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第十八話 赤炎と勇者一行

 巨大な岩々が聳え立ち、比較的に日陰がある岩壁地帯。

 そこで、フレッカとリオは一時の休憩をしていた。

 途中で巨大な甲殻類を狩ったため、食すことにした。炎で、じっくりと焼き、頃合いを見て、殻を叩き割る。すると、ほわっと湯気立つ実が姿を現した。


「うむ。良い焼け具合じゃ。はぐ……! ……おお! 中々イケるではないか!」

「……」

「む? どうした。食べぬのか? リオ」


 リオの力では割ることができないため、代わりに殻を割りぷりっとした実が出ている足を渡した。

 しかし、見詰めるばかりで一行に食べる気配がない。

 

「ま、まさか砂岩ガニーを食べる日が来るなんて、その……思わなくて」

「む? 珍しい奴なのか? あぐっ」


 目的地へ向かう途中で、熱感知に反応があったため砂漠の底から掘り出し狩った。

 フレッカにとっては、容易に狩ることができた生物だが、リオの反応を見る限りとても珍しいようだ。どんな生物なのかと、二本目の足の実に齧り付きながら、リオの言葉に耳を傾ける。


「砂岩ガニーはね。とっても臆病で、砂の中からほとんど出てこないんだって聞いたことがあるの。村に居た大人達も、本物は見たことがないって」

「本物は、ということか」

「うん。見た人が残した絵とか。たまたま足を一本だけとか」

「ほうほう? では、今回のように一匹丸々は」

「凄い、ことだと思う」

「わしにとっては容易なことじゃ。仮令、砂の中に潜っていようと。我が熱感知からは逃れられることができぬのじゃからの!! はぐ! はぐ!!」


 どうじゃ! と満面の笑みで二本目の足の実を食べ終わり、空になったものを放り投げる。


「……」

「で? そこまでのものだと言うのに、食べないのは……死んでいった者達のためか?」


 自分だけこんな贅沢をしていいのか? とても空腹なのに、リオが食べないのは死んだ村の者達……家族のことを思って。

 そんなリオを見て、優しい奴じゃ……と笑みを浮かべながら。


「―――ならば! 尚更食えぇい!!!」

「もごっ!?」


 無理矢理口の中にねじ込んだ。実は大きいが、柔らかいため先っぽだけだが、リオの小さな口に入った。


「噛め!」

「あぐっ!?」

「ほーれ、ゆっくり味わえ!」


 こくこくと頷きながら、リオは口の中にあるぷりぷりの実をゆっくり味わう。

 そして。


「んぐっ」


 なんとか飲み込んだ。


「ふ、フレッカ、ちゃん?」


 なんでこんなことを、と目で訴える。


「死んでいった者達のことを想うのは、良いことじゃ。が、それでお前が飢えて死んでしまっては村の者達も。お前の親も悲しむぞ。むろん、わしもな」

「……」


 そう言ってフレッカは、残りの実をリオに手渡す。


「今は食え。食って、腹を満たせ。死んでいった者達のためにもな」

「……うん」


 フレッカの一喝に、リオはようやく自分から食べるようになった。とはいえ、砂岩ガニ―は巨大も巨大。胃袋が小さいリオには、足の一本全部を食べるのは無理だった。

 結局、ほとんどフレッカが食べてしまった。

 

「えっと、ところで今どこに向かってるの?」

「なーに、罪滅ぼしに良いところへの。……まさか、親の仇である魔物が他の者に倒されていたとは」

「魔物、かな?」

「いいや、あの魔力の残滓だと人間じゃろうな」


 リオの親の仇であるもう一体の魔物を探していたフレッカだったが、先に何者かに倒されてしまっていた。何か遺品がないかと倒された場所へ向かったものの派手な戦闘痕があっただけで、何も残されてしなかったのだ。

