じゃあ、この戦闘音は。
「いやぁ、なんていうか。親子の触れ合い、みたいな?」
「ど、どういうことだ? エメーラ」
「ご説明します、主」
俺達のことを護っていてくれていたみたいだ。リムエスは、大盾と複数の小盾でこちらへ来る衝撃を防ぎながら、こちらに来るように視線を送ってくる。
「……あれは」
俺の目に映ったのは、赤炎同士の激突。
一人は、フレッカなのだろうが……なんだか大きくなってる。子供っぽい体型だったフレッカは、立派な大人の女性へと変わっていた。
張りのある大きな胸に、すらっとした手と足。顔つきも幼さはなく、誰がどう見てもあのフレッカとは思わないほどに成長している。まさか、能力で?
そして、そんな大人フレッカと戦っているのは、赤炎の鎧を纏った女の子。
まるでドラゴンを連想させる鎧で、翼に尻尾。両手や両足からは、鋭利な爪が生えている。
あの子が、フレッカとの間に生まれた子なんだろうけど。
「な、なにがどうなって、あんな状況に?」
完全にあれは殺し合いに近い戦いっぷりだ。親子のじゃれ合いなんてレベルじゃない。
「そうですね。あれは、主がフレッカと一体化し、一時的に眠りについた後のことです」
リムエスは、語り出した。
どうして、こんな状況になったのかを―――