表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/270

83話 冒険者

 グレイスとの1件があった後、それから特に接触はなく普通に登下校をしている。クリスからの連絡も特にない。


 個人的には魔神教団のことは気になるが、リア様をないがしろにするわけにもいかず、またエルザード家が関わっているかもしれないと聞いたこともあり俺から積極的にクリスへその話題を振ることはないし、クリスも察しているのか振ってこない。


 ジオンは一応学校にはちゃんと来るようになっているが、別にこれといって前と変化があるわけではなくクリスと話していることが多い。


「眠い」


「お前はいつも眠そうだな。夜に依頼でも受けてるのか?」


「一応。昼は受けられないから」


 机の上でグテーッと倒れ伏している姿はどこからどう見てもSランク冒険者とは思えないだろう。


「ダメですよ、ライカさん。睡眠はしっかりとらないと」


「とってる。座学の時間に」


「それがだめなんですよ」


 すっかりライカの保護者のようになったガウシアが注意を促すが、本人はこれといって聞いていない様子だ。


「そういえば一度でいいからライカの仕事風景を見てみたいわね」


 唐突にリア様が言う。


「大したものじゃない。魔物を狩って売る。それだけ」


 興味津々のリア様に対してライカはそう返したのちに別に来たければ来ればいいと告げる。


「リア様が行くなら私も行きます」


「クロノも行くの? じゃあ私も行こうかな」


 俺に続いてカリンまでもが付いていくつもりらしい。カリンからしても冒険者らしいことはしていても本職の冒険者を体験はしたことが無いだろうから興味はあるのだろう。


「私はやめておきますね。母上と学長からあまり外に出歩くなと言われておりますので」


「まあ、ガウシアは王女様だから仕方がないわね」


 本来ならば護衛もなしに他国の学校に通うことすら異例とも言える措置なのだ。それくらいの制限があってもなんら不思議ではない。


「せっかくだしギルドカードも作ってみようかな。ライカ、カード発行ってどれくらい時間かかる?」


「個人情報を書いたらすぐ」


「よし、決まりね。じゃあ今週のお休みのお昼に女子寮の前で集合ね」


 ウキウキしながらリア様はそう告げる。


 それにしても意外だな。まさかリア様が冒険者に興味があるとは。


 ちょっと意外な主人の一面を見れたことに少し嬉しくなるのであった。




 ♢




「じゃあ行くわよ!」


 約束の日、リア様が元気よく歩き出す。リア様、カリン、ライカが横並びになる中で俺はそっと後ろに控えながら歩いていく。


「今から行って依頼書なんて残ってるのかな?」


 カリンのつぶやきに確かにと思う。


「人気のある依頼はない。人気のない依頼はある。いつもそう」


「ライカはそういうのあんまり気にしないの?」


「別に。変わらないから」


 ライカからすればAランクの魔物もCランクの魔物も同じ雑魚である。それすなわち、他の冒険者からすれば割に合わない依頼だとしてもライカからすれば労力は変わらないから関係ないのだ。


「でも私は強い魔物を倒した分だけ貰える報酬が多いならそっちの方が良いけどね」


「そのためには早起きしないとダメ。凄く面倒」


「まあ、Sランク冒険者は専用の依頼もありますしね。困ることはないでしょう」


「なんでクロノがそんなことを知ってるのよ」


「昔、冒険者ギルドに入ろうとした時期がありましたからね」


 当時、魔神族との戦いが激化しており、ギルド内も慌ただしかったため子供の戯言だと受け取られて冒険者になることは叶わなかったが。


「そうだったんだ。それもそうだよね」


 カリンは少し悲しそうな声を出す。俺が追放された時のことを一番把握しているからなのだろうがそこまで気負わなくてもいいのに。


 そう口に出して言いたいところなのだが、ライカへの説明が面倒なため敢えて何も言わないでおく。


「というかクロノ。どうしてまだ後ろ?」


「うん? 普通に後ろからの襲撃に備えるためだが」


 何をもっともなことを聞いてくるのだと不思議に思っていると、カリンとリア様もこちらを振り向いて不満そうな顔をする。


「前から思ってたんだけどリアに過保護すぎるよ。もうちょっと友達のように接してあげなきゃいけないと思うんだけど」


「いやだって友達っていうか俺からすれば恩人でありご主人様だからな」


「友達みたいに接してほしいんだけど」


「そう言われましても」


 どん底からすくいあげてくれたリア様に向かって敬語を使わずに馴れ馴れしくする自分を見たら殴りたくなることだろう。


 それほどに忌避感がある。


「それにしてもせめて横に並んで歩いてあげたら? ちゃんと顔を見て会話しないとリアだって楽しくないと思うよ」


「そうよ」


 ムーッと膨れ面をするリア様を見て仕方ないなと思う。元々、俺が後ろに控えるのにこだわっていたのは付き人であるということもあるがそれ以上に過去の事件が影響しているのもある。いわゆるトラウマってやつだな。


 それは直しておいた方が良いのかもしれない。わざわざ公的な場以外で後ろについて歩く必要は無いのだから。


「わかりました。では失礼します」


 リア様の後ろから変わってリア様の左隣に並ぶ。なんだか新鮮な感じだな。


 そっとリア様が俺の右腕に腕を回す。


「お、お気に召しましたか? リア様」


「ええ、とっても」


 少し動揺しながら聞いた俺の言葉に平然と返す。


 そうするとなぜかカリンがリア様の右隣から俺の左隣に来て空いている方の腕に腕を回す。


「お、お前もいきなりなんなんだよ」


「べ、別に」


 恥ずかしそうにカリンが言う。


 恥ずかしいならやるなよ。


「私の場所がない」


 ジーッと気だるげな眼でライカがこちらを見てくる。


 なに、この状況。


 後に俺の頭がパニック状態に陥ったため、二人には腕を外させてもらった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