第十七話 突然の再会
今日で連載4ヶ月となりました。
そして、累計100話。
三章も中盤に差し掛かりました。
まだまだ皆様に楽しんで頂けるように、更新していきますので、よろしくお願いします!
「―――そして、俺達はなんとか偽の逃走痕を残し、二人を分断させた。けど、思っていたより俺の傷が深くてな……」
「私が、治癒魔法を扱えれば良かったんだけど……」
「俺とシェラも、シンほどじゃなかったが怪我を負っていたからな。そこで、捕らえられている男に追いつかれて」
「それを俺達が発見した、てことか」
シンから語られたザベラ砂漠で起こっている異変。
元々は、カルラ達が優勢だったのが、マギア―と名乗る侵略者の一人が力を与えたことで、それが逆転をしてしまった。
「この武器……魔力を変換して、攻撃するみたいだね」
「しかも、ガチガチに硬いため破壊するのも苦労しそうです」
会話の最中も、ずっとマギア―が与えた武器を調べてくれていたアメリアとリムエス。
使われている素材は、おそらくイア・アーゴントと同じもの。
シンの話から、カルラの魔法で弾かれたらしいけど……その証拠となる傷痕が見当たらない。
「とはいえ」
ミニサイズのままリムエスは、黄炎を生み出し、武器の一部をなぞる。
「マジか。カルラの攻撃でも傷つかなかったのに」
「これが闇の炎の力、か」
なぞられた一部は軽く溶けていた。
「……なあ、その力。お前にしか扱えないのか?」
真剣な表情でカルラは、俺に問いかけてくる。当然のことと言えば、当然か。対抗できる力が目の前にある。その力があれば、危機に陥ろうとしている仲間達を助けることができるのだから。
「多分、無理だ」
「やっぱり、ヤミノさんしか扱えない、とか?」
シェラの言葉に、俺は首を振る。
「さっき説明していなかったけど、一応闇の炎を扱えるようにはできるんだ」
「一応、と言うことは条件があるんだよな?」
「もちろん」
俺は、永炎の絆について三人に説明した。
「なるほどなぁ。そりゃあ、無理だな」
「ああ。まだ会って間もない俺達とそれほどの絆が生まれるなんてありえない」
三人とも納得したようだが、残念な感じでもあった。絆を紡げば扱える。だが、そうしている間にザベラ砂漠は侵略者の武器を持ったモルドフ達に支配されてしまう。
「そう悔しがることはないんじゃない? 確かに相手は強力な武器を持ってるだろーけどさ。カルラは、普通に圧倒したんでしょ?」
「まあ……」
そう。エメーラの言う通り、武器は強力だが、それだけ。聞いた話だと、扱う者達が強くなったわけじゃない。
それに。
「それに、今は俺達が居る」
「きょ、協力してくれるんですか?」
「侵略者が関わっているんだ。そうじゃなくても、放っておけない」
「とはいえ、自分達は部外者です」
「……」
リムエスが言いたいのは、おそらくこうだろう。
本来はザベラの民同士の抗争。すでに第三者が介入しているからと言って、こちらも協力者を介入させ、解決させたとしても、それが後々に繋がる可能性がある。
そのため、こちらだけの一存で決定するのは良くない。
「り、リムエス。でも」
「ヴィオレット。あなたの言いたいことはわかります。主の気持ちもわかっているつもりです。しかし、こういうことはしっかりした方が良いと思います」
「……」
キッと軽く睨みながら呟くリムエスにヴィオレットは口を紡いでしまう。
「まあ、僕もリムエスの言いたいことはわかるかなぁ。一応、正義の味方みたいなことをやってるけど。皆が皆、こっちの善意を受け入れてくれるかって言えば―――ねえ?」
「……確かに、お前達の言う通りだ」
ずっと黙って、思考していたカルラがようやく口を開く。
「これは、本来なら俺達ザベラの民同士の問題だ」
「カルラさん……」
「じゃあ、どうするんだ? カルラ」
聞いた話から、実質カルラがリーダーのような存在なのだろう。実力もあり、皆から信頼されている。シンも、全てをカルラに任せるとばかりに視線を向けていた。
「……」
何かを決心したように、無言のまま席を立つ。
「侵略者の脅威も、闇の炎の力も、この目で見て少なからず理解はしたつもりだ。俺達の常識から逸脱した未知の力……」