 リオは、気にしていないと言ったが、それでは気が収まらないフレッカは、代わりとばかりにとある場所へ連れて行こうとしている。


「カルラさんかも」

「知り合いか?」

「うん。このザベラ砂漠で一番強い人。時々、村に食料とか水とか持ってきてくれるんだ。一緒に来るシェラお姉ちゃんとは、一緒に物語を考えたりして……」

「仲がいいのじゃな。では、次はそ奴らのところへ行くとしよう」

「あ、でも今は会えないかも」


 リオ自身は会いたいようで、残念そうに顔を歪める。


「今は、オアシスを独占しようとしてる悪い人達と戦ってるみたいだから」

「ならば、心配はいらん。その悪い人達という奴らをわしが成敗してやる」

 

 任せるのじゃ! とフレッカは満面の笑みを浮かべる。


「あはは。フレッカちゃんだったら、できちゃうかもね」

「かもではない! わしならば、必ず成敗することができる!」


 自信満々に言い張るフレッカを見てリオは小さく笑みを零す。

 

「―――さて、そろそろ向かうとするかの」


 砂岩ガニーは、ほとんどフレッカが食べてしまった。最後の一本を手に持ち、フレッカは立ち上がる。


「うん! ……って、結局どこに行くか聞けてないんだけど」


 話が脱線して、目的地を聞けていなかったことに気づいたリオは再度問いかける。


「おー、そうじゃったそうじゃった。これから向かうのは……」


 かぶっと砂岩ガニ―の実を齧り、フレッカは言う。


「わしが眠っていた場所じゃ」



・・・・



「ここが……フレッカちゃんが寝ていた場所?」

「そうじゃ」

「ほ、本当に?」

「そうじゃ」

「で、でも」

「嘘は言っておらん」

「……も、燃えてるんだけど」

「そうじゃな」


 砂岩ガニーを食べたことで、リオもいつも以上に気力と体力が増し、休むことなく目的地へ到着した。

 したが、リオは自分の視界に映る光景に動揺を隠せないでいた。

 

 燃えている。

 砂漠が燃えているのだ。


 烈火の如く、赤き炎がまるで生きているかのように燃え盛っている。フレッカが炎だということを聞いてはいたが、こんな場所で眠るなんて現実的にありえない。

 というか、まだ距離があるのに熱気で近づけない。

 ザベラの民として、砂漠の暑さにはそれなりに慣れているリオだったが、ここは比べ物にならないぐらいの熱気だ。


「すまん。寝起きについに爆発してしまっての。その残り火じゃ」

「ば、爆発?」

「しばし待て」


 このままではリオが近づけない。そう思ったフレッカは、右手をかざす。

 すると、燃え盛っていた赤炎が全てフレッカの右手に吸い込まれていく。


「うむ。これでよいじゃろ」

「す、凄い……それで、ここに何しに来たの?」

「実はの。この下にとんでもない宝があるんじゃ」

「お宝?」


 フレッカが眠っていたという場所は、砂がなく地響きがあった後のように地面が割れていた。先ほどの熱がまだ残る中、フレッカは中央と思わしき場所に移動し、立ち止まる。


「お? やはりあった」

「あったって……」


 こっちに来てみろと、フレッカに手招きされ、リオは恐る恐る近づく。

 

「穴?」

「ここに入る」

「え?」

「ここに入るのじゃ」

「え? え?」


 再びフレッカの発言にリオは戸惑ってしまう。見た限り、どこまでも続いているんじゃないかというほどに暗い。

 こんなところへ落ちてしまったら、もう二度と日の光を浴びることができないんじゃないかと不安になってしまうほどに。


「行くぞ!」

「ちょ、まっ、フレッカ―――ちゃああああああんっ!?」


 まるで一緒に遊ぼうと言わんばかりに、リオの体を抱き―――穴へと入っていく。

 

「ひいいいいいっ!?」

「わははははっ!!」


 穴に入ると同時に炎が二人を包み込む。

 滑る。どこまでも、どこまでも……時には曲がり、時にはぐるんと回転し、どこまでも滑っていく。包み込んでくれる炎は、なぜか正面だけが空いているため途中からリオは目を瞑り、フレッカに力いっぱい抱き着いていた。


