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89話 村の外れにある孤児院

 孤児院は村長の言葉通り、村の外れにあった。人が住んでいる地域から少し離れた場所を進んでいく。一応、締め固められた土の道はあるが、最早周りに建物など存在しない。


 まさに村の外れを進んでいくと、少し大きな建物が見えてくる。


「あそこが孤児院だ」


 村長がその建物を指差して言う。


「どうしてこのような所にあるのでしょうか? 不便な気がしますが」


「彼女がこの村に来た時に私も尋ねたのだが、確かあの時こちらの方が落ち着きますのでと言っていたな」


「子供たちを育てるんだったら村の皆と近い方が良い気がするけど」


 俺もカリンの意見と同じだな。というかわざわざこんな誰もいないところで暮らすのなんて物騒だし。現に今回、子供たちの失踪事件が起きているわけだし。


 村長は建物の前に立つと、コンコンと扉をノックする。


「キャルティさん、ちょっと良いかい?」


 少しして扉がガチャリと開き、中から中年くらいの綺麗な女性が出てくる。


「あら? 村長さんじゃないですか。そんなに大所帯でどうかされましたか? 村では見たことのない方々ですが……」


 そこまで言ってキャルティさんと呼ばれた女性ははっとした顔をして俺達の方を見る。いや、厳密に言えば俺達に背負われている子供たちの顔を見た。


「えっ!? まさかアル君? アル君なの!? それにこっちはアレサちゃんにブランダン君にジェーンちゃんじゃない!」


 一人一人の顔をしっかりと見てキャルティさんは子供たちの名前を呼ぶ。


「やはりそうだったか」


 村長はそう言うと、キャルティさんに尋ねる。


「キャルティさん、この子たちは君の所の子たちかね?」


「はい、そうです。依頼に出している失踪したうちの子供たちです」


 再会に感極まったのか涙を流しながらキャルティさんははっきりと孤児院の子供たちであると口にする。


「一度、子供たちの件でお話ししたいことがございます」


 リア様が涙を流すキャルティさんにそう言うと、キャルティさんは快く承諾してくれ、中へと誘ってくれる。村長は色々とやることがあるらしく、帰ってしまう。


 俺もリア様に続いて中に入ろうとするが、ふと子供を背負っているライカがその場に立ち止まって中に入ろうとしないことに気が付く。


「ライカ? どうかしたのか?」


「……別に」


 明らかに何かある奴の返事をすると、そのまますすっと孤児院の中へと入っていってしまう。


 自身の孤児院の事でも思い出していたのだろうかと自分の中で解釈して俺は最後に孤児院の中へと入る。




 ♢




「何から何まですみませんね、皆さん」


「ねえ、何しに来たの?」


「お姉ちゃん、その腰のやつなに?」


 孤児院の中に入り、部屋のベッドに4人の子供たちを寝かせて客室へと向かったのだが、その途中で子供たちに目をつけられ、現在俺達の周りに10人ほどの子供たちが群がり質問責めにあっている最中だ。


「これはね、刀っていうものだよ」


「刀? 剣じゃなくて?」


「そう、刀。似てるようでちょっと違うんだ」


 まあ、リア様やカリンが子供たちに好かれている一方で俺とライカには誰も来ないんだがな。


「皆、これからこのお姉さんたちと大事な話をするからちょっとの間あっちの部屋で遊んでいてくれる?」


「やーだー、お姉ちゃんたちと遊びたいー」


「だーめ。お姉さんたちも忙しいんだから」


 キャルティさんが必死に子供たちを説得しようとするも功を奏さず、子供たちはますますリア様とカリンに興味を惹かれていく。


 その状況を見かねたリア様が子供たちに向かってこう告げる。


「お話が終わったら遊んであげるから。このまま言うことを聞かないとお姉さんたちと遊ぶ時間が減っちゃうわよ?」


 その言葉で何とか子供たちも納得して別の部屋へと移動してくれる。


「絶対だからね!」


「分かった分かった。絶対、遊んであげるから」


 子供たちの言葉に優しく微笑んで返すリア様とカリン。そして置物のようにその状況を見守っている俺となぜか仏頂面のライカ。なんだこの格差は。


「ごめんなさいね。こんなところに来てくれる方が少ないものですから」


「いえ、お気になさらず。子供たちの笑顔を見るとこちらも元気になりますので」


「可愛いですね、あの子たち」


 リア様とカリンは子供好きなようだ。そんな一面があるとは知らなかった。


 それから、俺達は本題であるキメラの正体が子供たちであったと告げる。


「いったい誰がそんなひどいことを……」


 キャルティさんは俺達の話を聞くと、顔をこわばらせてそう呟く。


 自分の所の子供たちが攫われて魔物にさせられていたと聞けば誰だってその犯人のことを憎むだろう。なんてひどいことをしてくれたのだと。


 まさにその感情がキャルティさんからひしひしと伝わってくる。面には出さないが内心では怒りが渦巻いていることだろう。


「それにしても不思議だよね。私の能力じゃ魔物化は解けなかったのにどうしてリアの能力だと解けたんだろ」


「私にもわからないわ。ただ、声が聞こえて身を任せるままに能力を使ったらいつの間にか子供が目の前に横たわっていたもの」


「リア様にはきっと聖の力が宿っているのです」


「それは言い過ぎ。たまたま条件が合致したんだと思うわ」


 いや、これは本心なのですが。実際、前のレイジー戦でも能力強度の割にはかなりのダメージを与えていらっしゃったし。


「でもよかったです。もしリーンフィリアさんがいらっしゃらなかったらと思うと……考えたくもありません」


 それから俺達は少し話をしてリア様とカリンは子供たちの部屋へと行った。


「クロノ、話がある。来て」


「ん? 分かった」


 俺もリア様の方へ向かおうとしたところをライカに止められ、その後を付いていくのであった。

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