その時の記憶を思い出すかのように語ったカルラは、ゆっくりと頭を下げた。
「仲間達は、俺が説得する。だから、俺達に……いや、俺達を助けてほしい。頼むっ」
カルラの決定に、シンとシェラも頷き、同じく立ち上がって頭を下げてきた。
「俺からも、頼む!」
「私達を助けてください!」
「主」
彼らの言葉を聞き、リムエスは俺へと振り向き、目で訴えかけてくる。
「―――もちろん、助けるよ。というか、最初からそう言っていただろ?」
俺も席を立ち、頭を下げるカルラの肩に手を置く。
「感謝する」
頭を上げたカルラは、どこか安心したかのように表情が緩んでいた。
「これで決まりですね」
「いやー、見事な嫌われ役でしたねー、リムエスさんや」
「別に……自分は、主の盾として間に入ったまでです。それと、ヴィオレット」
「な、なに?」
「先ほどは、その」
ヴィオレットを威圧してしまったことを謝ろうとしているんだろう。
「……ううん。気にしてない、から」
「そ、そうですか」
「それじゃ、さっそくカルラさん達の仲間が居るところに行こうよ、パパ」
「そうだな」
「おーい、ララーナちゃーん! エルミーちゃーん! お話終わったから、こっちに―――え? これって」
さっそく出発するために、アメリアが、外で遊んでいたララーナとエルミーを呼ぶ。
しかし、アメリアは……いや、俺やヴィオレット達、闇の炎も確かに感じた。
こちらに急接近してくる―――炎を。
「うひゃあ!?」
「いやぁん!?」
ドゴーン!!! と、轟音を鳴り響かせ、砂の大地は弾ける。その衝撃は、砂を巻き上げ、外に居た二人を襲う。
「だ、大丈夫? 二人とも。ごめんね、転移させるの遅れちゃって」
少し遅れて、砂を浴びながら二人を家の中へ転移させたアメリアは、申し訳なさそうに砂を払っていく。
「だ、大丈夫ですよ! それより、今のって」
「ぺっ! ぺっ! やぁん、砂塗れぇ……」
徐々に舞った砂が晴れていく。
俺達は、突然のことに驚きつつも、この騒動を起こした張本人と会うために外に出た。
「まさか、あちらから来るとは」
「急に来たね。どったんだろ?」
「むう……着地に失敗してしまった。おい、大事ないか?」
「あうー……ちょっと、気持ち悪い、かも……」
二人? 視界に映ったのは、二人の少女。
一人は、赤い髪の毛を左右綺麗に結んでおり、頭上にはヴィオレット達と同様に炎の輪が浮いている。アメリアよりは大きく、エメーラよりは小さい。中間ぐらいの身長で、赤い炎のマントを羽織っていた。
そして、そんな少女の傍でふらふらとしているのは、褐色の少女。
カルラ達と同じくザベラの民なんだろうけど……なんだかすごく仲が良さそうだ。
「む? おお! お前達!! 久しいのう!! なにやら、身長が極端に小さくなっておるようじゃが……うん! 気にせんことにしよう!!」
「いや、気にしなさい」
「どうせ、あんたもこーなる運命なのだー」
「フレッカも、そのいつも通りで安心、した」
「うむ! うむ!! わしは、いつも通りじゃ!! とはいえ、色々と記憶が欠落しておるし、体にも違和感がある。色々考えたが……」
久しぶりの再会に喜んでいた赤炎―――フレッカは、ふいに俺のことを見る。見た目は、小さな子だが喋り方が、独特。
違和感があるけど、まあ……シャルルさんやミウも、こんな感じだし。
「お前じゃな? ヴィオレット達の炎を灯す存在は」
「わかるんだな」
「当然じゃ。最初は、嘘かと思うたが……うむ。こうして、目の前で感じると事実なんだと納得させられるぞ、ヤミノ」
「んー? なんで、フレッカがヤミノの名前を?」
俺はまだ自分の名前を言っていないし、エメーラ達も発言はしていない。本来なら、噂などが流れてきて知った、という風に考えるところだが。
「ん? あぁ、ここへ来る前にとある四人組と出会ってな。そ奴らから聞いたのじゃ」
「四人組?」
フレッカの言葉に、俺はとある四人組を脳裏に浮かべた。
まさか……。
「勇者を名乗る小僧をリーダーとした四人組じゃ。その内の一人である聖女とやらが、お前の名を呟いたんじゃよ」