「ほっと! 到着じゃ!! ……見るがいい、リオ」

「え?」


 フレッカの声にそっと目を開ける。

 視界に映ったのは……巨大な鉱石とだだっ広い水辺だった。


「どうじゃ! わしも忘れておったのじゃが、お前達にとってはとんでもない宝じゃろ?」

 

 リオは、目の前にある水を生み出す巨大な鉱石から目を放せないでいた。


「フレッカちゃん、あの石は」

「水魔鉱石。簡単に言えば、マナを吸収し水を生み出す石じゃ。これほど巨大なものはそうはないじゃろうがな」

「水を?」

「そうじゃ。この世にはマナと言うエネルギーがあるじゃろ? それは全ての生命の源。体を構築するうえで欠かせないエネルギー。そのマナは常に大気中に存在する。そのマナを吸収し水へと変換しておるのじゃ」

「凄い……」


 再び感動するリオに、フレッカは砂岩ガニ―の殻で作った容器で水を汲み、差し出す。


「……おいしい」

「十分にマナが満ちているからの」

「でも、こんなところ悪い人達に見つかったら」


 また水を独占しようとするだろう。だが、フレッカはその不安を吹き飛ばすかのように胸を張る。


「だから言ったじゃろ? そ奴らは、わしが成敗して―――む?」

「どうしたの?」


 突然フレッカは言葉を噤み、天井を見上げる。


「ここへ向かう複数の気配」

「それって」

「いや、この感じ……お前が言う連中ではない。リオよ。しばしここで」

「わ、私も行く!」

「……わかった。では、わしから絶対離れるでないぞ!!」

「うん! ……ところで、ここからどうやって地上に出るの?」

「あっ」


 意気揚々と地上へ向かおうとしていたフレッカだったが、リオの言葉に足が止まる。


「ま、まさか」

「ま、待て! い、今思い出す……! えっと……えっと……」


 必死に思い出さんとフレッカは頭を抱える。その姿を見て可愛いと思ってしまったリオだが、今はかなりの窮地。

 お願いだから、思い出して! と心の中でリオは祈った。


「そ、そうじゃ! 確か、あの辺に」


 悩むこと数十秒後。

 なんとか脱出方法を思い出したフレッカは、急ぎ足で奥へと進んでいく。そこはなんの変哲のない場所。しかし、フレッカが触れると……紫色の魔法陣が出現した。


「これで外へ出れるのじゃ!」

「本当に?」

「本当じゃ! 急げ! 気配は着々と近づいておる!!」


 フレッカの言葉を信じて、リオは共に魔法陣へと飛び込む。

 

「わっ!?」

「ふいー……出れた。もし起動しなかったら、天井を破壊することになっておった。感謝するぞ! ヴィオレット!! リムエスが作ったものは、硬過ぎて壊すのがめんどうじゃからな!!」


 それは一瞬の出来事。

 魔法陣に入った二人は、砂漠へと戻ることができた。フレッカは、魔法陣を設置してくれた仲間に感謝をしつつ、気配を感じる方向へと視線を向ける。


「さて」

「だ、誰が来るの?」


 フレッカが感じた複数の気配は、すでに肉眼で影が見えるほどまで近づいていた。

 影は四つ。

 大きさはバラバラで、隊列を組んでいるのがわかる。


「くっ!? 本当にこっちであってるのか?」

「わからない! 砂で前が」

「あー! もう! 暑過ぎるんだけど!!」

「どこか、日陰のある場所で休憩をしたいところですが……」


 近づいてきた四つの影。

 その正体は。


「ん? き、君達! もしかしてこの地の人間か?」

「マジかよ! だったら助かったが……」

「どう見ても、子供よね?」

「それに、なんだかこの辺りだけ砂がありません。どう思いますか? ―――将太様」


 勇者一行だった。

なんだか長くなりそうだったので、前後編に分けました!

次回は後編です!

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