表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/270

64話 怪しい動き

 ある洞窟の中で、紫色のフードを着た怪しげな集団が一人の泣き叫ぶ男を囲い、怪しげな像に向かって祈りをささげている。


「だ、だれか助けてくれ! 嫌だ! 死にたくない!」


「黙れ」


 紫色のフードを着た一人の男が黒い水晶を掲げると、先程まで騒いでいた男が嘘のように静かになり、やがて生気を引き抜かれたかのようにその場に倒れる。


 その奥で気だるげな表情を浮かべている水色の髪の毛の華奢な少年が寝そべりながらリンゴを頬張っている。


「枢機卿、終わりました」


 紫のローブを着た一人の男がその少年に話しかける。


「……少なくない?」


 静かにそうつぶやくとおおよそ少年が出してはいけないほどの濃密な威圧感が報告をした男に降りかかる。


「ヒィッ」


 少年の威圧に男は腰を抜かし、その場に座り込む。


「一人ずつじゃなくてもっと大人数持ってきた方が良いと思うんだけど……怒るの面倒だし、もういいや」


 先程までの威圧感が嘘のように消え去り、少年はまた気だるげな表情を浮かべながらリンゴを頬張り始める。


「枢機卿、申し訳ありません。我々のことがどうやら感づかれてしまったようで最近能力強度がある程度高いものを攫うのが困難になっているのです」


 腰を抜かしている男に代わって壮年の男が少年に話しかける。


「へえ、それは面倒だなぁ。それでどうするつもりなんだい? 司祭」


「ザグールと申します」


「一々面倒だなぁ。結局どうするつもりなのさ。こんな微量の能力強度を本部に持って帰ったら僕が馬鹿にされるじゃないか」


 少年はザグール司祭が持つ黒い水晶を指差してそう言う。


「それにはご心配なく。ちゃんと協力者に頼んで高能力強度の者達を呼び寄せましたから」


「どこに?」


「山の奥にある屋敷にです」


 司祭がニヤリとあくどい笑みを浮かべるのを見て、少年は興味がなさそうに寝返る。


「まあ、何にせよ能力強度さえ集まったらなんでもいいから。面倒だし」


「はい」


 そうして()()()()のザグール司祭は複数の部下を連れて洞窟を出ていくのであった。



 ♢



 合宿二日目の夜、訓練も一通り終わったこの日、俺達は肝試しという学長提案のレクリエーションに興じることとなる。二人一組でペアになってゴール地点まで歩いていくらしい。


 ちなみにこっそり聞いたのだが、今回ついてくる教師がやけに多かったのはこの肝試しの準備に人手がいるからだそうだ。


「ペアは決まったか?」


「はい」


 残念ながら俺はリア様とペアではなく、クリスとペアになる。まあ、リア様にはライカがついているから余程の事が無い限り大丈夫だろうから安心だが。ちなみに今回カリンは教師側である。


「セシル会長。よろしくお願いしますね」


「よろしくね、ガウシアさん」


 ガウシアの言葉に力なく微笑み返すセシル会長。


 そういえば思っていたのだが、選考試合の後からセシル会長の元気があまり感じられなくなった。なにかあったのだろうか?


「じゃあ、始めるぞ!」


 学長の一際嬉しそうな声で開始が告げられる。


 最初にリア様とライカのペア、次にガウシアとセシル会長のペアが行く。


「次は私達だな」


 大体10分間隔で次のグループが出発する。俺達は後3分くらいかな? そう思っていると森の中からキャーという甲高い悲鳴が聞こえてくる。


「なんだ?」


 聞き覚えの無い声だが、学長には思い当たる節があるようで眉間にしわを寄せる。


「お前達、出発するのは少し待て。私が様子を見てくる」


 そう言うと、先程までうきうきしていた学長の顔が真剣そのものとなり、森の中へと消えていく。


「俺もリア様が心配だ。クリス、ちょっと行ってくる」


「おい、待て」


 俺はクリスの制止の声も聞かずに森の中へと走り出す。


 リア様が出発したのは今から約17分前くらいだ。肝試しのルートは大体500メートルくらいと考えて、その特性上ゆっくり歩いているであろうことを考えると今で半分くらいか?


 考え事をしながら走っていると目に紫色の何かが飛び込んでくる。


「おっと、もう一人学生を見つけました」


 紫色のローブに、目深にかぶった怪しい連中が8人ほど俺の行く手を阻むように立ちはだかる。


「おい、もう一人ってことは他に学生を襲ったってことか?」


「ええ、先程耳の長いエルフの女性とスタイルの良い女性を捕えましてね。彼女たちからは良質な能力強度がとれそうで満足しています」


 まずい、既にガウシアとセシル会長が捕まったのか。カリンはどこに行った?


「さあ、彼女たちを傷つけたくなければあなたも投降しなさい。さすれば助けてあげるかもしれないですよ?」


「そんなつもり一切ないだろうが」


「ええ、まあ。学生一人くらい捕まえるのは造作も無いことですしね。言ってみただけですよ」


「だろうな」


「え?」


 言葉を交わしたそのほんのわずかな時間で俺は襲撃者たちの後ろに姿を現す。


「あいにく、今急いでるから手加減はできない」


「い、いつの間に」


 知らぬ間に拳を撃ち込まれ、その衝撃で襲撃者たちは意識を手放す。


 リア様が危ない。だが、ガウシアとセシル会長はもっと危ない。


 ――リア様の横にはライカが居る。相当な手練れでもない限りやられることはない。


「先に二人を助けよう」


 俺は苦渋の判断を下し、森の中を駆けていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